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葛藤、そして助けるべき人々

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

 マフカラス領領都・ドスカラス。


 カネック王の孫の命を助けた玄白とその一行は、今度は死者蘇生のために必要な素材である『不死鳥の羽根』についての情報を探していた。

 しかし残念なことに、それらしい情報は殆ど手に入らず、ただ無駄に六日間の時間を消耗してしまった。

 それでも孫娘であるアスカの容態は良好であり、五日目には屋敷の中庭をのんびりと散策できるまでに体力は回復していた。

 そして六日目の朝、玄白たちはアスカやマスカラス伯爵に挨拶をして、再びヘスティア王国へと逆戻りしていく。


 その目的は、ヘスティア王国に避難しているらしいヴェルディーナ王国の人々を治療するため。

 そして、あの滅びし国の顛末を玄白は知りたかった。

 竜の素材、そしてその卵を欲した強欲な貴族たち。

 そればかりか玄白のエリクシールにも目をつけ、彼女を捉えて隷属しようとした国。

 かろうじて逃げ延び、そこからは果てが見えない逃亡の日々を送っていたある日、玄白たちは旅の途中でヴェルディーナ王国が魔族により滅ぼされたことを知った。


 本来ならば助ける必要もない国。

 だが、嫌な思い出だけではない。

 貴族たちは気に入らないが、あの国には確かに罪なき人々も大勢住んでいた。

 直接、玄白が起こした事件で滅んだわけではないが、せめてオリオーンの街の人々だけでも助けたい。

 その想いは、ずっと心の中に楔のように突き刺さっていた。


「あの街の人々は、優しい人たちが多かった……確かに国に仕えていた騎士たち、そして領主はワシの持つ力を欲ししてたのじゃが、それだけじゃない……不死鳥の伝説が本当であるのなら、ワシは死者蘇生の儀を身に付け、その人たちだけでも助けたいのじゃよ」

「同行しますよ。まだスタークたちは西方から戻ってきませんし。手紙が届いて、今は戦場が魔王国が罠さがったそうで、そこからパルフェノンへと向かう平原が戦場になったそうですから」

「マチルダさんたちは当面は帰れないそうです。ですから、スギタ先生の手伝いは私たちが引き続き行いますので」


 力強い二人に支えられ、玄白は再び川を越え大渓谷の上へと向かう。

 そして翌日には、ヘスティア王国へと辿り着くことができた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ヘスティア王国王都

 獣人と幻獣種の国であるヘスティア王国には、人間は殆ど存在しない。

 ごく稀に王国から許可を得た商人たちが出入りしてある程度であり、玄白たちは町の中を歩いているときにさまざまな視線を浴びることになった。


「それでスギタ先生。どこに向かうのですか?」

「うーむ。まずは冒険者ギルドか? それとも商業ギルドか……ヴェルディーナ王国の避難民の受け入れの窓口がどこなのかさっぱり分からんからなぁ」

「どっちかに行って話を聞いた方がいいですね。それだけ大きな事件が起きているのなら、何かしらの情報があってもおかしくはありませんから」


 マクシミリアンの提案。

 それに玄白もミハルも同意見であったため、3人はすぐに近くにあるギルドへと向かう。

 そして避難民の受け入れについての説明を聞くと、どうやらこの王都ではなく国内の安全な場所に移動していること、そのために必要な転移の割符は王城で発行しているらしく、それを手に入れなくてはならないことなどを説明される。


「今度は王城か。まあ、ワシらのような外様がおいそれと会えるとは思えんからなぁ」

「ダメ元で事情を説明するとよろしいのでは? それにトライアンフ王は不死鳥の種族でしたよね? 少しでもヒントがもらえるのなら、接見を申し込んでみるのも良いかと思いますよ?」

