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大暴走は人為的に?

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は、毎週月曜日の更新です。

 リーン

 リーン

 リーン


 鈴の音が、大空洞に鳴り響く。

 その音の周囲には大量の魔物たち。

 まるで感情もなく、それでいて本能的な部分も感じず。

 操り人形のように、黙々と全身を続けている。

 その光景はまるで一種異様、明らかに不自然すぎる。


 その光景の真ん中で、ポッカリと開いた直径5mほどの空間。

 玄白とミハル、マクシミリアン、セッセリの四人は、この異様な光景を目の当たりにしつつも、前に進んでいく。

 途中までは、まだゴブリンやコバルトたちは玄白たちに嫌悪感を抱き、隙あらば襲いかかろうとしていた。

 だが、それも歩を進めるにつれて段々と減っていき、第一回廊中間あたりでは玄白たちの存在自体を機にするものはいなくなっていた。


「……これが、大暴走の中央?」

「いえ、これはまだ先端部分かと思いますが。このように無機質な表情は初めて見ました」


 無機質な表情、その無機質とは何かと玄白は問いたかったのだが、すぐに解体新書ターヘル・アナトミアがセッセリの言う無機質について表示してくれていた。


「勇者語録というやつか。無機質とは、鉄塊のように形を変えないもの、という意味なのだな?」

「そのように使っていたと言われています。玄白さんも勇者語録をご存知でしたか」

「いや、初めて知ったな。待てよ、どこかで聞いたかも……う〜む、思い出せんな」


 そんな話をしつつも、ゆっくりと前に進んでいく。

 幸いなことに、鈴の音が聞こえるたびに魔物たちは玄白たちを避けるように動いてくれるので、歩みを止めることなく先に進めたのだが。


──ボウッ

 突然、前方に火の玉が浮かび上がったかと思うと、それランスのような形状に変化し、高速で飛んできた。


「玄白さんっ!!」


──ドシュッ

 すかさずマクシミリアンが前に出て、飛来するランスを盾で横に凪きた飛ばした。

 

「第一階位の炎の槍か。なるほど、あのあたりからは魔物が変異するようです」


 マクシミリアンが指差した先。

 ここまでは昆虫や狼、ゴブリンコボルトオークオーガといった四大雑魚モンスターに区分される存在が大暴走の尖兵を努めていたが、ここからは中堅。


「……よりにもよってレイスかよ」

「セッセリさん、竪穴の位置はどこなのですか?」


 マクシミリアンが盾を前に構える。

 そしてミハルがセッセリに、竪穴までの距離を問いかけていると、セッセリは前方右にある小さな横穴を指差した。


「あそこの先です。幸いなことに、横穴手前の結界は生きているようなので、そこから向こうに魔物が流れ込む事はないようですが……」

「それでも、結界は完璧じゃない。強度を越える攻撃を受けると砕け散る……その結果、横穴に流れ込む魔物が現れる可能性があるっていうことだな」


 マクシミリアンの問いに、セッセリは頷く。

 

──ボウッ、ボウッ、ボウッ

 一つ、また一つと火の玉が生まれる。

 その揺らぐ炎の向こうには、ローブ姿の透き通った人間たちの姿が浮かび上がる。


「わし、レイスについて知らないのじゃが」

「ダンジョンなどで死んだ冒険者の魂が、悪意ある魔力に染められた生まれた悪霊です。生前のスキルが使えるので魔法攻撃をしてきたり、中には近接格闘型のレイスも存在します」

「対処方法は?」

「神聖魔法の浄化、もしくは聖水が必要ですが……どうも最近になって出回っている聖水は効果が弱く、アンデッド相手にも有効打にならないものがあるそうで」


 つまり、信仰心の強さが聖水の純度を表す。

 お手伝い感覚で造られた聖水が出回ってしまった結果、アンデットへの対抗手段が減りつつあるのかもしれない。


「つまり、浄化すれば良いのか?」

「まあ、魂の浄化ですからね、怪我とかの、ほら、スギタ先生の手術式のような、雑菌とかいうのを殺すやつではないですからね?」

「そうなのか? ふむ」


 解体新書ターヘル・アナトミアを開き、手術式の時に発動する浄化結界を発動する。

 ちょうどスケルトンやらゾンビが増え始めたので、実験的に発動してみたのだが、その範囲内にはアンデットは普通に入り込んでしまう。


「こやつらは、どのような理屈で動いているのじゃ?」

「基本的には悪霊が実態を欲し、死体に憑依して固着してしまうと言われています。まあ、その肉体に残った魂の残滓が悪霊化した場合などもありますけど、とにかく悪霊が引き起こす魔物をアンデットと呼んでいます」

「実態型と非実態型がいて、非実態型の方が上位なんですけど、さらに上になると自らを魔術で不死化する奴もいるんですよ、リッチって言いますけど」


 歩きつつ、飛んでくる炎の槍を薙ぎ払いながらアンデットの話を聞いている玄白。

 やがて目的の横穴手前までやってくると、もう一度周囲を観察する。

 大半のアンデットは玄白たちの持つ鈴の音から流れるように動くため、壁際に到達した玄白たちは無視している。

 だが、先ほどから一定間隔で炎の槍を飛ばしてくるレイスはいまだ、執拗なまでに魔法を唱えてくる。


「あやつは、何故、わしらを狙う? この鈴の音が届いていないはずはないのじゃが」

「……レイスかと思いましたが、さらに高位のアンデットの可能性があります。いや、操られているのかも」

「操られている?」

「ええ。例えばですけど」


 ミハルが玄白たちの真横を指差す。

 ゾンビやスケルトンやらの中に、時おりレイスの姿を見かけることができるのとが、そいつらは玄白たちからは離れるように動いている。

 だが、先ほどから攻撃を続けているレイスは、距離こそ近寄ってこないものの、定期的に魔法を撃ってくる。

 

「あれとアレは、レイスにしては動きがおかし過ぎます。逃げるわけでもなく、一定の距離を保ちつつ魔法を撃つ。俺たちを牽制しているとしか思えないんですよ」

「まあ、それはそれで、この先の動きでわかるじゃろ」


 玄白がそう告げてから、一行は横穴に入っていく。

 すると、先ほどまでの大暴走の重苦しい雰囲気が緩和され、空気が澄んできたように感じる。


──ジョボジョボジョボ

 その結界の入り口に、魔物忌避剤を振り撒く玄白。

 そして先に進み始めるのだが、レイスたちがここに入ってくるような雰囲気は感じない。


「……マクシミリアンさんや、どう思う?」

「俺たちが、回廊の奥に来ないように牽制していたようですね。それで、横道にされたので無視しているような、やはり操られていたようです」

「ふむう。魔物を使役する能力者が、はたまたそのような魔道具を持つものか。まだ、わしの知らないことがあったのじゃなあ」


 感心しつつ、玄白たちは一時休息を取る。

 ここには魔物は来ることがなく、結界と魔物忌避剤のダブル防御を超えられるとしたら人間のみ。

 相手が人間なら、マクシミリアンとミハルでなんとかなるというので、ようやく体を休めることができた。


「ここまで来ると、あとは先にある竪穴を上るだけ。螺旋状に通路もありますし、落下防止用の手すりもありますから安全ですよ」

「そうか。では、体を休めたら少し速度を早めるとしようか。ここまで時間がかかり過ぎじゃよ」


 その玄白の言葉に一同は頷く。

 そして一時間ほどの休憩ののち、先に進み始めることにした。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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