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一介の治癒師に何を求める?

『神器『ターヘル・アナトミア』があれば、異世界なんて楽勝です〜杉田玄白、異世界に転生する〜は.毎週月曜日と木曜日の更新です。定期更新です。

──オリオーン・スラム地区広場

 集まった大勢の怪我人を相手に、玄白は治療を続けている。

 突然姿を表した瓦礫ゴーレム討伐、そこに巻き込まれたスラムの住民。

 これは玄白の機転によりなんとか事なきを得、とどめを刺すべく勇者タクマが落とし穴の底で足掻く瓦礫ゴーレムへ飛び込んでいった。

 

 それから一時間後、玄白の周囲には巡回騎士も集まってくる。

 大きな怪我をしている様子はなく、むしろ玄白から詳しい話が聞きたそうな素振りである。


「そこの騎士、治療なら並べ、それ以外なら終わるまで待て」

「ああ、あのゴーレムの暴走事故について、先生からも話が聞きたいだけですから。終わったらお願いします」

「まあ、終わるまで待ってくれるなら構わんよ」


 ニィッと笑いつつ治療を続ける。

 そして30分後にはほとんどの治療が終わったのだが、勇者タクマのパーティーも広場に姿を表した。


「スギタ先生、タクマの怪我の治癒をお願いします」

「こ、この程度の傷なんか怪我にも入らねーよ。勇者は自己回復能力が高いんだ、酒でも飲んで一晩眠れば治る」


 玄白の世話にはならない。

 そんな感情がひしひしと流れてくるのだが、そんなことは玄白には知ったことではない。

 むしろ怪我は酷く、酒飲んで一晩眠れば完治なんていう軽い怪我ではない。


「どれ……解体新書ターヘル・アナトミアと」


 タクマのページは前回の治療で出来上がっている。

 そのページを開いて見てみるが、右足首が粉砕骨折している。


「ふむ。足首が砕けているか。骨の代わりを作る必要があるが……いや、この時間ならもう魔力を抑える必要はないか」


──シュンッ

 解体新書ターヘル・アナトミアからエリクシールを取り出して手渡す。


「飲め。それで一発で治る」

「チッ……」


 舌打ちしつつもエリクシールを受け取り、一気に飲み干す。


──キィィィィィン

 すふとタクマの全身が輝き、砕けた足首も、疲労の限界で強張った筋肉も、何もかもがまた通りに戻っている。


「なぁ、本当に俺たちとこないか? その治癒能力は魔族の討伐には絶対に必要になる」

「断る。それこそ教会から聖女とやらを派遣された方が良いのではないか? わしは町医者で構わん」

「チッ……相変わらず頑固だな。まあ、もう少し考えろ。俺たちはドラゴン討伐のために、もう暫くはこの街にいるからな」

「勝手にせい。いくら言われても却下じゃよ」


 金貨を十枚受け取り、玄白はそう告げる。

 そして一通りの治療を終えると、騎士たちが玄白の元にやってきて。


「ランガクイーノ・スギタ先生、今回のスラムでの一件、誠にありがとうございます」


 丁寧に頭を下げる巡回騎士団長の一人。

 すると玄白は帰り支度を始めつつ一言だけ。


「わしは落とし穴を作っただけ。あのゴーレムを倒したのは勇者たちであり、スラムでの暴走を最小限に抑えてくれたのはここに住む住民と闇ギルドの人たち。わしは穴を開けただけじゃし、そこまでお礼を言われる筋合いはない」

「そうかもしれませんが、その穴を開けることで被害は最小限にとどめることが出来ました。この件につきましては、後日、王都の宰相殿にも報告させていただきます」


 そこまで大袈裟なのかと玄白は問いかけるが。

 このオリオーンでの玄白の活躍は、この街全体に広がっている。

 そして商人から商人へと話が伝えられ、やがて王都にまで広がり始めているのである。


 こうなると黙っていないのが、王都の貴族たち。

 伝説の霊薬を調合する治癒師ならば、是非とも召し抱えたいと考えるものも少なくはなく、王宮でさえ噂話は広がるっている。

 さらには、聖女の再来かと王都の大司教や枢機卿も、玄白を取り込むために色々と画策を始めているのだが。


「面倒ごとさえなければ構わんよ」

「おそらくですが、後日、王宮からの招集があるかと思います」

「断るわ。この町の患者を無視してまで、王都まで時間をかけて向かう必要もあるまい」


 あっさりと断る玄白。

 そして騎士団としては感謝状と謝礼金を支払いたいと言う申しがあったので、その二つについては速やかに受け取ることにした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 数日後。

