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ep.2 金髪、風に揺れて——。


 彼女、帰山かえりやま言葉ことはと出会ったのは今から丁度一年前の大学一年生、大学裏にある小さな公園でだった。


「ない……。ないよ……」


 学校からの帰り道、一人悲しげな表情で何かを探している彼女に声をかけたのがきっかけだった。その頃の彼女は今とは違ってまだ普通の可愛い女子といった感じだった。


 手を土だらけにし、額からは汗を流しながら必死に何かを探している様子だったのでまさかと思い声をかけた。


「あの、もしかして探し物?」


 彼女はまるでバラのように刺々しく、突き放すようにこう言った。


「そういうナンパは結構です」


 先ほどから何度かそういって声をかけられたのだろうか、こちらに顔も向けず、さもあなたに興味などありませんといった様子で黙々と自身の探し物を探していた。

 だから俺も、興味が無い風を装って一言。


「ここに来る途中に鍵を拾ったんだけど君じゃないなら、近くの交番に届けることにするかな」

「――!?」


 そこでようやくロングの髪が大きく揺れ、視線と視線が絡まりあう。

 遅まきながら彼女と俺の初対面となった。




 その後は、まあなんだ……。

 名前を教えあったことをきっかけにして話をするようになって――といった感じでとんとん拍子に話と関係が進んで行き恋人になるに至ったわけだ。


 それが思い出せる限りの彼女との最初の出会いだった。

 そんなロマンチックに見える出会いも、運命とは呼べずにこうやって関係を振り出しに戻す。だから人生というものは難しい。

 運命に見える出会いはあっても、それを運命と呼ぶのはきっと人生最後の瞬間なのだろうから。


 だから、きっと彼女との出会いは運命でもなんでもなく偶然が生み出した産物なのだろう。

 今更いったところで何もかも手遅れなわけだけど————。








 本日の授業は昼までということもあって、奈津なつさくとはここでおさらばという事になる。あいつらは午後からも授業が入っているからな。

 いつもの通り、学校の裏口から家の方向に向かって歩き出す。

 そんな時だった。


「あ、あの――!!」


 最初は誰を呼んでいるのかがわからなくて、イヤホン越しに聞こえたその声に気づかない振りをしてそのまま歩きつづけていたのだが、その声の主は俺に呼びかけをしていたようで再度肩を叩かれながら、左耳のイヤホンを外されて耳元でやさしく囁かれる。


 ————!?


 一瞬背筋に震えのようなものが走る。驚きとこそばゆさのようなものが同時にやってきてすごく不思議な感覚だった。


 振り返ったその先には光が舞い散っていて――否、太陽の光を反射させるかのようにキラキラと輝くブロンドの髪が春風に揺れて波打っていた。


「あの、こんにちは! そしてお久しぶりです善さん」


 そのなぜか不思議にも俺の名前を呟いた彼女は俺に対してこう言って来たのだ。


「あなたに会いに来ましたよ、約束の通り」


 すべてを包み込むような、優しく、温かな笑みを浮かべて――。





 目の前の状況にどういった対応をするのが最適なのか、俺はそれを考えるに必死だった。

 ふと目の前に現れたブロンド(仮称)は、なんて言った?


「俺の間違いじゃなければ、約束の通り……って言ったか?」

「はい、言いましたよ?」


 きょとんとした表情を浮かべ、それがどうかしましたか? と言いたそうな感じだ。

 俺としてはなんでそんな反応なの? と聞き返したい場面な訳だがそれは俺が場違いみたいになりそうなのでやめておこう。


「その……、俺の勘違いじゃなければ君と会話をするのでさえ今日が初めてなんじゃないかと」

「初めてではないですよ! 私とあなたは去年この大学の中で出会っています!」


 不思議なこともあったものだ、いい意味でこんな子と同級生であれば忘れないはず……ん? 待てよ……。


「君って今何年生だ?」

「今年大学一年生になりました」


 ……やっぱりか。俺の中で納得がいった。確かに俺と彼女は会ってるのかもしれない。


「去年の秋ごろのことだな?」

「はい! 思い出していただけましたか!」


 そう、これもまた俺の小さな善行が起こした出来事というわけだ。


 去年の秋、時期的には彼女にとってのオープンキャンパスの時期だ。その案内所にたどり着けず迷っていたところを俺が見つけたというわけだ。

 それが幸か不幸か、日本に不慣れなこともあり仲の良い人が案内したほうがいいのでは? という勘違いの結果なぜか彼女のことを俺一人が案内することになった。


 彼女としても特別扱いされるのは嫌ではないのだろうかとも思ったが彼女がそれで満足そうだったので何も言わなかった。


「あ……ノ、名前、聞イ……ても、イイです?」


 今よりも大分カタコトな彼女の言葉は、どこか可愛いらしかったのを覚えている。


「俺の名前は善だよ、三科善」

「善……善ッ! 覚えました!」


 大学内の解説の終わり際、そんなやり取りをした。


「あ~、そうだ君の名前は……」

「ソフィアです! アニシェヴァ・ソフィア・イヴァノブナ……ト、言い……ます。私のこと、ソフィーと呼んでくだサイ」

「わかったよソフィー」


 そして俺は最後に通った生協の近くで思い出したことがあった。


「あ、ちょっと待っててソフィー」


 時間も時間だったので急いで俺は生協に向かう。五分ほど経ち、急いで戻った俺は少しだけ息を切らす。それを見たソフィーはとてもあたふたとしていてなんだか可愛かった。


「ソフィーこれ」

 

 俺は一つのお守りを手渡す、真ん中には綺麗に学業成就と入っている。


「これ……は?」

「それはねお守りって言うんだ。大事に持っておくと良いことがあるかもしれないよ」

「おまもり……」


 不思議そうにそれを見つめていた彼女だが、やがて納得したように一つ頷き慣れない日本語で「ありがとうございます」と言った。


「いいえ! 君がもしこの大学に受かったら後輩だね」

「はい! 受かります! 約束(・・)です!」


 このお守りは大学で売られている一種の応援アイテムだ。

 お守りを愛しそうに、大切に抱きしめるソフィーを見て少しだけ誇らしい気持ちになった。


「じゃあ、説明会のある教室へと案内するよ」

「お願いします!」


 いつの間にか俺らの間にあった壁のような何かは無くなっていたんじゃないか、そうだと良いなと勝手に思っていた。


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