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規格外の治癒能力

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

「では、ランガクイーノさんの希望である、治癒能力についての試験を始めます」


 闘技場の一角、先ほどまで戦っていた場所から反対側。

 訓練の疲れを癒すために、大勢の冒険者が体を休めている場所に、玄白は案内される。

 そこにはフードを被った一人の女性が待っており、玄白と受付嬢の姿を見て深々と頭を下げていた。


「錬金術ギルドから、今回の見届け人として派遣されましたマーベル・ファンハートです。よろしくお願いします」

「おお、わしがランガクイーノ・ゲンパク・スギタじゃ。希望職は治癒師、よろしく頼むぞ」

「はい、よろしくお願いします。ちなみに、参考までにですが、治癒師として必要な薬品類はお待ちされていますか?」


 それぐらいは当然だろうと言わんばかりに、マーベルが玄白に問いかける。

 

「まあ、その都度調合するから構わんが。まずは、何をしたら良いのじゃ?」

「ここにいる方の疲れを取れますか? 錬金術ギルドで販売されている【気力回復ポーション】を使っても構いませんよ」

「ふむ、そのような便利な代物が売っているとは。わし、そんなの作れたかなぁ」


──ブゥン

 右手に解体新書(ターヘル・アナトミア)を生み出してから、まずは近くの戦士に歩み寄る。


「では、診察を始めようか……」

「お、お嬢ちゃんが俺の疲れを癒してくれるのか? ポーションは?」

「そんなの後でもええわ。ちと触れるぞ」


──ペタリ

 男の腕に触れる。

 すると解体新書ターヘル・アナトミアが自動的に開き、パラパラとページが捲れていく。

 そしてあるページで止まると、玄白はそこに目を通し始める。


「ふむふむ。名前はジャン。斧戦士でランクは一段。二年前にダイアウルフの襲撃を受けて、右膝が時折痺れると」

「は、はぁ? なんで俺の名前だけじゃなく、ランクや古傷までわかるんだよ?」

「ええからええから。まずはそこに横になれ。受付さんや、このものの膝を直したら、治癒能力ありと認めてくれるか?」


 そう問いかけると、受付嬢は少し困った顔で。


「査定の一つとして認めます。ですが、古傷とかを癒すためのポーションはありませんよ?」

「まあ、そんなものがあったら、世の中の怪我人は全て存在しなくなるからなあ……では、治療を始めるので、今からワシのやることを静かに見ておれよ?」


 そう告げてから、玄白は静かに瞑想を始める。


「では、術式準備!」


 玄白の言葉に呼応するように、解体新書が輝く。

 ジャンと玄白を中心に直径3mの魔法陣が生み出されると、その内部が浄化の術式によって除菌される。

 解体新書から手術道具を取り出し、麻酔を行う。

 そして麻酔が効いたのを確認すると、手術刀で膝を切開。

 膝の痛みの原因については、解体新書ターヘル・アナトミアに全て表示されている。


《古傷……どうやら膝に矢を受けた際、砕けた骨のかけらが関節の中に紛れ込んでいるようじゃな。それが歩く時とかに擦れて、痛みが走っておるようじゃな》


 魔法で膝を伸ばし、隙間から欠けた骨を取り除く。

 そして膝を元に戻してから組織の縫合、魔法により修復再生。

 最後に傷口を縫い合わせると、最後は玄白が右手を翳して傷を消し去る。

 すると、ジャンの意識もゆっくりと戻ってくる。


「な。なん……だ。意識がなくなったと思ったら、何が起きたんだ?」

「おぬしの膝の治療を行っただけじゃ。手術は終わったから安心せい。あとは、これを飲むが良い。気力も体力も回復する薬じゃよ」


