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真実はまだ闇の中

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

 奇跡的に生き残っていたヴェルディーナ王国国王の治療のため、玄白はヘスティア王国滞在を余儀なくされている。

 今は少しでも前に、失われた王国の民の命を救いたいと考えているものの、そのために踏み出す事ができないと言う事実が、彼女に重くのしかかっている。


「……ふむ。エリクシールの治療を始めて20日、ようやく魔人核が体外排出できるレベルまで小さくなったか」


 毎日昼12の鐘が鳴る頃に、玄白はいつものように『時が遅く進む部屋』で体を癒している国王の容態を確認する。

 国王の手に触れ、解体新書(ターヘル・アナトミア)を開いでページを確認する。


 数日前までは【魔人化】という表示だった状態が、今は【魔人化進行中】に切り替わっている。

 また、心臓の横に【摘出可能】な大きさにまで縮小し、機能しなくなり始めた魔人核も感知できたので、最後の手段に出ようかと思案している。


「そ、それでは、もう国王は無事なのですね?」

「いや、今の時点で投薬を止めたら、また魔人核は成長を開始するからな。だから、速やかに国王の体内より魔人核を摘出し、呪詛返しの秘術を行使するのが良いかと思うが」

「……は?」


 素っ頓狂な声を出すスカーレット枢機卿。

 すると、彼の両側にマクシミリアンとミハルが近寄ると、ガシッと腕を掴んで玄白の近くから離れていく。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。今、体内から摘出と言いましたよね? それってつまり、国王陛下の体に傷をつけると言うことですか!」

「ですかもなにも、手術式を行うぞ。まずは、空間掌握から消毒……」


 解体新書(ターヘル・アナトミア)が光り輝くと、国王の眠っているベッドを中心に、浄化の光が降り注ぐ。

 そして玄白の横に大量の手術道具が出てくると、素早く国王に麻酔を施してから、心臓の横、肋骨の上をゆっくりと切開し始めた。


──プスッ……シュルルルル

 皮膚から肋骨へとメスを走らせ、そのまま綺麗に肋骨まで切断すると、組織をゆっくりと切り離しつつ魔人核があるのを確認した。


──ドムッドムッ

 怪しげに脈動しつつ、そこから伸びる擬似血管が国王の血管へと繋がっている。

 そこから魔素を体内に送り込み、ゆっくりと人間を魔人へと作り変えるのであるが。


「そりゃ!!」


──プシュッ

 いきなり魔人核から伸びる擬似血管を切断して縫合。

 それを次々と施して魔人核と国王の体のつながりを完全に切断すると、それを取り出して皿の上に置く。


「さて、ここからは手抜きさせてもらうか」


 切断した組織や肋骨を、順にエリクシールにより接合。

 さらに消毒と活性化をほどこしてから体表面の皮膚まで全てを修復すると、最後に水指しで国王にエリクシールの原液を一口だけ注ぎ込む。


──フォォォォォォォォォン

 淡い光が国王の全身から発せられ、やがて静かにとまっていく。

 

「ほれ、手術式は成功じゃな。これが呪詛によって作り出された魔人核じゃよ」


 玄白の手術式をただ見守ることしかできなかったスカーレット枢機卿は、ようやくマクシミリアンたちから解放され、国王の元へと近寄る。

 そして顔色や呼吸が穏やかになっているのを確認して、改めて安堵の表情を見せていた。


「30日は絶対安静と仰っていましたのに」

「まあ、予定よりも回復が早かったこと、魔人核が剥離可能になっていたので時間短縮のために外科処置を施したまでじゃな。そりゃ」


──ダバダバダバダバ

 摘出した魔人核にエリクシールを注ぐ。

 するとシュウシュウと煙を吐き出しながら、魔人核が消滅していった。


「予定よりも10日ほど早かったが、これにて国王の治療は完了じゃよ。あとは目が覚めてから、栄養を摂らせてあげると良い」

「本当に……ありがとうございます」

「いや、病人を放り出していくわけにもいかぬしな。まあ、この程度ならあとほ錬金術ギルドの回復薬で事足りる。エリクシールは必要ないじゃろ」


 チラリとベッドの方を見る。

 国王以外にもあと三人、治療が必要な患者はいる。

 ヴェルディーナ王国の公爵家の当主とその娘、そして国王の孫娘の三人が、まだ病に倒れたまま。

 なので国王の治療を終えてから診察してみるが、残りの三人はまだ外科処置を行えるまでに回復していない。


「この三人はまだ掛かるか……」


 腕を組み考え込む玄白。

 すると。


「ランガクイーノ殿か……我が命を救ってくれたことに感謝する……」

「陛下!!」


 まだ力無く弱々しい声ではあるが、国王が意識を取り戻して玄白に声をかけていたのである。


「むむ、もう意識が戻ったか……まあ良い良い、医者が病人を癒すのは当たり前のことじゃから、頭を下げられる謂れはない。それよりも、ヴェルディーナ王国の陥落について、何が起こったのか元気になってから教えてくれるか?」

「うむ……今暫くは、孫達の治療に専念してほしい。そののち、何が起こったのかを説明しよう……」


 そう告げて、国王はまた眠りにつく。

 

「では、騒がしくしていると回復の邪魔になる。今日はこれで失礼するぞ」

「ええ、また明日、よろしくお願いします」


 スカーレット枢機卿に見送られて、玄白たちは教会をあとにする。

 そして一旦、自宅へと戻って体を休めると、午後からは街の中の怪我人や病人の診察に戻るかことにした。


 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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