運命の天秤は、悪い方角に傾いていく
『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。
ちょいと体調不良のため、文字数が少なくて申し訳ない。
──ブワサッ、ブワサッ
大きな翼を広げ、セッセリがゆっくりと降下を始める。
霊峰へ至る空路をどうにか突破し、マクシミリアンたちから預かった手紙を届けるために、限界を超えた飛行を続けていたのである。
そして幸いなことに、途中の峰に巣食っているワイバーンやスモールロックといった魔物に襲われることなく、大空洞外の村を出た翌日夕方には、どうにか到着したのである。
「ほほう? セッセリ殿ではないか。ドラゴン討伐の依頼は成功したのか?」
村人たちに紛れ、玄白もセッセリを迎え入れる。
そして着地して地面に崩れそうな体をなんとか奮い立たせると、セッセリは預かっていた手紙を玄白に手渡した。
「マクシミリアンどのから預かった手紙です!」
「ふむ? 何かあったようじゃな?」
そう問いかける玄白に、セッセリも静かに頷く。
そこで状況を知るために、玄白はその場で手紙を開けて内容を確認する。
「……なるほど。呪われし騎士たちを救う為に、エリクシールを寄越してほしいということか」
──ヒュッ
すぐさま解体新書を開き、紫水晶の小瓶に収めてあるエリクシールを三本取り出すと、それをセッセリに手渡した。
「こ、こんなにですか?」
「うむ。少しでも多い方が良いと思うが、今はこれが精一杯じゃな。というか、長期保存の効く小瓶がこの三つしかなくてな。もしも効果があるのなら、今度はわしが直接向かうと話しておいてくれるか?」
「はい!! ありがとうございます。それでは早速、届けてきますので」
「待て待て」
解体新書から別の薬を取り出すと、それをセッセリに突き出す。
「滋養強壮栄養満点な回復薬じゃ。疲労が抜けるし体の活力も漲る。飲んでいけ」
「助かります」
その小さな便を受け取ってグイッと飲み干す。
それだけでセッセリの全身が輝き、活力がみなぎってくる。
「では、行ってきます!!」
「うむ。気をつけてな」
手を振りセッセリが飛び上がるのを見送ると、玄白は彼女の姿が小さくなるのをじっと待っていた。
そして、その姿が見えなくなると、それまでの優しい表情から一転して、険しい表情に変化する。
「長どの。カースドドラゴンのこと、間違いはないのじゃな?」
偵察に向かった天翔族の戦士たち。
どうにか無事に戻ってきたものの、その報告を聞いて状況が最悪な方向に進んだことが理解できた。
「うむ。カースドドラゴンは番で巣を作っている。しかも、卵が一つ、巣の中にあったらしい」
「ブラックフェザードラゴンが呪いによってカースドドラゴンに変化する。それが番などを作るというのか?」
「おそらくは、元々、番だったのでしょう。それが呪いによってカースドドラゴン化したと言うことだと思われますが、それよりも問題は」
「卵が孵化すると、やつらは餌を求めてここまでやってくる可能性がある、と言うことか」
生まれたばかりのドラゴン種は食欲が旺盛。
とくに、幼少期に食べた餌の質により、その後の成長度合いに変化が現れるらしい。
そして天翔族はいわば、この霊峰の守護者。
潜在的な魔力強度、戦闘技術などは多種族に遅れをとることはない。
つまり、カースドドラゴンにとって最高の餌場が、目の前にあるようなものである。
「対策は?」
「卵と親、どちらも同時に処分しないと不可能。最低でも親さえなんとかできれば、卵はその後で破壊すればいい」
「難易度が倍になったようなものじゃからな。しかし、セッセリにそれを告げなくてもよかったのか?」
あの場でそれを説明し、援軍をさらに増やしてもらうと言う選択肢はあった。
だが、托卵中のドラゴンの討伐など、依頼難易度では最高峰に位置する。
王国などが国を挙げて行うクエストなどでしか見たことがなく、自由貿易国家では未だ見たことがない。
「告げたところで、状況は変わりません。むしろ、他の霊峰に住まう天翔族の元に逃げてくれるなら……」
「ふむ。勇気ある天翔族は、最後まで戦うのではなかったのか?」
「援軍が間に合わず、私たちが全滅したとしても。マクシミリアン殿やミハルどのが、セッセリを諌めるでしょう」
「そういうことか。まあ、わしもここまで付き合ったのじゃから、最後までは付き合うとするか」
そう呟きつつ、玄白は霊峰の更なる頂を見上げる。
いつ、この集落が襲われるやもしれない恐怖感はあるが、それよりも、このまま天翔族を放ってはおかないという気持ちが優っていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




