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医者とは人を救うもの。

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

 王宮敷地内の別離宮へと案内された玄白。

 中庭を抜けた先にある白亜の建物の入り口まで案内されると、そこからは真紅の鎧を身に纏ったドワーフの騎士たちが、別離宮の中へと案内する。


「ここから先は、大公側近であるカーマイン騎士団が同行します」

「スギタ先生のお噂は、一時は王宮内でも噂されていたのですが。御殿医たちが他所から来た医者を信じることはできないと、頑なに拒否されておりまして」


 二人の騎士は別離宮の中を案内しつつも、玄白に頭を下げている。

 その様子がふと気になったもので、玄白もあえて問い返して見た。


「いやいや、頭を下げられるほどのことはしていないが。その、わしの噂というとはどの程度のものじゃったのか?」

「霊薬エリクシールを作りだすことができる、凄腕の錬金術師であり、高名な医者であるとか。パルフェノンへ到着する前は、幾つもの国でスギタ先生を囲おうとして拒否され、腹いせに手配が掛けられたと。旅の吟遊詩人から話を聞きました」

「それも、一人ではなく、数名の吟遊詩人からも窺い知れたので、大公がその真偽を知りたいということで情報を集めていたのです」


 そこまでの話を聞いて。

 玄白は、ここの大公も彼女のエリクシール目当てなのかと肩を落としそうになったのだが。


「大公には二人の息子がおりまして。そのうちの長男は先代国王としてこの国を治めていましたが、やはり流行病で亡くなり。次男であるゴステローザさまは地方都市を任され、そちらでのんびりと実務を行っていたのですが、運が悪いことにゴステローザさまの娘であるアンリエットさまがやはり病に倒れてしまい、どうにか治療できるものはいないのかと、高名な医者を探していたのです」

「そんな時にスギタ先生の噂を聞き、先生ならばアンリエット様の病を治せるのではないかと。お願いです、大公閣下の病を癒した暁には、是非ともアンリエットさまの病も治していただけますか?」


 エリクシールの効力を求められているとはいえ、それを私利私欲ではなく孫の治療に頼みたいというのは、玄白としてもやぶさかではない。

 まあ、まずは大公の病を癒すことが第一であるということで、大公であるカネックの寝室まで案内された。

 そのまま部屋の前にいるロイヤルガードに許可を取り、玄白は騎士たちと共に室内に入る。

 そしてベッドの上で眠っているカネックを見た時、すぐに解体新書ターヘル・アナトミアを取り出してから彼の手を握りしめた。


「これはいかん!! すでに死相も現れ始めている……解体新書ターヘル・アナトミアよ、カネック大公の病を教えてくれぬか?」


 すぐさま解体新書ターヘル・アナトミアはパラパラと捲られていき、カネック大公のページで止まった。

 そして、そこに記されている病について確認すると、玄白は思わず目を疑ってしまう。


「不死なる王の呪い。そして、闇の精霊による心の損耗……」

「な、なんですと? メギストスは南方の島々で見る流行病であり、この薬を処方したので朝晩必ず飲ませるようにと告げていたのですが」


 騎士が説明しつつ、棚にある薬の瓶を取り出して玄白に見せる。

 それを手に取り、速やかに解体新書ターヘル・アナトミアで解析すると、玄白はすぐにそれを棚に戻した。


「毒じゃな。それも、心臓を弱らせる微弱な毒。一見すると強心剤とも取れるような微妙な調合であるが、わしの目は誤魔化せん。それは大公を殺すための薬じゃよ、証拠として保存しておいて欲しい……」

「は、はい!!」

「さてと。それじゃあ、カネック大公の治療を始めるとしようか」


 時間があるのなら、薬を一つずつ調合することぐらい造作もない。

 だが、不死なる王の呪いは、普通の薬では癒すことができず。

 この場合に有効なものは、やはり霊薬エリクシールしかないとも判断するしかなかった。


「……これに頼りっきりなのは、どうもいかん。医術というものは、そういうものではなく、蘭学をしっかりと学び、そこから手技と知識、経験により導かれるものだと思うのじゃがなぁ」


──ポン

 解体新書ターヘル・アナトミアからエリクシールを取り出し、まずはきれいな布に含ませてからカネック大公の口元だけにそっと当てる。

 気化したエリクシールを鼻から吸引させて様子を見ていると、ゆっくりとだがカネック大公の顔色も良くなっていく。


「こ、こんなことが!!!!」

「凄いじゃろ? エリクシールとは、こういうものじゃよ。どのような病も癒す、奇跡の霊薬じゃからなぁ」


 水差しを手に取り、そこにエリクシールを注ぐ。

 そして大公の口元に持っていき、数滴だけ口の中に垂らす。


──ピクッ

 すると、カネック大公がゆっくりと目を覚ました。


「ん……あ……ああ。ここは? それに……わしは……」

「ふむ、体力の回復が先じゃったか。ほら、この水差しの中に薬湯が入っているから、全て飲むが良いぞ」

「薬湯……か」


 玄白の説明に頷くカネック。

 すると玄白も、その口の中にゆっくりとエリクシールを注いでいく。

 カネック大公が最後の一滴まで全てを飲み干した時、突然.彼の口の中から黒い霧が噴き出し、天井近くで黒いローブを身に纏った死神のような存在が浮かび上がったのだが。


『ググガガァァァァァァ』


 死神のような存在は、胸元を押さえつつ天井付近を縦横無尽に飛び回る。

 その都度、体があちこち霧のように消えていき、最後には全てが消え去ってしまった。


「今のは、なんだったのだ?」

「まあ、一から説明しますので、心して聞いてください。実はな」


 玄白もまた聞き状態ではあるが、事の顛末を全て説明した。

 そして説明の中でロード・オブ・ブランシュの名前が出てきた時、カネックはベッドから跳ね起きて玄白に頭を下げた。


「ことは全て理解した。ブランシュ王がきていること、孫であるデスペラードが暴走したことは全て委細承知。その上でお礼をしたいのだが、先にデスペラードを止めなくてはならぬ。ここで待っていてくれるか?」


 敢えて、カネック大公は頭を下げた。

 その態度に納得したのか、玄白もコクリと頷いたとき。


「では、奴を粛清してくるので!!」


 その一言を告げて、カネック大公は一目散に廊下を走り抜けていった。

 その様子を見て、ロイヤルガードたちも慌てて追従していき、室内には玄白と真紅の鎧を身に纏ったドワーフたちしか残っていなかった。


「はぁ、気が早いというかなんというか」 

「それよりも、瀕死のカネック大公を助けていただき、感謝します」


 騎士たちは玄白に頭を下げる。

 礼には礼を尽くすかの如く、親愛なる大公の命を助けた玄白に、騎士たちも深く感謝の意を込めていた。


「まあ、今しばらくはここで待つとして。カネック大公は、返り討ちに遭うとかはないじゃろうな? せっかく治療したのに、それが無駄になるようなことはないよな?」

「ええ。仮にもカネック大公は、かつての勇者たちによる過酷な修行を乗り越えできました。精霊女王からも祝福を受け、そのすざましく激しい戦い方から【暴風国王エル・トルメンタ】とも呼ばれ、魔族にすら恐れられた存在です」

「孫にはめっきり弱いのですが、今はまあ、そんな事を考えるはずもありませんので」


 それならば安心じゃなと、玄白は寝室から応接間へと場所を変え、そこでカネック大公が戻ってくるのを待つことにした。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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