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野戦病院ならぬ、教会診療室を終えて

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

──霊峰麓・ゲラウェイ村

 この村の先にある大空洞を越えた先が、今回の目的地の天翔族の集落。

 そこに入るためには許可が必要であり、セッセリはそれを発行してもらうために、冒険者ギルドにやってきていた。


「おや、セッセリさんじゃないか。集落に戻るのかい?」


 ギルドカウンターにいる猫系獣人の受付が、セッセリの姿を見て話しかけている。

 ちなみに彼女以外にも、セッセリを見ている人物は多い。

 天翔族は膨大な真略を有しており、魔術師としての才能が満ち溢れている。しかも、神聖魔法が使えるものが多く、ヒーラーとして重宝するのだが

 セッセリは魔法が使えず、もっぱら槍の取り回しの方が巧みである。

 それでも、武芸においても獣人を遥かに凌駕する実力者なので、ひくてあまたというのも頷ける。

 その証拠に、セッセリがギルド内に入ってきた時、依頼伝票の掲示板や打ち合わせ用テーブルにいる冒険者たちが、セッセリの噂を始めている。


「ええ。腕のいい治癒師にお願いして、集落の病気を治療してもらうことになりましたので。大空洞の通行許可証を四人分、発行してもらえますか?」

「一人銀貨5枚だから、合計20枚ですね」


 肩から下げているカバンから金貨袋を取り出すと、そこから支払いを終わらせる。

 あとは許可証の発行を待つだけである。

 ちなみに大空洞、一層は近隣の村や町に向かうための横道があるため、誰でも支払いさえできるのなら銀貨5枚で許可証が発行される。

 これは出口の冒険者ギルドに返却すると銀貨が3枚返却されるので、実質の金額は銀貨2枚になる。


──スッ

 カウンターで通行許可証を受け取ると、セッセリは出口に向かうのだが。


「なぁセッセリ。そろそろ俺のパーティの専属にならないか? 待遇なら以前話した通りだ、悪い条件でないことはわかっているだろう?」

「誰かと思ったら、ミーノじゃない。まだ一つのパーティ専属になる気はないので、それじゃあね」


 あっさりと断られて肩をすくめるミノタウロス族のミーノ。

 このように勧誘されては振られるのは、いつものお約束なのである。


………

……


──聖スピカ教会

 大空洞へと続く街道の手前にある、大きな教会。

 普段なら敬虔な信者たちが祈りを捧げるために集まっているのだが、今日はそんな余裕などない。

 大空洞から運ばれてくる怪我人が聖堂に集められ、司祭が回復の祈りを捧げている。

 それでも回復が間に合わないものが多く、村の錬金術ギルドからも大量に回復ポーションが運び込まれていた。


「ミハル殿は重症患者の確認を頼む。マクシミリアンどのは、ミハル殿の指示で患者をわしのところに、動かせないぐらいひどいなら、そこに案内してくれ!!」

「「はい!」」


 すぐさま動き出す二人。

 そして教会の信者が玄白のもとにやってきた時、玄白は無言で商業ギルドが発行した『治療院の許可証』を取り出して見せる。


「ご苦労さまです」

「この怪我人の数はなんじゃ? 何が起こったのじゃ?」

「正確な情報ではありませんが、大空洞一層奥で、大暴走スタンビードが発生した模様です」

「……わかった。怪我人の治癒を行うから、そこを借りるぞ」


 部屋の片隅に走っていくと、解体新書ターヘル・アナトミアを取り出して結界を構築。

 その内部を浄化して簡易手術室を作り出すと、マクシミリアンが連れてくる患者の治癒を開始した。


「な、なんだあの治癒師は?」

「薬じゃない、魔法でもない……いきなり傷口を切り裂いたぞ」

「治癒師じゃなかったのかよ」


 蘭学医・玄白の手術式を始めてみる人々は、目を背けたり、顰めたりしながら玄白を見ている。

