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魔族の魔の手が伸びているのじゃが

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

 突然始まった錬金術勝負。


 連合諸島王国からやって来たメギストスという錬金術師と、西の国バーバリオス王国から来たフェイール商店のお抱え薬師ファジシアンの勝負が始まった。

 商業ギルドの説明では、メギストスは数年前に突然ふらりとやってきた錬金術師で、勇者の系譜に連なるものとして国王に売り出しを始めた。

 そののち、国王が病に倒れた時も、御殿医でも治せなかった病を癒やし、信用を得たのである。

 もっとも、メギストス曰く、かなり根が深い病らしく、当面は私の調合する薬を適時飲まなくてはならないと説明。

 それに反発した御殿医や宮廷お抱え医師たちは国王の息子であるデスペラード皇太子によって沙汰を申しつけられ、王城から叩き出されたと言う。

 そののち、国王の病は先王や宰相にも伝播し、ついに国王は崩御してしまった。

 

 先王も意識が戻らず、宰相すら執務に支障が出るようになると、ついに皇太子が臨時ではあるが国王代理として就任。

 それに伴い、宰相にも治療に専念するように申し付けると、メギストスの知り合いで外国で執務を取り行っていたザコイ・サンドロスが宰相代行に就任。

 大きな混乱が起きる前にどうにか体裁を保ったものの、デスペラード代理国王では政治について全く分からず。

 全てをザコイに任せてしまっていたのである。


「はぁ。わしの薬なら、その先王たちの治療もできたものを。何故にわしに話を持ってこなかったのやら」


 錬金勝負を眺めつつ、玄白が顎に手を当てて呟く。

 すると、隣の席にいた宮廷魔術師も頭を左右に振っていた。


「ランガクイーノ殿は市井で治療院を開院しているそうですが、王宮にはランガクイーノ殿の名前が出たことは一度もありません。そもそも王家の関係者の病など、外に出しては良いものではないと言うのが御殿医たちの言葉でしたから」

「それに、御殿医殿たちも放逐され、後釜にやって来たのがメギストス宮廷錬金術師です。彼の助言で、現在の王城に勤務しているものの2割ほどが入れ替わりましたからなぁ」


 審査員席の魔術師や元御殿医の話を聞くに、陰謀論しか思いつかない玄白。

 

「はぁ。調合したもの以外では解毒できない微弱な毒を用意し、それを含ませて国王たちを床に倒す。そして医者が匙を投げた頃にやって来てチョチョイのちょいと回復させれば、そりゃあ誰でも信用するわ。しかし、国王や宰相、先王まで倒れたとなると、あのメギストスとやらが何かを企んでいても、それを見抜ける者がいないと言うのか……使えん国王じゃな」


 そう吐き捨てるようにつぶやくと、同じ審査員席の鍛治師が玄白を睨みつける。そして近くにいた騎士に何かを耳打ちしていたのだが、いきなり会場が盛り上がってきた。


 そして審査員の一人が、玄白の前に薬師ファジシアンが作り出したと言う霊薬エリクシールを持って来た。


「スギタ先生ならば、これが霊薬かどうか判断はつきますよね?」


 持ってきた審査員は玄白の所に罹っている患者でもあり、彼女が治療にエリクシールらしきものを使っていると言う噂は聞いたことがある。


「どれ、これも仕事じゃからな」


 机の上に置かれている解体新書ターヘル・アナトミアを開き、中からエリクシールを取り出す。

 そして二つの薬を相互鑑定したのだが、薬師ファジシアンが持ってきたのは霊薬ではなくさらに上、神薬エリクシールである。

 

