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商業ギルドから冒険者ギルドへ

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜』は不定期更新です。 基本的に週一連載・月曜日更新を目指しています。

 わしの名前は、ランガクィーノ……。

 何故、ランガクイーノ。

 蘭学医の……ランガクイーノ。

 解せぬ。


 ブツブツと呟きつつ、玄白はミハルに導かれて冒険者ギルド直営の酒場にやってきた。

 二階と三階は宿、一階が食堂兼酒場という、この国ではよくある宿泊施設である。

 その一階酒場の一角では、先に宿に戻って席を取って待っていたマクスウェルが待っている。


「ミハルか。その様子だと、無事にランガ殿の登録は終わったようだな」

「ええ。でも、名前がランガじゃなくてランガクイーノって言う名前だったので、落ち込んでいるみたいなのよ」

「い、いや、なんとか落ち着いてきた。この世界に命を受けたときに、蘭学医の杉田玄白ではなくランガクイーノ・スギタという蘭学医になったと、なんとか自分に言い聞かせることができた」


 淡々と告げる玄白だが、ミハルとマクスウェル、そして彼女の後ろについていたサフトは苦笑い状態。

 そんなこととはつゆ知らず、玄白はそのまま酒場の席に座り、また周囲を観察し始める。


「スターク殿とマチルダ殿の姿が見えないが。お二人はどちらに?」

「冒険者ギルドに依頼完了の報告に向かった。これが終わらないと報酬を受け取ることができないのでな」

「なるほどなぁ。さてと、わしはこれからどうするか……」


 腕を組んで天井を見上げる。

 この世界に生まれ変わって、何を成すべきか。

 蘭学医として、この世界でも大勢の人を癒したい。

 それは大前提ではあるものの、それ以外にも何か、日本では、江戸ではなし得なかった何かを探してみたくなった。


「冒険者登録をして、治癒師として旅をするのもありだと思うのよ。どうせなら、私たちのクランに入らない?」

「いや、その線はまだ考えられぬな。まずはしっからと、足元を固める必要もある。治療院を開院し、そこから何をするか……」


 ミハルの提案をあっさりと交わす。

 その玄白の言葉に、両手人差し指をツンツンと突きながら、ミハルは涙目である。


「ミハル。ランガ殿にも成すべきことがある。それも異邦人(フォーリナー)ならば尚更な」

「それに、俺たちは次に王都に向かうのだろう? 長旅になるのに、この世界に来たばかりのランガ殿を連れて行くのは酷じゃないか?」


 スタークとマチルダも酒場にやってきて、席に座りながら話しに参加する。


「お待たせしました。ランガさんも登録は終わったようですわね?」

「うむ、まあ、今まで通りにランガで構わぬ。このように、名前はランガクイーノ・スギタになっておる。じゃから、ランガで構わん!」

「ということで、さっき迄はご立腹だったのよ」


 ミハルの補足説明を聞いて、スタークたちも頷いて納得。

 

「それで、ランガ殿はこれからどうするおつもりです? 幸いなことに冒険者ギルドでしたらツテがありますので手続きは早くして貰えるかもしれませんが。商業ギルドでしたら、少し時間がかかるかも知れません」

「ほうほう、そういうものなのか。では、先に商業ギルドに登録してから、待ち時間の間に冒険者ギルドに登録することにしようか」


 より時間的効率を考えて、玄白はそう提案する。

 

「では、先に商業ギルドに向かいましょう」


………

……


 商業ギルドの登録手続きは、実に事務的に終わった。

 登録手数料を支払い、必要事項を申請書に記入。

 このあとは、どこで治療院を開院するか、他の治療院と近すぎないかなどの調査が行われ、正式に場所が決定したら商業許可証が発行される。


 いくつもの候補地を紹介される手筈になり、そこが決まるまでは『仮許可証』が手渡された。

 これがあれば、酒場なので『辻治療』が許されるのだが。

 話によると『辻治療』をするのは冒険者ギルドに登録した『治癒師』ぐらいであり、普通ならば開院準備のために人を集めたり、薬草を集めたりと、あちこち駆け回るのが普通らしい。


