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話せばわかる、いや、それもどうだ?

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

─シュタタタタッ

 朝。

 早朝の鐘の音と同時に、オリオーンの南正門はゆっくりと開かれる。

 それと同時に農夫たちは都市城塞外に広がる田園へと向かい、仕事を始める。


 一方、北正門は南とは違い、殺伐とした雰囲気が流れている。

 正門開放と同時に冒険者たちが飛び出し、北方や東方へ向かう街道を進んでいく。

 目的は国境沿いに広がる大森林と、その中に点在するダンジョン。

 特に東部大森林のダンジョンには隣国であるバスク・ランガ帝国から出発した冒険者も向かっており、時折、冒険者同士の抗争も起きている。


 そのダンジョンの手前、ヴェルディーナ王国側の深き森にドラゴンが住み着いたのは、今から一ヶ月前。

 それまでは安全であった森を横断する街道では、ドラゴンから逃げるために西に向かってきた魔物と遭遇し、襲われる商人や冒険者も少なくはない。


 そして王国は、ドラゴンの討伐を勇者タクマとその仲間たちに託したのだが、タクマたちは色々と理由をつけてはドラゴン討伐に向かう雰囲気はない。

 そして国王からの勅命を受けた騎士たちが合流し、ようやく重い腰を上げることになった。


………

……


 ここまでドラゴン討伐に同行しろと言われ続けた玄白も、ようやく重い腰を上げる。

 とはいえ、そもそもタクマらに同行するつもりはなく、単独で森の中を踏破し、ドラゴンの様子を見てみようと言うことなのだが。


「相手はドラゴンとか言っていたが、解体新書ターヘル・アナトミアにも表記されておらぬからなぁ。まあ、話ができる相手ならばそれに越したことはないし、とりあえずは様子見じゃな」


 森の中を気配を消して移動。

 玄白自身はこっそりと動いているつもりであったが、御神体の効果で気配は完全に遮断されている。

 そのため、玄白が気づかないうちに後ろの方をオークの群れが横がっていたり、一つ隣の茂みの向こうで冒険者たちが潜伏していると言った事も起きている。

 それでも玄白本人は、魔物に出会わなかったのは運が良いと錯覚し、どんどん奥へと入っていく。

 そして。


「……なるほど、巨大なヤモリといったところか。翼もあるし棘もある、こんなものが住んでいるとはな」


 茂みの中から、開けた場所を見る。

 ちょうど泉が湧いている傍で、二頭のドラゴンが微睡んでいるところであった。


「さてさて。どうしたものか」


 じっくりと観察していると、どうやら泉の脇の岩場の部分、そこの窪みを利用して巣を作っていたらしい。

 位置的には巣の内部までは見通すことができないが、卵があるのではという予測も立つ。

 尤も、卵をどうこうしようとか、ドラゴンを討伐しようという気はさらさらない。


──ピクッ

 すると、一頭のドラゴンが目を覚まし、玄白の左奥を睨みつける。

 その直後!!


──ドゴォォォォォッ

 森を真っ二つにする勢いで木々が吹き飛び、衝撃波がドラゴンに向かって飛んでいく。

 だが、その衝撃波はドラゴンの手前に張り巡らされた虹色の結界によって弾き飛ばされてしまう。


『ガグルルフルルルフルル』

 

 喉から警戒音を鳴らすドラゴン。

 そしてもう一頭も目を覚ますと、それは衝撃波の飛んできた方角へと飛んでいく!!


「……はぁ、一体何が起きたと言うんじゃよ」


 慌てて後ろを見ると、森の奥で悲鳴と絶叫と咆哮が響き始める。

 明らかに冒険者たちとドラゴンが戦闘を始めたのが良くわかる。

 そして。


『……そこの貴様。隠れているようだが、何か用事かな?』


 玄白に気がついたドラゴンが、彼に向かって話しかけている。

 場所がバレているのなら隠れていても仕方ないと、玄白は堂々と茂みから表に出ていった。


「いや、そうだな……すまん。盗み見しているようなものだな。ちょうどお主らに興味があってな、遠くからでも見てみようかと思っていたところじゃよ」

『ほう。神の使徒のような反応をだしているが、まさか人間とはな。お主も、我々に害をなすぬつもりか?』


 少しだけ声に覇気を含ませ、ドラゴンが問いかける。

 それだけで大抵の人間は戦意を喪失し、その場から逃げ出すのだが。

 玄白にはドラゴンの覇気は通用しない。

 逆にドラゴンも、玄白の正体がいまいち掴みきれずに戸惑っているようにも感じる。


「それこそまさかじゃよ。わしはランガクイーノ・ゲンパク・スギタという。そこのオリオーンの町の治療院に勤めている治癒師じゃよ。この森にドラゴンが出たとかで大騒ぎになっていてな、討伐するとかどうとか騒いでいるものじゃから、様子を見に来ただけじゃ」


