異形の騎士たちと、解放された回廊
『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。
玄白と別れ、マクシミリアンとミハル、セッセリの三人は大空洞外の村へ救援要請を行うために移動を開始。
真っ直ぐに森を抜けて霊峰地下空洞へ向かう竪穴に到着すると、一心不乱に螺旋状の通路を降りていく。
そして横穴に辿り着いたとき、三人は思わず絶句してしまう。
「……ここまで押し返していたのか……」
「凄い、こんなところまで」
結界の外では、冒険者とアンデットの群れが戦闘を繰り広げている。
その足元にはゴブリンなどの亜人種の死体が転がり、それに足を取られないように剣を振り、魔法を飛ばし、倒れた仲間たちを後方へと連れ戻している。
壁のように横一列に並んだ盾戦士たちが守りを固め、その前方で大剣を振り回した重戦士たちが活路を見出す。
飛び道具には魔法使いの迎撃魔法が飛び交い、飛んでくる矢を次々と撃ち落とした。
「うわぁ……何が起こったんだ?」
三人は状況を確認すべく結界から外に飛び出すと、後ろで指揮をとっているギルドマスターの元に駆け寄る。
「ギルマス、これは一体、何が起きたのですか?」
「ん。誰かと思ったらマクシミリアンか。例の護衛任務は終わったのか?」
「いえ、問題が発生したので、一旦ギルドまで戻り依頼をしようかと思っていたのですが」
「それは無理だ、今はここを押さえているのが精一杯だからな。自由貿易都市から派遣されてきた騎士たちがかろうじて抑えているのだが、恐らくはダンジョンコアのある階層まで押し込むことはできない。今は、この階層の解放が精一杯だ」
そう説明するギルドマスターの視線の先には、盾を構え槍を持った戦士の姿がある。
赤い鶏冠のような毛をあしらった兜、円形の盾、右手に構える手槍と、マクシミリアンの知る戦士や騎士の装備とは異なる。
そしてなりよりも歪なのが、上半身裸でマント一枚のみ。
鎧を身につけておらず、腰に下げたショートソードとパンツ姿。
太ももを覆う金属鎧もない。
「うわ、なにあのひと、あんな装備で大丈夫なの?」
「大丈夫なはずがあるか。いきなり騎士たちを引き連れてやってきたかと思うと、真っ直ぐに部下たちと共に大空洞に飛び込んできたんだ。しっかりと王の書簡も持っていたから信頼しているが」
蒼説明を受けている最中にも、騎士たちは前に進む。
少し進んでは切り込み部隊が敵を殲滅し、また進んでは殲滅を繰り返す。
魔法使いがひたすらに守りに徹している戦法など、マクシミリアンは見たことも聞いたこともない。
普通なら敵を引きつけるために最前列に出るはずの盾戦士が、一枚の壁のように後衛を守るだけというのも意味不明。
「陽動で敵を引きつけて仲間が倒す、それが盾戦士じゃないのか?」
「信じられないことに、彼らは防御強化と超体力しか使っていない。それだけで、後ろを守りきっている。それよりも、援護に回れるか?」
「やります、前列に出ます」
「では、私は後衛に」
背中の大剣を引き抜き、アンデッドめがけて走りだすマクシミリアン。そして力一杯大剣を振り上げると、そこに闘気を込めて一気に振り落とす!!
──ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
振り落とした大剣から放たれた衝撃波がアンデットの群れを真っ二つに分断したのと、上半身裸の騎士が真っ二つになった空間を奥に向かって走り出すのが同時!!
「ウォォォオオォォォォ!! アテナイよ、我が槍に加護を与え給え!!」
叫びつつ前方に向かって高く飛ぶと、その向こうに立つローブ姿のアンデットの胸元目掛けて槍を突き刺す!!