 まあ、それでも必要な手続きは終わったので、玄白は冒険者ギルドに向かうことにした。


………

……


 先ほどまでいた酒場と同じような雰囲気。

 それでいて、血の匂いもあちこちから流れてくる。

 建物に入った瞬間に玄白が感じたのは『首切り役人の巣窟』。

 大勢の冒険者たちがテーブルに座って談笑したり、ギルドカウンターで手続きを取っている姿が見える。


「血生臭いのう」

「この時間はね、正門が閉じる前に飛び込みで帰ってきた冒険者が多いから。討伐依頼を受けた冒険者が討伐部位を持ってきますから、どうしても匂いはキツくなりますよ」

「まあ、あと数刻もすれば受付も一段落すると思いますので、少し待った方がいいかもしれませんね」


 マチルダとミハルはそう説明してから、空いている席を探しに向かう。

 スタークたちもそちらに移動するので、玄白も同行しようとしたところで。


「おう、そこのねーちゃん。見かけない顔だけど、どこの冒険者だ?」

「そんな綺麗な服を着て、踊り子か何かか? 俺たちは帰ってきたばかりだから、溜まっていてしかたないんだよなぁ」

「朝まで付き合えよ。最高の夜を楽しませてやるぜ?」


 ガラの悪い冒険者三名が、下びた笑い顔で玄白に近寄っていく。


「なんじゃお主らは? どこぞの食い潰れ浪人かなにかか?」

「ん? そんなことはどうでもいいじゃないか? どうせお前も商売女かなにかなんだろう? 楽しませてやるからフベシッ!!」


──スパァァァァァン

 玄白に絡んでいる男の背後から、スタークが後頭部目掛けて張り手を叩き込む。


「ゲイル、そこのお嬢さんは俺たちの客だ。商売女じゃないからな」

「「「ゲッ!! スターク!!」」」


 慌てて振り向いた先では、スタークが憤怒の顔で立っている。

 その雰囲気に、男たちは頭を下げつつ後ずさっていく。


「い、いや、スタークさんの知り合いなら、手を出しませんって」

「ほら、俺たちも依頼が終わって……失礼しましたぁぁぁぁ!!」


 ぺこぺこと頭を下げながら走り去る三人。


「危ないところだったな。いや、冒険者があんな奴らばかりじゃないってわかってくれるか?」


 そう玄白に問いかけるスタークだが、玄白はすくざま解体新書(ターヘル・アナトミア)を発現してページを開く。


「ふむ。詳しくは分からぬが、スタークに張り飛ばされた男、臓腑の病じゃないかの?」

「……え、ランガ殿は、そんなところまでわかるのか?」

「触れねば詳しくは分からぬが。みた感じでも、あやつの顔色が悪い。肝臓がやられておるようじゃが、酒の飲み過ぎではないのか?」


 僅かながら、表情のあちこちに黄疸が見えた。

 もっとも初期症状と読んだ玄白は、声を掛けて治療しようなどとは思わない。

 寧ろ、自分のことを商売女などと揶揄する輩を助けるほど、自分は甘くはない。

 助けて欲しければ治療院を建ててから来いと、玄白は心の中で呟いた。


「そ、そんなところまでわかるのか?」

「まあな。それが蘭学医じゃよ。みたところ、どいつもこいつも、あちこち体を壊しているようではないか。冒険者というのは、どれだけ不養生な奴らが多いのやら」


──ハァァァォァ

 溜め息を吐きながらそう言い捨てると、玄白も椅子に座る。


「まあ、宵越しの金を持たない奴らもいれば、コツコツと貯蓄して将来に備える輩もいる。特にここは交易都市オリオーンだからな」

「街を出て山間に進めば魔物が住む。山に上がれば鉱山もあるし、上級指定ダンジョンもある。冒険者にとっては、金を稼ぐための素材がいくらでもあるからな」

「だから、駆け出しの冒険者でも小金を稼ぐことぐらいは難しくないのよ。そして無理をして、自分の実力以上の依頼を受けて命を散らせてしまう人もいるからね」


 マクスウェルが、サフトが、そしてミハルが告げる。

 自分達もそんな冒険者の集まりであるが、自分達にできることをやるように努めているとも。


