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どっちが危険? そりゃ簡単じゃよ

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

 宿場町オーイソ。


 大渓谷の向こうへ向かう向かう前の、国境越え手前の宿場町。

 隣国であるマフトミン公国へは自由に出入りが許されているため、関所のようなものはない。

 もっとも、オーイソの冒険者ギルドと商業ギルドが発行する出国証明、隣国へ向かう際には出国手続きをしてこれを入手しておいた方が、隣国で仕事をする場合の手続きが簡略できる。

 同じように大渓谷の向こう、少し進んだ先にある十字路を中心とした宿場町ノミヤーニでも同じような手続きが行えるので、マフトミン公国から来る人々はそこで手続きを終える。


 大渓谷の橋が落ちてしまったため、ここから引き返すものも多く存在するのだが、逆にオーイソの冒険者ギルドでは橋の修復作業の警備依頼が出されていたり、修復が終わるまで長期滞在する人々を相手に露店を開く商人などもいる。

 そのためか、宿は長期宿泊客があちこちにごった返し、なかなか部屋を取るのが難しい状態になりつつあったのだが。


「なんとかふた部屋、取れましたよ!」

「ふた部屋……ん? ふた部屋? マクシミリアン殿とミハル殿が一緒の部屋なのか?」

「まっさか!! ちゃんと男性と女性に分かれますよ。なのでマクシミリアンは一人部屋、私とスギタ先生が二人部屋です、これで問題なし!!」


 そう告げられて、玄白は腕を組んで考える。

 ヴェルディーナ王国を出発してからは、道中の宿場街で女性のみの大部屋に詰められたり、温泉地で女風呂にみんなで入ると言われて引っ張られていったこともある。

 だが、体は少女でも魂はまだ男性……もっとも、老人の思考そのまま故に性も何も枯れ果てて、逆に医学的好奇心の方が勝っていたのも事実。

 それ故に、ミハルの言葉にふぅーっとため息をつくと、素直に頷いていた。


「まあ、たまにはミハル殿と二人もよかろうて。とりあえず、夕食をとってから、明日のことを考えるとするか。それで良いかな?」

「ああ、俺はそれで構わない」

「私もそれで。では、荷物を置いてから食堂へ集合ということで」


 そんなこんなで荷物を置きに部屋に向かうが、盗難防止のために全ての荷物は玄白の解体新書(ターヘル・アナトミア)に全て収める。

 その解体新書(ターヘル・アナトミア)も、玄白の意思でスッ、と消せるので盗まれることもなく、手ぶらで食堂へと向かうことができた。


 そこてわ明日からの道程をどうするかと打ち合わせしつつ、のんびりと食事をとっているのだが。


「うむむ、麦パンと野菜と肉の塩煮、こっちは……と、腸詰の燻製か。これは、あれが食べたくなるな」

「あれ……って!! スギタ先生、あれはダメです、こんな小さな食堂であれは犯罪行為ですよ」

「た、頼むから勘弁してください……あの匂いは、衣服に染み込んで大変だったのですから」


 玄白がクサヤを取り出そうとしたのかと、二人が慌てて玄白を止めに入る。

 周りの宿泊客も、ゲンパクたちが何を話しているのか興味を持って聞き耳を立てている。


「何をいうか、ここでわしがクサヤを出すほど考え知らずと思ってか!! 出すのはこいつじゃよ!」


──ダン!!

 味噌が詰まった小樽を取り出し、蓋を開けて匙で味噌を少しだけ掬う。

 それを塩煮の汁に少しずつ溶かし込み、味見をしながらちょうど良い塩っぱさまで調節すると。


──ずずずっ

 音を立てて汁を少し飲む。

 そして顔を上げた玄白を見て、ミハルとマクシミリアンも姿に許可を貰って、味噌を溶かし込んでみた。


「ずずっ……ぷは〜。こ、これは凄いです、お肉と野菜の美味しさが、この味噌でさらに引き立っていますね」

「少しだけ味噌を汁で溶いて、パンにつけても美味い。味噌とは、まさに万能調味料なのですね?」

「そうじゃろそうじゃろ? これを手に入れるのに、わざわざ骨を折ってくれたフェイールさんに感謝じゃよ。本当なら米の方が美味いのじゃが、流石に米を炊くのは厳しいからなぁ」