 淡々と説明すると、ドラゴンは時折り頭を傾げる。

 魔力の篭った瞳で玄白の魂の動きを見、嘘をついているかどうか確認しているだけなのだが。

 玄白からは嘘を感じない。


『なるほと、信じよう。それで、様子を見に来ただけか?』

「う〜む。できればドラゴンの生態を知りたい。この本の上に手を乗せてもらえるか? 爪先をちょこんとでも構わんぞ」


──シュン

 解体新書ターヘル・アナトミアを取り出してドラゴンに見えるように頭の上に掲げる。

 するとドラゴンは、疑う様子もなく解体新書ターヘル・アナトミアを爪で軽く突いた。


──ブゥゥゥゥウン

 すると解体新書ターヘル・アナトミアは淡く輝いてから、スッと光を収束する。

 そしてパラパラとページを捲ると、ドラゴンの生態やさまざまなデータが書き記されているページを開いてみた。


『それは神器か。なるほど、神の使徒と思えても仕方がないか』

「まあ、そんな大層なものでもないがな。なるほど、ページが多すぎてここで見るには惜しい。では、帰ってからゆっくりと見ることにしようか」


──ブワサッ!!

 パタンとページを閉じた時。

 上空から先ほど冒険者の討伐に向かったドラゴンが戻ってくる。


『愚かな人間よ。我のいない間を狙って攻めてくるとは卑怯なり』

『待て待て。ランガクイーノ殿は使徒だ、敵ではない』

『使徒だと?』


 大きく息を吸ってブレスを吐こうとしたドラゴンの前に、玄白と話をしていたドラゴンが立ち塞がり、ドラゴン同士で話を始める。


「まあ、そこのドラゴンの話では使徒らしいが、そんな自覚はなくてな。敵対する意思はないから安心せい」

『ほう。貴様も向こうの勇者とやらの手下かと思ったが、どうやら違うようだな。先程、向こうの生き残りにも告げたが、我らは古くからここに住むもの。故に敵対しないのならば、我らは人間如きに手を出すことはない』


 そうはっきりと言い切るドラゴン。

 どうやら、いきなり姿を現したと言う話も眉唾である。

 それよりも、玄白はドラゴンの体のあちこちが傷ついていることに気がついた。


「ふむ。ちょいと待っておれ」


 解体新書ターヘル・アナトミアを開いてエリクシールを作り出すと、それをドラゴンに差し出す。


「傷薬じゃよ、まあ飲め」

『人間が渡すものなど飲めるか!!』

「まあまあ、そっちのドラゴンさんも説得してくれぬか? 容体がどらぐらいなのかはわからぬが、あちこち傷ついて出血してあるではないか」

『そうですね。ラビス、その薬を飲みなさい』

『ラーズリー、この俺に、人間の作った薬を飲めと言うのか?』

『人ではありません、使徒です!!』

『ぐっ。しかしだな……』


 そののち半刻ほど説得を続け、ラビスと呼ばれた傷ついたドラゴンは渋々、玄白から受け取ったエリクシールを飲む。


──シュゥゥゥゥ

 すると、全身が輝いてから傷が一気に閉じていく。

 これにはドラゴンたちも驚きの声をあげてしまう。


『おお、怪我どころが失った体力まで回復したではないか!』

「まあ、そんなところじゃ。では、わしはこれで失礼するとしようか」

『待て、貴様は何をしにここへ来たのだ?』

「森に住んでいるドラゴンに会いに来ただけじゃよ。まあ、あっちの街を襲わないでくれると助かる。お主らも、手を出されなければ何もしないのであろう?」


 そう問いかけると、ドラゴンたちはお互いの顔を見てから、頭を縦に振る。


『まあな。ここは我らの住処故、そこを荒らさなければ何もしない』

『巣と卵に手を出さないのなら、人間を襲う必要もないからな』

「それで構わんよ。わしは冒険者ギルドと領主にそう話しておく。では、またな」


 そう告げてから、玄白はラビスが向かった冒険者の容態を見るために広場へと向かうのだが。

 そこには死体も何もなく、慌てて逃げたのであろう捨てられた荷物が散乱していた。

 

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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