「マチルダさ〜ん。『深淵を狩るもの』のマチルダさーん。三番カウンターにお願いします〜」


 受付カウンターの方から、やや間伸びした女性の声が聞こえてくる。


「あら、早かったわね。ではランガさん行きましょう」

「登録というやつだな。では参ろうぞ」


 立ち上がってカウンターに向かう。

 玄白は途中途中で、自分に向けられた視線に気がついたけど、そんなものは全て無視。

 まずは登録だけを終わらせることにした。


「いつもありがとうございます。それで、本日はこちらの女性の冒険者登録と伺いましたが、間違いはありませんか?」

「うむ。わしはランガクイーノ・スギタじゃ。こちらが身分証(カード)で、こっちは商業ギルドから発行してもらった仮許可証じゃな」


 二枚のカードを提出すると、受付の女性が目を丸くする。


「手慣れていらっしゃいますね。では、こちらのカードから必要事項をトレースします……」


 カウンターにあった羽ペンを手に取り、受付嬢は静かに詠唱を始める。 

 そして羽の部分で身分証(カード)の水晶部分をそっと撫でると、羽ペンが勝手に動き出し、書類に記載を始めた。


「な、な、な、な、なんじゃそれは!!」

「生活魔法の一つで、『書写』といいます。では、先に冒険者ギルドについてご説明します……」


 そこから先、必要事項記載が終わるまでは冒険者ギルドについての説明が始まった。

 具体的には【依頼者からの依頼を仲介】し、【登録された冒険者が依頼を完遂した場合】、【適切な報酬が支払われる】ということ。

 依頼の難易度は子供のお使い程度のものから、上級魔物の討伐まで様々なものがあり、自分の実力に見合った依頼を受けるのが好まれる。


「ふむ。その冒険者のランクというのは、どのように定められているのかな?」

「依頼の難易度と完遂率です。全ての依頼には私たち冒険者ギルドが難易度を設定していまして、それを完遂することで完遂ポイントが加算されます。それが一定値まで貯まると、昇格審査を受けられます」

「昇格審査か。それでは、命の危険のない簡単な仕事をコツコツと進めても、やがては最高ランクに到達するのではないか?」

「はい。だからと言って、戦闘経験のないものが高難易度の討伐任務を受けることはできません。それを判断するのも昇格審査です」


 このシステムのためか、薬草採取などの簡単な任務は初心者たちのランクアップ用に常駐しているらしい。

 非戦闘経験者では、冒険者ランクは一級までしか上がることはなく、そこから上の段位認定は上位魔物との戦闘による討伐経験が必要となる。

 冒険者ランクは初心者である九級から始まり、一級まで昇格したあとは一段、二段と段位が上がる。

 最高段位は九段、これは過去に世界に降り立った伝説の勇者にのみ与えられた段位であり、現在の冒険者のトップは五段が最高位である。


 なお、初心者から卒業するためには、最低でも五級以上に上がらなくてはならない。


「……という事です。登録した時点で九級、このあと適正審査を受ける事で八級まで上がる可能性もありますが、どうしますか?」

「適性検査? なんじゃそれは?」

「冒険者素養を見るための検査ですね。私たちは生まれつき、神様から与えられた【祝福(ギフト)】があります。十歳の成人の時に一つ、必ず授かります。ごく稀に複数の祝福(ギフト)を得た方もいらっしゃいますが、そのような場合は初期登録でも五級まで格が上がることもあるそうです」


 その説明で、玄白の好奇心は高まる。

 自分にどんな力があるのか?

 解体新書(ターヘル・アナトミア)以外に、どんな力が備わっているのか。

 それを知る良い機会だと、思わず胸が高まってしまった。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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