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ドラゴンの命と、天翔族の運命

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。



 翌朝。


 玄白が目を覚ますと、天翔族の長をはじめ、洞窟に避難していたものたちが集落まで戻ってきていた。

 しかも、マクシミリアンとミハル、そしてセッセリの姿もあることに、玄白はまだ眠い目を擦りつつも、彼らの元へと歩み寄っていく。


「おお、無事に戻ってきたようじゃな?」

「はい。どうにかカースドドラゴンを討伐するための仲間を集めてきましたが。残念なことに二人しか協力してくれなくてですね」


 マクシミリアンが説明を始めた時、ちょうど長たちの元から二人の戦士がやってくる。


「彼が、今回のドラゴン討伐の手伝いをしてくれるレオニダスとステリオスです。それで、カースドドラゴンの一体を討伐したそうですが、どういうことなのですか?」

「私も、集落の里の白骨死体を見ました。あれって、誰がやったのです? 長たちはクイーンが助力してくれたとか話したましたけど」


 マクシミリアンの紹介で、レオニダスとステリオスは頭を下げる。

 だが、無口な性分なのか、それ以上は何も語ることなく、玄白たちの話を聞いている。

 そしてミハルはここに来る途中に見たドラゴンの白骨について、玄白にも話を聞きたそうにしているのだが。

 残念なことに、玄白も全てを見ていたわけではなく、ナズリから聞いた話を五人にも再度話す程度でしかない。

 それでも、残りのカースドドラゴンが一体だけということで、天翔族も希望が見えてきたことを説明すると、マクシミリアンたちもホッと胸を撫で下ろす。


「問題は。残りの一体が卵を捨てて、この集落を襲った場合じゃな。カースドドラゴンの生態については、わしはあまり詳しくないのじゃが……その辺りは、どうなんじゃ?」


 セッセリたちに問いかけるが、やはりカースドドラゴンの生態については不明瞭な部分が多すぎるらしく。一般的なドラゴンの生態程度の知識しかないらしい。

 ただ、強力な呪いに掛かっているのは事実であり、それを解呪することができたならば、まだ、正気を取り戻す可能性もあるらしい。

 その、解呪こそが最大の問題ではあるが。


『……呪い……解き放って欲しい……』


 ふと、玄白は腰に下げているショートソードから、黒竜の意志を感じ取る。

 剣に変化してもなお、つがいの相手の身を案じているのが、玄白にも痛いほど理解できる。


「ふむ。どうしたものか……」


 その場で腕を組んで考えるも、直ぐには答えが出てこない。

 呪いを解くのなら、霊薬エリクシールでどうにかできる。

 ただ、それをふりかけるにせよ飲ませるにせよ、近寄らなくてはいけない。

 そのために、多くの天翔族の犠牲を払って良いのかと。

 ドラゴンと天翔族、二つの命を天秤にかけてしまう。

 

「なぁ、セッセリさんや。天翔族としては、この後はどのような対応になるのじゃ? ワシとしては、その辺りを知りたいのじゃが」

「それがですね。当初はカースドドラゴンが一体だけという予想で、討伐を考えていたではないですか。それがつがいとわかり、より危険度が高まったのは理解していますよね? それがいきなり、相方が死んだことにより状況が大きく変化したのですから」

「つまり。カースドドラゴンは死ぬまで卵を抱き続ける。それ故に、この集落を襲うことは無くなったということか?」


 何がきっかけで、ここまで運命が大きく変わるのかなど予想はできない。

 ただ、クイーンオブノワールという黒竜の女王の力により、天翔族の命運は延びたのも事実。


「はい。長老会議が行われますが。恐らくは監視のみで、カースドドラゴンが衰弱して死ぬのを待つでしょう。そのあとで、卵が孵化していなかったなら、その卵も破壊します。フェザードラゴンの、特に黒竜種は危険な存在ですから」


 セッセリの言葉で、玄白の腰のショートソードが震える。

 

「うん、そうじゃなあ……まだ生まれていない命、それまでも取り上げてしまうのは人としてちがうよなぁ」

「ん? スギタ先生は、誰と話をしているのですか?」

「独り言じゃよ……まあ、ワシとしては、カースドドラゴンの呪いを解き放ち、話し合いで解決できればと考えているのじゃが」

「ですから、それは無理なんですよ」


 セッセリが頭を振って呟く。

 その理屈も理解できるし、玄白としても、カースドドラゴンの呪いを解き放つために、多くの命を犠牲にするようなことは考えてはいない。

 ただ、何か手があるのではないかと、何も見えない状態で手探りに思考を巡らせているだけ。


 解体新書ターヘル・アナトミアを開いてみても、何も解決策はない。

 いくら玄白がチートじみた能力を持っているとしても、それは勇者ほどの強さはなく。

 回復特化型の転生者というだけ。


「……無力じゃなぁ……」


 落胆してそう呟くと、玄白はその場を離れ、借りていた宿へと戻っていく。

 そして、自分ができること、何をすべきかを今一度、考えることにした。

 犠牲無くして解呪はおそらく不可能。

 かと言って、このまま魔族に縛られたカースドドラゴンを放置し、その命を刈り取っても良いのか。


 玄白自身のエゴのために、仲間を傷つけることはできないと考えた玄白は、その日の夜、天翔族の集落を独り、離れていった。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


まもなく、玄白の物語も終わりを迎えます。

おそらくは、皆さんの想像していない結末になるかと思いますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。

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