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森を抜けて、やってきた場所

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

 マスカラス領へ向かうために必要なルートは、この広大な森林地帯を抜けた先にあるヘスティア王国を経由し、大渓谷を下って行くルートのみ。

 

 そのために玄白は森の中を歩いて……もとい、身体強化魔法を駆使して森の中を疾走していたのだが、すでに魔法を使用して半日が経過している。 

 以前、霊峰の森を疾駆したときでさえ、このぐらい走っていれば目的地は見えてくるはず。それなのに、本来ならばもう到達していてもおかしくない距離を、延々と走り続けている。


 そのため、玄白は一旦停止し、森の中にある開けた場所にやってくるとマクシミリアンたちと話し合いを始めた。


「ハァハァハァハァ……スギタ先生、少し休ませてください」

「も、もう無理、足が動かなくなります……こんなに長時間の身体強化なんて、久し振りすぎますよ」

「そうじゃろうなぁ……ということで、これを飲むが良い」


 解体新書(ターヘル・アナトミア)からエリクシールを2本取り出し、それを二人に手渡すのだが、それを受け取った二人は困った顔になっている。


「身体の疲労なら、少し休めば回復するのですけど」

「そうそう。なんか、スタミナポーションの代わりにエリクシールを飲むのって、違うような気がするのですけど?」


 怪我を伴わない疲労ならば、錬金術ギルドで販売されている『スタミナポーション』で回復出来る。もっとも、疲れが全て癒やされるわけではなく、一時間ほどの休憩を一本の魔法薬で補うという感じなのであるが。

 エリクシールだと完全回復し、すぐに全力疾走も可能となる。

 現代人ならば、翼を授かったように元気になれるというところであろう。


「はっはっはっ。まあ、ちょっと試したいことがあるのじゃよ。だから、それを飲んだらまた走り出すので、ついて来てくれるかな?」

「そういうことなら……グビクビッ!!」

「ゴキュゴキュ……ぷはぁぁぁぁ。美味しい」


 二人同時にエリクシールを飲み干すと、その効果が発動したのか、全身が淡く輝いてきた。


「それじゃあ、ちょいと実験など」


 解体新書(ターヘル・アナトミア)から羊皮紙を取り出し、そこにスラスラと文字を書き出す。

 内容はなんのことはない般若心経、それを丁寧に折りたたみ、別に取り出した小さな袋に収めると、それを開けた草原地帯の真ん中あたりに埋めておく。


「さて、それでは参ろうかな。少ししたらまた休憩を挟むのでそれまでは頑張ってくれ」

「はいはい。こちらはいつでも行けますよ」

「もうね、元気いっぱい!!」


 玄白の言葉でマクシミリアンとミハルも立ち上がると、玄白は三人まとめて身体強化の術式を施し、再び全力で走り出す。

 風のように森の危機の間を抜け、途中で襲いかかる魔獣を無視して潜り抜けると、30分後には再び開けた場所に辿り着いた。


「ふむ、休憩でも挟むかの?」

「今度は随分と早いので……と、何をしているのです?」


 マクシミリアンが問いかける中、玄白は草原の真ん中あたりまで進む。

 そして、土を被せて埋めた跡があるのを発見すると、そこを掘り起こして見覚えのある袋を土の中から拾い上げた。

 そして中を見ると、つい30分ほど前に玄白が書いた般若心経かわ出てくる。


「予想通りか……マクシミリアン殿、ミハル殿、我々はどうやら陥穽に嵌められたようじゃな」

「陥穽……って、罠? まさか?」

「いや、この袋と中に入れたお経は、先ほどの休憩時にワシが埋めたものでな。それが、進んだ先にあるということは、ワシらが知らないうちになんらかの方法で、森が歪んでいるということじゃろ? しかも、このような大規模なものなど、張り巡らしたままにするのは不可能……ではないかな?」