 普通に屋外でも炊ける自信はある。

 だが、宿に泊まってわざわざ調理場を借りるようなことはせず、素直に味噌による味付けの工夫で満足している。

 ちなみに他の席でも、自分たちで持ち込んだ岩塩や香辛料を追加している席もあり、味付けに勝手に変化や工夫をするのは旅人にとってはある意味、常識的なことである。

 

 まあ、大都市などの食堂などは、そういうのを嫌い味を極限まで追求しているところもあれば、基本的な味付けだけはしてあって、あとは好き勝手に味を変えて構わないっていう店もあるので、その辺りは注意しなくてはならない。

 このオーイソの宿は、玄白たちが食堂に入った時点で冒険者たちがハーブを加えたり塩を足している姿をあちこちでみているので、味噌も問題ないだろうと実行したのであるが。


──ゴクッ

 玄白の即席味噌煮込みを見て、その香りに惹きつけられた人々が生唾を飲む音が聞こえて来る。

 

「あ、あの、その不思議な香りのするものはなんですか? なんというかこう、ブラウンスライムがすり潰されたような見た目なのですが」


 ブラウンスライムは、スライム種の中でも特に『腐肉』を好んで食べる、森の掃除屋と言われている種類である。

 肉のみを食べるため、冒険者ギルドの素材回収場や解体場などでも素材を回収するために使役されることがあり、核が傷ついて死んだ場合は水分が抜けてしまい、それこそ味噌のような感じに見えなくもない。

 

「んん、味噌じゃよ? パルフェノンから西方、ハーバリオス王国で作られているものでな、勇者御用達の調味料じゃよ!!」


 そう説明しながら、玄白は話を振ってきた冒険者に対して、味噌を小皿に取って差し出した。


「わしらが食べているのをみているから、食べられることはわかるじゃろ? まあ、好き嫌いがはっきりするものじゃから、ほんの少しだけお裾分けじゃよ」


 そう説明してから、味噌樽を解体新書(ターヘル・アナトミア)のアイテムボックスに仕舞い込む。

 

「ありがとう。では、折角ですので」


 そっと味噌を指で掬うように摘み、それを口の中に。

 ゆっくりと味わい、その塩分の高さに顔を引き攣らせると、すぐに水代わりのワインを口の中に入れて流し込む。


「ングッ……こ、これはなかなかに塩が強いです。でも、保存食としては最適ですか。それに、確かにこれだけで食べるときついかもしれないけれど、塩煮とかで塩を少なめにしてもらって、これを使えばいい味わいになりそうですね。ありがとうございます」


 満足して戻っていく冒険者。

 受け取った味噌を使って、玄白の真似をするように塩煮に溶かし込んで食べているのをみて、玄白は満足そうに頷いている。


「良いのですか? またフェイール商店に味噌目当てのお客さんが殺到しますよ?」

「構わん構わん。この仕事が終わったら、わしはハーバリオス王国に向かうからな。少し西方も旅してみたくなった……」

「はあ、本当に一つのところで落ち着くということがないのですね」

「まあ、な。では、そろそろ部屋に戻って、体を休めるとしようか」


 明日の朝、玄白たちは宿を出る。

 未だ修理の始まらない大渓谷の橋を待つぐらいなら、東の森を抜け、ヘスティア王国へと向かう方が早いと考えたのである。

 急がないと、カネック王の孫の命が危険であるかもしれない。

 そう考えると、何日もかけて対策を練るよりも、レンジャーのミハルとマクシミリアンに頼んで森を突破した方が早いと考えたのである。


「さて、森の強行突破は初めてじゃが……何事もなければ良いがのう」


 そんな不安はあるものの、まずは体を休めるべく、三人は部屋でゆっくりと眠りについた。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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