能力の解放、命の価値観
『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。
天翔族の村を離れ、玄白はカースドドラゴンの住む洞窟へと向かう。
セッセリたちの話では、卵を抱いている間、ドラゴン族は身動きができない。
それでも、術式を組み込んだりブレスを吐き出すことぐらいはできるし、なによりも卵を守るためには、一瞬で離れる可能性がある。
それならば、ダメ元で話し合いに持ち込み、隙を見てエリクシールを飲ませるという方法をとることにした。
「ふむふむ、全力で走るのは、実に久しぶりじゃな。あの城塞都市の周りを走り回っていた時以来か?」
いや、正確にはあの都市の郊外、深き森に住み着いていた竜族との話し合いをしたときにも、玄白は全力を出している。
あの時以来、その力を使うことはないと思っていたのだが、このタイミングでは使わざるを得ず、解体新書に魔力を通して身体強化を試みた。
──ブゥゥゥゥウン
身体の中を魔力が循環し、力が湧き出る。
これならば、天翔族が飛ぶよりも早く、カースドドラゴンの住む洞窟に辿り着く。
森を越え草原を駆け抜け、聳り立つ霊峰の岩肌にジャンプして飛びつくと、それを幾度となく繰り返し、日が登り始める頃には目的地である洞窟へと辿り着いた。
「うむ、予想よりも早く着いたし、まだまだ魔力が枯渇する様子もないか」
両手を広げ、軽く握る。
その手の中に見えるほどの魔力を、今は体に纏っている。
そして静かな洞窟を道なりにまっすぐに進むと、やがて広い空洞へと辿り着いた。
「……なるほどなぁ。そこにいたのか」
広間の奥、少しだけ窪んだ場所に、カースドフェザードラゴンは丸くなっている。その体を覆うはずの羽毛を使い丸い巣を作り、その真ん中に巨大な卵を抱えていた。
「……人族……殺す!!」
そう叫ぶや否や、口を大きく開き、漆黒の炎を一直線に噴き出す。
玄白もその攻撃に素早く反応し、横に飛んで躱すのだが、カースドドラゴンはブレスを吐き続けたまま、頭を横にずらして玄白を捉えようとする。
「……ふむ、そうくるのなら!!」
──シュタタタタ
ブレスの直線上に囚われないように、玄白も走りだす。
横というよりも斜め前、出来るだけカースドドラゴンに近寄ろうと距離を詰めつつ、解体新書から霊薬の入った瓶を数本、手に取った。
そしてカースドドラゴンがブラスを止め、呼吸のために大きく息を吸った時。
「今じゃな!!」
手にしたエリクシールを力一杯、横に振る。
瓶から直接、カースドフェザードラゴンへ掛かるように振り回すと、ちょうど息を吸い込んだドラゴンは力一杯、吸い込んでしまう!!
「ゴフッ、ガハッ……こ、これはなんだ!! 貴様、何を飲ませた!!」
「霊薬、エリクシール。振り回して気化しても、それを飲んでしまえは効果は出るじゃろうが!!」
「き、きさまぁぁぁぁぁぁ!!」
カースドフェザードラゴンは翼を広げ、魔力を集める。
そして力一杯羽ばたき、魔力の籠った羽根を玄白目掛けて飛ばしていった。
「おおっと、それは受けたくないのう!!」
右手に解体新書を掴み、魔力を込めて右に振り回す。すると、玄白の目の前に虹色の壁が生み出され、飛来する羽根を全て止めた!!
「な、なんだと、この私の羽を止めるだと!!」
「うむ。ということなので、そろそろおしまいにしようぞ。頼むぞ」
腰に下げているドラゴンの牙から生まれたショートソード。
そこにエリクシールを注ぎ込み、力一杯カースドフェザードラゴンへと投げ飛ばす。
その玄白の動作を見て、カースドフェザードラゴンも再びブレスを吐いて迎撃しようとしたが、その剣から発している竜の息吹を感じ取ると、ブレスを吐くのを止めた。
『もう良い!! 我らの呪いは、かのスギタが解いでくれる』
「お、おお、おおお……其方や、どうしてそのような姿に」
『我は黒竜の女王の怒りを買った……竜としての誇りを忘れ、魔族によって呪われし姿に成り果てた我を、女王は不憫に思い、せめて安らかにと……」
「おおお……」
巣で丸くなっていたドラゴンは、傍に突き刺さった剣に近寄り、その姿に涙する。
『今、ここで運命に従うならば、天翔族はやがて我らを、その子をも殺すだろう。だから、スギタに従い、呪いを解いて自由に羽ばたくが良い』
「そうか、そうか、其方がいうのなら……」
気化したエリクシールを吸い込み、カースドフェザードラゴンの羽毛も綺麗に生え変わりつつある。
「ということなのじゃが。そろそろ、攻撃の手を止めてくれるか?」
「うむうむ、此方の言葉を信じよう……いや、既に呪いが解呪されつつある。今一度、我とこの子の呪いを解いてくれぬか?」
「では、彼を飲むがよいぞ」
玄白がゆっくりと近づくと、カースドフェザードラゴンも口を開く。
そこにエリクシールを流し込み、ドラゴンが飲み込むのを確認してから、もう数本作り出して卵にも上からかけていく。
やがて、ドラゴンの呪いも解けたのか、綺麗に輝く黒い花羽根が生えそろい、卵も艶々とした輝きを発し始めた。
「さて。出来るなら、ここから離れてくれると助かるのじゃが。そして、二度と人里に、特に魔族領に近寄らない特に約束してくれるか?」
「ええ。それで、その、彼方の剣を、私が受け入れたいのですが」
「そうしてくれ。わしは何もいらん、命の在り方を、改めて考えさせてくれたからな」
そう告げてから、玄白は洞窟の入り口へと歩き始める。
何をするべきか。
何をしなくてはならないのか。
その答えを求めるために、今一度、パルフェランへと戻らなくてはならないと考えた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。