 解体新書ターヘル・アナトミアから小さな小瓶を取り出し、それをジャンに手渡す。

 ジャンはそれを受け取ってから、体を起こして椅子に座る。

 古傷のあった膝を撫でてみると、痺れるような痛みがなくなっていることに気がついた。


「な、なんだこれは!! 傷が無くなったじゃないか!!」

「そんなのは良いから、早くそれを飲め!! 手術後は体力が下がっているから、それを飲んで体調を整えよ」

「そ、そうか、それは済まなかった」


 玄白の剣幕に負けて、ジャンが小瓶の液体を飲み干す。

 すると全身が淡く輝くと、彼の体に気力が湧き溢れていく。

 膝以外の擦り傷をなども全て消え、体内を巡る闘気も活性化した。


「な、な、な、なんじゃこりやぁぁぁぁぁ!!」


 叫びながらジャンが立ち上がる。

 その場で屈伸し、体を伸ばし。

 全身の動きを確認すると、玄白に向かって頭を下げた。


「術式は成功じゃよ。さて、マーベルさん、これで一人目の治療を終えるのじゃが、これは治癒師として認めてくれるのか?」

「認めるも何も、何をしたのですか? いきなり膝を切り開いたと思ったら、見たこともない奇妙な道具で何かをしているし。そんな大きな傷を薬で塞ぐし、それに、な、な、なんで貴方は神聖魔法が使えるのですか? さっきの薬はなんですか? 怪我も気力も回復する薬なんて、あの伝説の魔法薬しかないじゃないですか?」


 びっくりした剣幕で、マーベルが叫ぶ。

 ふと玄白が気がつくと、彼女の周囲には大勢の野次馬が集まっていた。


「神聖魔法? 伝説の魔法薬? いやいや、そんな大層なものではない。傷を塞いだり化膿を防ぐ魔法や、体力と気力を回復するポーションじゃよ」

「それがエリクサーなんです!! この国にだって、三本あるかないかの伝説の薬ですよ? それをこんな、むさいおっさんに与えるなんて正気ですか?」

「正気も何も、手術後は体力が低下しているから、そう言う薬を与えないとならないじゃろが」

「あ〜もう、あなたと話していると私の価値観が崩壊します!!」


 なんとか自分に言い聞かせながら、マーベルが腕を組んでブツブツと呟き始める。


「ま、まあ、今回のは承認します。そうですね、あと2人ほど、あなたの治癒師としての腕を見せて貰えますか?」

「構わんが。誰を治癒するかは、誰が決めるのじゃ?」

「こちらでご用意します……少々、お時間を貰えますか?」

「それは構わん。わしも、手術式で少々疲れているからな」


 マーベルはそれだけを告げてから、一旦その場をあとにする。

 そして玄白も、少しの間、その場でのんびりとすることにした。

 

………

……


 なんだ、あの治癒師は?

 外傷や病気を治すのは、私たち錬金術師が作り出すポーションしか存在しないはず。

 いや、あのクソッタレ教会の糞司祭たちが使える『神の雫』と言う魔法なら、同じような効果を発揮できる。

 けど、古い傷なんて、普通は治すことができない。

 それをあの治癒師は、いきなり傷を切り開いて治療した。

 しかも、わたしたちにしか作り出すことのできない魔法薬を目の前で作り出し、傷を塞ぐために神聖魔法を使う。

 それも、神の雫ではない、本当の神聖魔法で。


「なんだ、なんだなんだなんだ? あんな治癒師なんて見たことがないぞ!! 何故、秘薬を用いないで魔法薬を作り出せる? 道具も必要としないで、なんであんなに簡単に作れる!!」


 彼女の治癒は、錬金術の理から外れている。

 かといって、あの成金主義の教会の手先のような雰囲気もない。

あの若さで、なんであんな未知の治療法が使えるのか教えてほしいところです。


「とりあえずはギルドマスターに報告しないと。あの伝説の魔法薬エリクサーを、秘薬も無しに作れるなんて……是非とも、冒険者ギルドではなく錬金術ギルドで身柄を抑えないとなりませんから!」