 だが、次々と怪我人の治療を行い、今にも死にそうな冒険者が次々と息を吹き返す姿を見て、徐々に玄白に向けている視線が畏怖から感動へと変わっていった。

 魔法薬を用いず手技だけで怪我人を癒すその技法に、教会内で治療行為をおこなっている治癒師や司祭たちは興味が尽きることはなかった。


「……スギタ先生、この患者で重症者は最後です」

「よし、すぐに連れてくるが良いぞ!!」


 気がつくと、教会内で呻き声を上げていた怪我人の姿はすでに存在しない。

 治療を終えたものから、外の宿屋に一時避難している。

 もっとも、玄白が見た患者は直ぐに歩いて帰っていったので、宿が治療を終えた患者で溢れるようなことはなかった。


「……ふぅ。さすがに限界じゃな。魔力が枯渇し始めたわ」


 解体新書ターヘル・アナトミアからエリクシールを取り出し、グビクビと飲み干す。

 残念ながら、魔力さえも回復するエリクシールといえど、玄白の魔力は回復できない。

 

「お疲れ様でした。いったん、宿に戻って体を休めたほうがよろしいですよ」

「そうじゃなぁ。温泉にでもゆっくりと浸かることにしようかのう」


 肩を軽く叩きつつ、玄白は教会を後にしようとしたとき。


「治癒師の方。ご助力、感謝します」


 司祭が玄白に歩み寄り、丁寧に頭を下げる。

 その背後では、助祭や信徒の人々も胸元に手を当てて、頭を下げていた。


「いや、治癒師としての職務を全うしただけじゃよ。あとは任せて構わなか?」

「はい。助祭たちの祈りで治癒できる怪我です。あとは私たちにお任せください」

「そうじゃな。では、あとは任せるとしようか。怪我人の手当て、よろしくお願いしますじゃ」


 玄白も司祭たちに頭を下げてから、教会を後にする。

 

………

……

 

「マクシミリアン殿、ミハル殿。どうするのじゃ?」


 大暴走スタンビートが発生したとなると、大空洞を進むのは危険しかない。

 一層奥というのがどの辺りなのかもわからない上に、天翔族の集落に向かうためのルートはセッセリしか知らない。

 大暴走が収まるまで待つという手もあるが、冒険者であるマクシミリアンとミハルとしてはどうしたいのか、それを聞きたかったのである。


「大暴走が発生した場合。そのダンジョン付近の街にいる冒険者には強制依頼が発生します。基本的には都市防衛戦に参加することになりますが、上位ランクの冒険者にはダンジョンに突入し、大暴走の元凶を止めるように依頼が発生します」

「そこで問題なのは。俺たち【深淵をかるもの】の立場なんだ」


 マクシミリアン曰く、【深淵をかるもの】のランクはトップクラス。特に討伐任務における殲滅力は、ドラゴンすら退治するとまで噂されている。

 実際はそこまで無敵ではないのだが、幾つもの大暴走を止めた実力派チームであることは間違いない。

 だが。

 今現在、メンバーは重戦士のマクシミリアンと狩人のミハルのみ。

 盾戦士のザフトも魔道士のマチルダも、聖騎士のスタークもいない。

 高レベル冒険者ではあるものの、このメンバーでの大暴走阻止に参加するのはかなり危険である。


「……という事で、俺たちだけだと殲滅力が乏しい。かといってスギタ先生にも参加してもらうわけにもいかないから」

「最悪は、大暴走が収まるまでは、この村に留まらなくてはならないのです」


 ことは重大。

 先を急がなくてはならないセッセリのために、先に進みたいのも事実。だが、大暴走の規模によっては、それもままならぬという。


「……困ったものじゃ」


 とりあえず、現状では玄白の回復が最優先。

 先に温泉宿に向かい、ミハルたちはその後で情報収集に向かうことにした。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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