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悪夢と災禍と、命の価値

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日の更新です。

 朝。

 玄白は宿で目を覚ました。

 先日の天翔族の長との話し合い、カースドラゴン対策については玄白たちが口を挟める状態では無かった。

 彼にとっては、この集落が存在する霊峰が聖地であり、ここを離れることは考えられないと言う。

 そのため、カースドラゴンがこの地に住み着いたとするなら、彼らは種族全ての命を賭しても戦い、この霊峰を護るという。


 たとえ、種族が滅ぼうとも。


 その覚悟が、人間である玄白には理解ができない。

 命を賭けてまで守らなくてはならないもの、そんなものが存在するというのが、彼には理解が及ばなかった。

 一番近い考え方ならば、『武士道』がそれに当たるのだが。

 そんな一銭の価値にもならんもののために、玄白は命を捨てる気はない。

 かといって、このままでは天翔族は滅ぶ。

 なんらかの対策を考えていたのだが、結論が出ぬままに寝落ちしてしまい、朝を迎えてしまった。


「……最悪の目覚めじゃな」


 井戸で顔を洗う玄白。

 その側では、やはり目覚めが悪かったのかマクシミリアンとミハルの二人も顔を洗っている最中である。


「おはよう、ランガさん」

「よく眠れ……てませんよね。やはり、考え事を?」


 マクシミリアンの問いかけに、玄白は素直に頷く。

 こんなところで見栄を張る必要もないと思い、昨晩の話に対する対抗策がないものかと考えていたことを告げる。

 それについてはミハルもマクシミリアンも同じであったのだが、相手はカースドラゴン、『都落とし』やら『騎士団キラー』などといった二つ名で有名である。

 そんな輩相手に、まともに戦って勝てるはずがない。


「カースドラゴンを説得するしかあるまい。じゃが、そんなことが可能なのかどうか」

「先日も話した通りです。ブラックフェザードラゴンが母体のようなので、話し合いがまともに通じる相手ではありません」

「そうそう。それに、カースドラゴンの呪詛をどうやって祓うのか、そんな方法もないのですよ?」

「いや……無いこともないんじゃがなぁ」


 解体新書ターヘル・アナトミアを取り出し、霊薬エリクシールを取り出す。

 カースドラゴン対策にと昨夜、解体新書ターヘル・アナトミアをしらみ潰しに読み込んだ結果。カースドラゴンの呪詛を引き剥がすことは可能であることが分かった。

 そのためには、口の中に直接、エリクシールを叩き込んで飲ませる必要があるのだが、それを成せるだけの手段が見つからない。


「……ということで、このエリクシールがあれば、カースドラゴンの呪詛を剥がすことは可能。しかし、その後のブラックフェザードラゴンとの戦闘を生き抜くことができるのかどうか、それがハッキリとしないことには、こんな危険な手段は使えぬぞ」


 手がないわけではない。

 それが分かっただけでも進歩なのだが、やはり戦闘を避ける手段は存在しない。


「とりあえず、天翔族の長にもその話をした方が良いですね。その上で、今後の対策を考えてくれることを期待しましょう」

「うんうん。ひょっとしたら、なにかとんでもない裏技があるかもよ?」

「裏技? それはなんじゃ?」

「かつての勇者様たちが話していた作戦らしくてですね。最後の切り札とか、表向きの作戦ではなく、やや姑息な作戦のことを裏技と呼んでいたと聞き覚えています」


 今から300年ほど昔に、この世界にやってきた四人の勇者。

 彼らの残した名言などは、今でも『勇者語録』として語り継がれ、書籍として残されている。


「ふぅむ。その裏技とやらがあるかどうか、それを確認してみるしかないか」


 こうなると、天翔族の運命なので判断は長に委ねるしかない。

 そう判断した三人は、急ぎ朝の家へと向かうことにした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「カースドラゴンの呪詛を剥がす? そんなことが可能なのですか?」


 長の家に向かい、玄白の思い付いた作戦を説明すると。

 予想よりも長の食いつきが良く、前のめりになるように玄白に問いかけている。


「うむ。このエリクシールを飲ませることができれば、呪詛如きは解除できる。つまり、カースドラゴンがブラックフェザードラゴンへと戻ることになる。その後でなおも戦闘になるとしたら」

「天翔族の戦力で、ブラックフェザードラゴンに敵うのですか?」


 玄白の言葉にマクシミリアンが続く。

 今の天翔族の戦力で勝てるかというと、マクシミリアンの試算では不可能。

 ドラゴンスレイヤーの称号持ちが存在しない以上、ブラックフェザードラゴンを瀕死まで追い込む前に天翔族は全滅する。


「戦わなくてはならん。霊峰を守る、それが天翔族の使命ゆえに」

「あの、その戦闘になる場合なのですけど、大空洞外の村の増援があった場合はどうなりますか?」


 ミハルの問いかけに、長は腕を組んで考える。

 

「上位冒険者がいるのなら。それも可能な限り一国の騎士団長クラスの実力者がいる場合……それでも被害は甚大」

「でも、一撃で死ななければ、どうにかできますよね?」


 今度は、ミハルが玄白に問いかける。

 つまり、騎士団や冒険者、天翔族の戦闘に頑張れも参加できるかどうか。

 これについては玄白も考えてしまう。

 できるならば、戦闘には参加したくはない。かといって、目の前で起こるであろう戦闘で、大勢の死者を出すようなことは避けたい。

 

「む……むう。これは、今回ばかりは助力するしかないのか。しかし、大空洞外の村の人々が、果たして手を貸してくれるかどうかじゃが」

「それは私とマクシミリアンで説得してきます。玄白さんは、この場に留まって可能な限りは戦闘を避けるようにしてください」

「しかし、大空洞は確か、大暴走の真っ只中ではないか? そんな状況で、いきなりブラックフェザードラゴンを討伐してほしいというのも」

「それならば、集落を守れる最低限の戦士を残し、残りは大暴走の鎮圧に向かわせる。その代わり、ブラックフェザードラゴンを討伐する力を貸してほしいと、話をつけてきてもらえるか?」


 ことは重大。

 それでもマクシミリアンとミハルは頷く。


「セッセリさんの同行をお願いします。話し合いがついたら、すぐにセッセリさんにここに戻ってもらい、大暴走鎮圧のための戦士を派遣してください」

「善は急げだ、すぐにでも出発する」

「ふぅ。では、わしはここに留まる。話し合いの方を、よろしく頼むぞ」


 玄白の言葉に頷いてから、二人はセッセリを伴って長の家を後にした。

 はたして、話し合いの結果はどうなることか。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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