 何もない場所に向かって、玄白は問いかける。

 すると、その方角からスッ、と人の姿が現れた。


「良くぞ見破られました」


 横に長い耳を持つエルフ、すなわちハイエルフ。

 森の色に染められた皮の鎧をみに包んだハイエルフの男性が、軽く手を叩かながら姿を表す。

 それと同時にマクシミリアンとミハルも武器を抜けるように腰に手を当てるが、それは玄白が制する。


「まあまあ、敵意はないのじゃろ? 純粋に先に進めないようにした、そうじゃな。敵意があるのなら、このように姿を現すことはなく、永遠に彷徨わせているはずじゃからな」


 その言葉にハイエルフも驚いた顔をする。


「まあ、基本的に私たちは、人間などの他種族の命を無闇に奪うようなことはしませんので。迷い疲れてきた頃には、森の外へと誘導するようにしていますし」

「そうか……しかし、ワシはどうしても先に進みたいのじゃよ。この先、ヘスティア王国から大渓谷へと降り、その先のマスカラス領まで急がなくてはならん」


 その玄白の説明に、ハイエルフはマクシミリアンとミハルの方を向く。

 二人もまた、ハイエルフに対して頷いたので、彼女も納得が行ったような顔をしている。


「嘘ではありませんか。まあ、メルセデス様からの御神託の通りの方とは……」

「ん? メルセデス殿? 秩序の女神のメルセデス殿のことかな?」

「ええ。つい最近になって、ヘスティア王国の大教会に神託がありましたから。まあ、それならば、こちらの割符をお持ちください」


 右手を空間の中に突っ込み、3枚の割符を取り出すハイエルフ。

 それがアイテムボックスというカゴであることは、フェイール商店の店主が同じことをしていたので驚くことはない。

 そして割符を受け取った時、周囲の草原が一瞬で村へと変化した。

 大勢のエルフや獣人、さらには竜人といった幻獣種と呼ばれる種族の姿もある。


「はぁ、この風景が本物であり、割符を持たないものは別空間の森の中を走っていただけに過ぎないのか」

「ええ。さらに、この先に進むためにも、その割符が必要となります。こちらへどうぞ」


 ハイエルフに案内されて向かった先は、村の真ん中にある一枚の巨大な銀の壁の前。それがゆっくりと、虹が混ざり合ったような色合いで蠢いている。


「これは?」 

「転移門といいます。割符はこれを越えるために必要でして、ヘスティア王国へ向かうためには、幾つもの村や町を経由しなくてはなりません。面倒でしょうが、これも王国を守るためのものとご理解ください」


 ハイエルフの説明を聞いて、ミハルがそっと手を上げる。


「あの、それではこれがあれば、ヘスティア王国へは自由に行き来することができるということですか?」

「ええ、その通りです。それは私から受け取ったものしか効果を発揮できません。私の魔力と受け取った人の魔力、その二つがあって初めて転移門を通り抜けることができます。人から受け取ったとしても、その人は街を見つけることすらできず、先ほどのスギタさんたちのように森を彷徨うことになりますので」

「はぁ、それなら真っ先に、ワシらを招待してくれると良かったのに」


 思わずそう呟くが、ハイエルフも苦笑してしまう。


「この森が迷いの森であること、まずはそれを知って欲しかったのです。それが、割符を受け取るための条件であり、その割符の力を知ることができる最短の方法かと思いますので。では、ここから先は転移門を通ってください。転移先でも案内がいますので、彼女たちに従っていただけると、ヘスティア王国までは辿り着きます」


 そしてヘスティア王国からは大渓谷の入り口というものがあり、そこに向かえば魔法により谷を降りることができることを説明すると、ハイエルフはゆっくりと頭を下げて一言。


「もしも、スギタ先生の御用事が終わりましたら、できるならばこの地にまた戻って来ていただければ助かります」 

「ほう? ワシに何か用事ということか?」

「はい。実は、この地には、数日前からヴェルディーナ王国王都から避難して来た人々を受け入れています。ですが、彼らの中には健康状態が優れないものも多く、その人たちの診察をお願いしたいのですが」


 まさか、ヴェルディーナ王国からの避難民がいるとは玄白も、そしてマクシミリアンたちも予想外である。

 それならば一刻も早くマスカラス領へと赴いてカネック王の孫娘の治療を行い、この地に戻ってこなくてはならない。


 何もかもが消えてしまったヴェルディーナ王国、その謎を知りたいと玄白は思い始めていた。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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