カースドドラゴンとの邂逅
『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。
天翔族の集落から、目の前に聳える霊峰を見上げる。
この集落がある場所は、おおよそ八合目付近、植物などが生い茂る限界高度よりもやや低いため、あちこちに森が点在している。
その森の中にうまく溶け込むように集落があり、ここからさらに先、森を抜けたところからは『霧の階段』と呼ばれている尾根が伸び、そこからさらに霊峰本山へ繋がっていく。
その本番までの距離は直線にして2.65km、そこから斜度43°の山道を進む。
やがて巨大な絶壁に差し掛かると、そこから垂直に800メートル。登らなくては、次の斜面には届かず。
そこから遥か先に、カースドドラゴンの住まう空洞があるという。
「我々も普段は、そのような場所に向かうことはないのです。ただ、カースドドラゴンの住み着いた空洞の奥には、我々、天翔族の墓碑が納められています」
「その他は誰のものでもないのですが、我ら天翔族は、神のみ使いからその地に魂を安置することを許されました。ゆえに、我々にとってもその場所は聖地であり、5年に一度の儀式及び葬式以外では踏み込むことは許されていません」
「そこを、穢れたドラゴンなどに住みつかれたのなら。我らは聖地を取り戻すべく、ドラゴンを倒さなくてはなりません」
集会所に集まった若い天翔族は、今にも飛び出してカースドドラゴン。討伐しそうな勢いで話を始める。
だが、村長ら年輩のものたちがそれを制している。
戦う時は、全員で。
それでなくては、ただ殺されに、餌となりに向かうためである。
そうならないために、どうすれば良いか。
その答えはまだ、見つけられていない。
──シュウィィィィン
そんな話を聞いている最中。
集落の真上から、高速で風を切る音が聞こえてきた。
それはだんだんと接近してくると、爆音を上げて遠ざかっていく。
そして。
──ドゴォォォッ
建物の天井が爆風で吹き飛び、空が剥き出しになる。
建物の壁の一部にも亀裂が入り、大きく振動した。
外からは大勢の人々の悲鳴や怒声も聞こえてきて、先ほどまでの楽しそうな人々の喧騒など、どこかかき消されてしまった。
そして玄白も、何事かと建物の外に飛び出したのだが。
「森が、大きく吹き飛ばされているのか……」
木々が薙ぎ倒され、吹き飛び、地面のあちこちを抉っている。
玄白が出てきた直後に、同じ部屋にいた長たちも出てきたのだが、突然の光景に言葉を失っている。
「カースドドラゴンだ、奴が上空から飛んできて、魔法をぶっ放して行きやがった!!」
「どうする長!!」
幸いなことに人的被害はないようだ。
木々が倒れてきた時に地面で爆ぜた枝葉が飛んできて、かすり傷程度のものを追った程度、崩れた家の下敷きになった人たちもいない。
「奴は、我々を餌と認定して襲い掛かったに違いない。皆、武器を持て! 奴らの巣へ向かう」
「「「「「「ウォォォォォォォォォォォ!!」」」」
雄叫びが響き、天翔族の若者たちが手に武器を持ち、歩き始める。
「ま、待て、まだ援軍も来ておらん。今は援軍が来るのを待って、それから動けば良いのではないか!」
玄白がそう告げると、長は歩き始めた若者たちの前に出る。
「勇敢なるものよ、今は立ち止まれ。皆、よく聞け!! セッセリが冒険者たちに助けを求めに向かったのを忘れたのか? カースドドラゴンを攻めるのは、それからでも構わないだろう!!」
「そんな悠長なことを言っていていいのか? 我々は、あのトカゲ野郎に舐められたんだぞ!!」
「だから、その命を餌として貢ぐのか?」
「ぐっ……」
理性的に考えれば、かすり傷一つつけることなどできないだろう。
だが、一撃でも打ち込めたなら、それで彼らの名誉は保たれる。
そして名誉を保って死ぬのなら、それは天翔族にとっては本望。
若者たちはそう考えるが、そらは早急であると長を始めとした年輩たちは考えた。
「荷物をまとめよ、竪穴へ避難する。いいか、これは敗北による逃走ではない。機を得るために、一旦下がるのみ。さあ、すぐに支度をせよ!!」
天翔族にとって、年輩の言葉は絶対。
先程まで血気盛んであった若者たちも、なんとか納得したらしく崩れそうな家から荷物を取り出し始める。
「さあ、スギタ先生もご一緒にいきましょう。ここにこのままいては危険ですから」
「うむ、そうじゃな。では、わしのアイテムボックスにも荷物を入れてやる、重いものはわしにいうが良い!!」
解体新書を取り出し、集落にある食料庫や武器庫の荷物を全て収納する。
そして全員が準備を終えると、玄白も皆に付き従い、大空洞へと続く竪穴へと移動を開始した。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。