「不死鳥……そうじゃったな」


 なにはともあれ、まずは王城へと向かう。

 東方諸国連合の貴族法により、国王及び王城勤務関係者との謁見、その許可を取るためには王城外にある元老院もしくは貴族院への謁見許可申請が必要。

 そのために玄白たちは許可申請を提出、速やかに受理されて翌日の昼には国王との謁見許可が降りたのである。


………

……


──王城近郊、商業区画・マクベス亭

 市街区を縦横無尽に走る乗合馬車の管理運営を行なっているマクベス商会。

 その始発駅にある宿屋に、玄白たちは宿泊していた。


「ふぉぉぉぉぉおぉ。ようやく体の疲れが取れたわい」


 まだ日が登り始めたばかりの宿の外。

 体をほぐすために玄白は宿から飛び出して、軽く運動をしている。

 中継都市オリオーンでスタークたちに学んだ体術、その訓練は日課として朝一番で行っている。


「さて。この日の向こうがオリオーンか。まさかヘスティア王国とオリオーンが山脈を挟んで隣り合わせだとは思わなんだわ」

「ヴェルディーナ王国が東西に細長いせいですからね。王都は王国東部、オリオーンは王国西部ですから」

「おお、ミハル殿か。おはようじゃ」

「はい、おはようございます。大陸東部は山脈とか渓谷が多くて、国境もかなり曖昧になっていますから。このヘスティアの東部には、アルカンフェル大山脈がありまして、それがヘスティアとヴェルディーナを隔てていますからね」


 地面に地図を書いて説明するミハル。

 こと細かい地図などは王国でも秘匿されているためやることができず、一般的に出回っている地図は商業ギルドが発行している商用街道などを参考にして作られた簡易地図のみ。それでも、旅人や冒険者には役立つため数多くの地図が書写されて出回っている。


「ふむ。東方はなかなか忙しい地形なのじゃなぁ」

「それでも魔王国との隣接区域に比べたら安全だよ? あのあたりは希少な素材を取るために無謀な冒険者たちがいく程度だからさ」

「それは魔王国の人間もなのか?」

「そう。隣接区域の魔獣たちは、魔族でも手を焼いているから。だから比較的に魔獣が出ない西方諸国との緩衝地帯やメメント大森林を手に入れたいんだろうね」

「そうなると、ヴェルディーナから逃げ延びてきた人々が暮らす地は、このヘスティア王国が安全ということか」


 国土のほとんどが森林に覆われ、しかも世界樹によって守られた土地。

 ここならば、ヴェルディーナから逃げ延びた人々が暮らすことができる。

 玄白はそう考えつつも、早く避難してきた人たちの元へ駆けつけたいと心が早いていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ヘスティア王国王城

 約束の謁見の時間。

 玄白たち三名は、宮廷執務官の案内により、謁見の間へと案内される。

 特段、儀礼的なしきたりもなく普通に室内に案内されると、数段高い場所にある玉座に座る男性に頭を下げる。


「私がヘスティア王国国王のトライアンフだ、頭を上げて構わない」


 トライアンフ王の低音響く声に、一同はゆっくりと頭を上げる。


「さて、諸君がここにくるのは、すでに神託により伝えられている。後ほど転移の割符は渡すゆえ、今は何かといたければ話すが良い」


 それならばと、玄白はトライアンフ王を見上げつつ話を始める。


「魂すら蘇生する秘薬。その製法を教わりたく思います」

「ほう、つまり君が杉田玄白か。魂すら蘇生するということは、ヴェルディーナの災禍により亡くなった者たちを助けたい、そういうことだな?」

「王のおっしゃる通りですじゃ。すでにマスカラス領では、死者蘇生の秘薬でもある不死鳥の羽根に触れることができました。何卒、お力を与えていただきたく」


 その玄白の問いかけに、トライアンフ王は顎に手を当てて考える。


「必要なものは、『真なる不死鳥の羽根』、失われし魂を再生する『氷結花の蜜』、『世界樹の葉』、『老齢なる一角獣の角』、そして『古竜の血』。それらを集める必要があり、それ無くしては魂の蘇生など不可能。ヴェルディーナの災禍となると、それに加えてあの大地の呪いを解き放つことも必要」

「素材のありかを教えられるなら、ワシはそれを探す旅に出ますじゃ……」

「旅……か。ワシとしては、スギタ殿には『迷いの街』へ向かい、そこで毎日やってくる避難民の保護と治療をお願いしたかったのだが」


 毎日?

 そんなに頻繁に避難民がやってくるのか?

 それはどこから、どうやって?

 そう問いかけようとしたものの、保護と治療をと言われると玄白としても心が鷲掴みになったような苦しさがある。


 自身の手で助けたい。

 素材を探す旅にも向かいたい。

 だが、この他にもまた、多くの人々が集まってくる。


「まあ、まずは迷いの街へ向かいなさい。そこで治療が必要なものを助けてから、また考えるが良い……」

「ありがとうございます」


 最後に一礼してから、玄白たちは謁見の間を後にする。

 そして渡された転移の割符を持って、王都入り口の転移門へと向かうことにした。

 


 

 


 

 

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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