「馬鹿な、相手はリッチロードだぞ? あんな槍一つで倒せるはずが」
──ブシュゥゥゥゥゥゥ
マクシミリアンが叫ぶのと、リッチロードから黒力が噴き出して崩れ始めるのもほぼ同時。
『己れ己れ、口惜しや……』
呪いの言葉を紡ぎつつ、リッチロードが消滅する。
それまで体勢を整えつつ進軍してきたアンデットの軍勢が右往左往しつつ無差別な攻撃を始めたかと思うと、それまで壁のように構えていた騎士たちも構えを解き、腰の剣を引き抜いて走り始めた……。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
マクシミリアンたちが合流してから六時間後。
大空洞第一回廊は制圧、第二回廊へと続く巨大な扉が仮封印される。
監視用に依頼を受けた冒険者たちが封印された扉の前で待機しているほかは、魔物の死体がダンジョン効果により消滅する前に素材の剥ぎ取りなどを開始。
このダンジョンに魔物や冒険者の死体が吸収される原理については、未だに解析が進んでいない。
そして残った冒険者たちは体を休めるために大空洞から外に出ると、そこに広がっている仮設テントへと向かい始める。
その仮設テントの一つ、冒険者ギルドの出張所の中では、マクシミリアンたちとギルドマスターが話し合いを始めているところであった。
「……とりあえずは、これで商用回廊は確保できた。だが、大暴走の原因が収まるまでは、油断することができないな」
「それでも、封印が内部から解除されることはまずないはずですよね? それなら、今のうちにカースドフェザードラゴンの討伐に協力してもらえますか?」
「カースドフェザードラゴン?」
一体何が起こったのかと問いかけるギルドマスターに、マクシミリアンたちが淡々と説明を始めるが。
腕を組んだまま、ギルドマスターは唸り声を上げているだけ。
「しかしなぁ……今、ここにいる冒険者たちにドラゴン退治の依頼を出しても……奴らは動かないと思うぞ」
「何故ですか? 私たち冒険者にとっては、ドラゴンの素材が手に入る可能性があるのですよ? その希少価値はギルドマスターもご存知のはずですよね?」
「まあ、落ち着けミハル。確かにお前の言う通り、我々ギルドに取ってもドラゴンの素材は欲しいところだ。だが、今はタイミングが悪い。この大空洞から発生した大暴走を止めるために、結構な数の冒険者が命を失ったんだ」
現状を説明するギルドマスター。
大暴走の鎮圧のために結構な数の冒険者が命を失った。
また、生き残った冒険者たちも装備が壊れたり魔法薬を買い直したりと、すぐには動くことができないらしい。
それに、今回手に入れた素材の売り上げもそこそこ高く、今すぐにドラゴン大退治に行く必要があるかどうかと問われたら、少し考えてしまうらしい。
「……それでは、我々に死ねと言うのですか? 我ら天翔族の命運が尽きるやもしれないのですよ」
「だから待て。セッセリの気持ちもわかるから、ギルドからは依頼を出す。その上で、どれだけの人数が集まるのか、それはわからないのだが」
「では、先ほどの騎士たちにも依頼を出してください!!」
セッセリは、六時間前に見た騎士たちのことを告げる。
彼らの持つ力なら、ひょっとしたらドラゴン相手に勝てるのかもしれないと。
「ああ、彼らならすでに引き上げたが?」
「引き上げ……え?」
「待ってください、まだ六時間ですよ? 体を休める時間も必要ですし、そんなに急ぐ必要があるのですか?」
「ある。詳しくは言えないが、彼らの行動についてはかなりの制約を受けている。
「具体的に教えてください!!」
そう問い詰めるミハル。
すると、ギルドマスターは観念して、話を始めた。
「夕方六つの鐘が鳴ると、何もできずにその場に硬直する。そして朝方六つの鐘が鳴ると同時に、再び動けるようになるらしい。だから、鐘がなるまでに安全な場所に向かう必要があるそうだ」
そんな馬鹿な。
それではまるで呪いではないか?
そうマクシミリアンたちが思ったが、言葉には出てこない。
「もしも呪いなら……スギタ先生なら解けます。彼らに会わせてください」
ミハルが懇願すると、ギルドマスターも頭をかきつつ指差す。
「この先の街道沿いにある宿場町。時間的にそこの宿にいるはずだ」
「わかりました。早馬を飛ばして話をしてきます」
そう告げてミハルがテントから飛び出す。
「セッセリさん、単独飛行で集落まで戻ることは可能ですか?」
「え、あ、私一人なら霊峰を外回りで飛べますから可能ですけれど。何があったのですか?」
「スギタ先生に、この手紙を届けてください」
そう説明しつつ、マクシミリアンが手紙を書き出す。
件の騎士たちの呪いを解けるのは、玄白のエリクシールのみと判断した。
だから、サンプルとしてエリクシールを数本、セッセリに持たせて欲しいと懇願したのである。
それを理解したのかセッセリも手紙を手に外に飛び出すと、霊峰山頂目掛けて飛び始めた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