………

……


 一時間後。

 マーベルは二人の男性を連れて、冒険者ギルドに戻ってくる。

 一人は左腕が肘から切断された元戦士、もう一人は両膝から下がないレンジャー。

 どちらも十年以上昔に、魔物の大氾濫が起きた時にモンスターに襲われた被害者。

 失われた四肢は、魔法薬や神の雫でも再生しない。

 また、王都の大聖堂の枢機卿クラスの聖職者でなくては、再生の神聖魔法を操ることができないと言う。

 にもかかわらず、マーベルはランガクイーノの治癒師適性を見るために二人を連れてきたのである。


「ち、ちょっと待ってください。流石に古傷の、しかも損傷部位の再生は不可能ですよ」

「そんなの、やってみないとわかりませんよね。ランガクイーノさん、この二人の古傷を癒してもらえますか? それが可能ならば、あなたの治癒師としての能力は錬金術ギルドが保証します。うちのギルドマスター特権で、錬金術ギルドの高ランク登録も行ってあげます」


 明らかな越権行為に、受付嬢も顔を顰める。


「残念ですが、今回は冒険者ギルドのランク認定試験です。錬金術ギルドが顔を出すことではありません。それに、ここまでひどい怪我なんて、王都の聖職者でもない限りは不可能ですし、そもそも必要な寄付額が……って、何をしているのですか?」


 受付嬢が、目の前に魔法陣を作り出している玄白に問いかける。


「いや、試験なのじゃから、これから始めるところじゃが?」


 すでに解体新書(ターヘル・アナトミア)に二人のデータは取り込んである。

 そして魔法陣が展開すると、玄白は一人ずつ、四肢再建手術を開始した。

 失った四肢についても、解体新書(ターヘル・アナトミア)の能力によって、人造人間(ホムンクルス)のパーツが作り出される。

 こうなると、玄白を止めるものはどこにもおらず、一人一時間ほどで欠損四肢接合手術は終わった。


「……ふう。流石に二人連続は疲れるのう。それで、わしの認定試験は合格なのか?」


 解体新書(ターヘル・アナトミア)から取り出したエリクサーを飲みつつ、玄白はマーベルに問いかける。

 その横では、手術が終わって体が普通に動くのか、患者の二人が体を動かしていた。


「う、うごく!! 体が元に戻った!!」

「こんな奇跡があるなんて……お嬢ちゃん、この御恩は一生忘れない!! 俺の全財産を叩いてでも、お礼をさせてくれ」

「いやいや。二人を治癒したは試験のためじゃから、御礼は必要ない。しかし、体はすぐに元のように戻ることはないじゃろうから、ゆっくりと体を馴染ませるが良い」

「「ありがとうございます!!」」


 涙を流しながら、男たちは玄白に頭を下げる。

 そんな事は気にもせず、玄白は頭を縦に振ってから、マーベルを見る。


「これで、わしの治癒師としての実力はわかってもらえたか? 合格か?」

「くっ……合格も合格、錬金術ギルドなら段位認定するレベルですよ!! なんで欠損部位の再建ができるのですか? あの腕と脚は、どうやって作り出したのですか? それに!それを繋げる魔法はなんなのですか!!」

「職業上の秘密じゃよ。一朝一夕で身につける事はできないじゃろうからな。さて、受付嬢さんや、これでわしも8級治癒師として登録されるのじゃな?」


 この玄白の言葉に、マーベルは顎が外れそうになる。

 才能の無駄遣いもいいところ、いや、玄白ほどの治癒師は、錬金術ギルドでお抱え治癒師になってもらいたいところだ。

 

「ランガクイーノさん!! あなたの腕があれば、この国で最高の治癒師を狙うこともできます。ぜひ、わが錬金術ギルドにも登録を!!」

「いやいや。わし、この後は治療院を設立するから、そっち方面には協力できそうになくてな」

「ち、治療院を? あなたの腕なら、王家お抱えの治癒師にも馴れます!!」

「ふむ、御殿医か。いや、そこまでの地位も要らん。冒険者ギルドに登録したのは、辻治療の許可が欲しかっただけじゃからな。では、手続きに向かうとしようか」


 そう告げてから、玄白はマーベルにも頭を下げてから、受付に向かう。


 そしてこの日、玄白の起こした奇跡が町中に広がった。

 奇跡の治癒師

 神の腕を持つ治癒師

 さまざまな噂が噂を呼び、やがてその声は教会や領主のもとにも届き始めた。


 

 

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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