 早朝、玄白の治療院の前に、数台の馬車が停まった。

 豪華絢爛な飾り付け、扉には王都の聖教会の紋章が記されている。


「ランガクイーノ・スギタさまはいらっしゃいますか?」


 綺麗な身なりの聖職者が、扉の外で問いかける。

 ちょうど治療の合間であり患者が途切れたので、玄白はゆっくりと扉を開けた。


「わしがランガクイーノじゃが、一体何の用事じゃ?」

「おお、貴方がランガクイーノ・スギタさまですな。私はトワレーノ、王都の聖教会で司教を務めています。本日よりランガクイーノさまは、我が聖教会にて聖女の務めを果たして貰うために、お迎えに参りました」


 ニコニコと説明するトワレーノだが、玄白は頭をボリボリと掻きながら一言。


「帰れ。誰が聖女じゃ。わしが聖女じゃと? そんなの誰が決めたのじゃ?」

「神の啓示がありました。聖女様は奇跡の霊薬を生み出すことができると。それこそ、迷える者たちを救うために必要なのです!! さあ、馬車へどうぞ」

「だから、断ると言ってあろうが。迷える者たちならここでいくらでも救えるわ。病人ならここに連れてこい」


 そう告げると、トワレーノはニッコリと笑って一言だけ。


「どうしてもご同行いただけないと?」

「うむ。人助けなどどこでもできるが。この場所は特に、毎日のように冒険者たちが治療に訪れる。そんな場所を捨てて王都にこいなど、言語道断じゃわ」


──スッ

 その言葉に頬をひくひくと引き攣らせつつ、トワレーノは右手を前に差し出す。


「神よ。このものに戒めを。神の言葉に従いなさい!!」


──シュルルルルッ

 突然、玄白の首に黒いチョーカーが生み出された。


「これはなんじゃ?」

「それは戒めの縛鎖と申します?神の言葉に従わないものに、痛みを与える懲罰の術式です」

「ふむ……」


 素早く解体新書ターヘル・アナトミアを取り出して、ページを確認する。


『戒めの縛鎖……対象者の思考を麻痺し、術を施したものを隷属する術式。犯罪奴隷などに使用される。なお、御神体である杉田玄白には無効』


 なるほどなぁと、玄白は納得する。

 

「その本は何ですか? その神々しいまでの力……ランガクイーノ・スギタよ、それを私に寄越しなさい」

「断るわ」


──シュンッ

 解体新書ターヘル・アナトミアを仕舞う。

 その態度が気に入らないのか、トワレーノが声を少し荒げる。


「私に逆らうとは……神よ、この者に痛みを!」


──シーン。

 何も起こらない。


「へ? か、神よ?」

「何が神じゃ。こんな危険なものでわしを隷属しようとはな!!」


 いつしか周りには人だかり。

 そこに聞こえるように、玄白は大きな声で叫んだ。

 そして首のチョーカーを手に取ると、それを引き千切る。


──ブチッ

「あ、な、何をした!! その呪縛は高難度の呪術だぞ、普通の人間では剥がすことなどできるはずがないのだぞ!!」

「わしは治癒師でな。呪術程度、治療できないはずがないじゃろ?」


 ゴキゴキッと肩を回す。

 そして右腕でスラスラッと術式を組む。

 先ほど受けた『戒めの縛鎖』の術式は、すでに解体新書ターヘル・アナトミアに記述されている。


「ほら、とっとと帰って報告しろ。わしは誰にも仕えない、何者にも命じられることはないとな……ほれ」


──シュルルルルッ

 トワレーノの首に、戒めの縛鎖が生み出される。

 するととは、首の周りに手を当てて必死に何かを唱えている。


「馬鹿な、こんな馬鹿なことがありますか!! 解呪! 解呪! なぜ解けないのですか」

「知らんわ。ほら、とっとと帰って報告せい。さもなくば……いたみよ」


──バリバリバリバリバリ

 トワレーノの全身に激痛が走る。

 

「うぎやぁぁぁぁぁぁぁぁ、し!従いますからお許しを!!」

「停止……と、便利じゃな。ほら、とっとと帰れ」


 その言葉にトワレーノは慌てて馬車に飛び乗ると、そのまま診療所の前から立ち去っていった。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[一言] 御神体には効かないのであった・・・
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