「ほう。紛うことなきエリクシール。しかも、ワシが作るものよりもかなり高品質じゃなぁ」

「ありがとうございます!! 最後のエリクシールも本物であると確認できました。よって、この勝負はフェイール商店の勝ちとします!!」 


 審査員の掛け声と同時に拍手が鳴り響くが。

 メギストスは錬金術テーブルを力一杯ドン、と殴りつけた。


「ば、馬鹿な! そんな馬鹿なことがあってたまるか!我がメギストス家は初代勇者の末裔。大賢者アーレストの血を引くものぞ!!」

「そんな訳あるかよ。お前からは、勇者の加護を一つも感じない」


 そう薬師ファジシアンが呟いたと思ったら、真っ直ぐに審査員席に向き直った。


「そこの、審査員に混ざっている国王!! お前は親父から何も聞いていなかったのか? こんな偽勇者の血族を国に招いた挙句、特権を与えていたんじゃないのか?」


 ビシッと審査員席に座っているドワーフの鍛治師を指差して叫ふ薬師ファジシアン

 さらには国王に向かって怯むことなく、堂々と意見を述べ始めている。


「初代ドワーフ王のカネックは、権威に媚びることなく、勇猛果敢に魔族と戦い、この地を治めた。その子孫の貴様が、なぜ、あのニセ勇者末裔に媚びへつらう? あいつが身につけているのは、王国宮廷錬金術師の紋章だろうが!!」


 ほんなやりとりを気にしつつも、玄白はこっそりとこの場から抜け出そうと画策する。

 正直言うと、この時点で嫌な予感がひしひしと身体に伝わってきており、このままではこの訳の分からない論争にまで巻き込まれそうな予感がし始めていた。

 

「はぁ。早く終わってくれんかのう。わし、味噌と米がほしくて参加しただけなんじゃが」


 そうブツブツと不平を垂れ流している最中にも、薬師ファジシアンと国王の口論が続いている。

 やがて薬師ファジシアンの姿が輝いたかと思うと、額にツノを生やした威厳のある男性に姿が変化する。


 ロード・オブ・ブランシュ。


 その姿を見た誰もがその名前を告げ、その場に跪き始めるのだが。

 玄白には何が何だかさっぱりであり、とりあえずは周りに合わせて跪くことにした。

 そこからはロード・オブ・ブランシュの独壇場。

 国王を糾弾するだけではなく、勇者の系譜を騙って好き勝手なことをしていたメギストスをも綺麗に裁いていたのである。


「まるで大岡越前守忠相じゃな。絵巻物でもよく読んでいたから、ワシは知っておるぞ。つまり、メギストスとやらが何者かと連んで、この国の転覆を企んでいた。それが今、白日の元に晒された……」


 実は玄白、大岡越前の大ファン。

 大岡越前守忠相の実録本を元にした講釈を聞きに行くのが好きであり、生前はよく治療院が終わってから聞きに行ったものである。

 まさか、そのようなものが目の前で起きるとなると、巻き込まれごとや面倒ごとが嫌いな玄白といえど、心が沸き踊り始めている。

 そんなこんなで話を聞いていると、ついには病で倒れた先王や宰相の話にまで発展している。


「そこの娘さん、悪いが先先代の国王や宰相を診てくれるか? 秩序の女神の加護持ちのあんたなら、エリクシールぐらいは作れるんだろう?」


 そしていきなりの指名である。

 よもや自分が関与することなど考えていない玄白であるが、その後に続いたロード・オブ・ブランシュの言葉に協力を余儀なくされてしまった。


「娘さんって。わしは、ランガクイーノ・ゲンパク・スギタという名前があるわ。この国で治療院を開院している、普通の町医者なんじゃが……まあ、これも縁じゃろ、任せなさい」

「頼む。報酬なら、国庫から支払わせる」

「いや、わし、味噌と醤油と米が欲しいのじゃが。それは手に入るか?」


 そう交渉する玄白。

 するとロード・オブ・ブランシュが商店主の方をチラリと見てから、なにやら合図を受け取っている。


「よし、ロード・オブ・ブランシュの名において、それを約束する。それよりもデスペラード、その宰相代行とやらにも会わせろ」

 

 そう告げてから、ロード・オブ・ブランシュが王城へと向かう。


「それでは、スギタ先生はこちらへ。王城敷地内の別離宮へご案内します」

「うむ。どうやら急がなくてはならないようじゃから、走るぞ」

「はい」


 そこからは時間の勝負。

 玄白は騎士と共に、王城内の別離宮へと走り出した。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[一言] >そこからはロード・オブ・ブランシュの一人相撲。 一人相撲の意味ですが「特に相手がいるわけでもない状況で独りむなしく勇み立ったり意気込んだりするようなさまを述べる言い方。思慮の足りない身勝…
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