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ep.1 善がもたらすは別れだけでなく……?


「誰彼構わず人を助けたくなるのはあなたのいい所なのかもしれないけれど、それが巡り巡って私を傷つけているってことになんで気づいてくれないの? そんな善人すぎるあなたが嫌だったの」


 そういった彼女の口元は少しだけ寂しげで、だけどやっと口に出せたというような安堵のようなものも同時に浮かべていた。


 彼女からそんな悲痛な叫びを聞いたのは、彼女と付き合ってから初めてだった。いや、最初で最後だったというべきか。

 この話の切り出しから、その後の展開をなんとなく感じ取っていた。


「ごめん」

「こんな思いするくらいなら、私はぜんと一緒にいられない。だから別れましょう」


 別れるという言葉が胸に突き刺さる。

 ただ、その選択をまるで傍観者のように、彼女にとっては"いこと"なのかもしれないとそう思えてしまったのだから俺は救いようがないのかもしれない。


 今日、俺は彼女と初めて出会った場所、それでいて彼女から告白された場所でもあるこの場所で、別れの告白をされている。


 彼女はモデルをやっており他の男子からの人気も高く、俺とでは釣り合いが取れていないんじゃないかと思っていたのは確かだ。


 その勿体無さといえば五百円の買い物に一万円を出しているようなものだ。それでいてお釣りはいらないと言っている感じ。


 もちろん俺にとって出会いは嬉しいし、別れは辛い。でも彼女にとってそれが最良なのであれば受け止めるつもりだ。だから、ここで俺が彼女に対して出した解答は。


「わかった。それと今までありがとう」


 こういうものだった。

 これが正解なのかは分からないけど、それでも彼女のためになるならばと惜しむ気持ちや、もっとこうしてあげられたらなという思いを飲み込んだ。


 今までの表情と一変させ彼女はまるで自分が振られているかのような悲しい表情を浮かべ、言葉を、思いを吐き出した。


「本当に別れるって言うんだね善は……もういいっ! さよなら」


 そうして彼女は俺の前から、関係と共にいなくなった。

 願うことなら、彼女が今後良い出会いがありますように。モデルの彼女にとってはきっと思うだけありがた迷惑なのかもしれないけれどそう思わずにはいられなかった。

 四月、出会いの季節が俺らに別れを運んだ。 






「善、あの子と別れたんだって? もったいないことするよね~」

「俺だったら何が何でも引き止めてたぞ!」


 現在俺は友人二人に囲まれながら食堂で傷心パーティを開催中。なおパーティのメニューは残念なことに味噌ラーメン。パーティというには少々物足りなさを感じてしまう。というかこれ自分で自分の分払っているんだし、ただの昼食だよね。


「いや、言葉ことはにとってそれが最良だったんなら引き止めるほうが申し訳ないというか、それに嫌だって言ってるのにそれを引きとめてもお互い良い思いしないでしょ」

「お前は淡白というかなんというかなぁ」


 友人の片方、戸塚とつかさくは件の女の子、帰山かえりやま言葉に告白し数秒待たずに玉砕している。見た目は良いだけに誰もがその成功を疑わなかったのだけれど朔の恋は泡沫うたかたのように儚く散った。


「でもさ~、なんでまた急にそうなったの?」


 そしてもう一人、青山奈津(なつ)を含んだ三人で大学一年の頃から仲良くやっている。奈津はこんな名前をしているがれっきとした男子で、よく色々な人から男子を装った女子扱いで弄ばれている。


「いや、俺にもさっぱりというか。いつも通りにしていたらそれが私を傷つけているのっていわれて」

「あ~なるほどあれね」

「あれだな」


 二人が恐らく想像しているのは、俺の趣味というか無意識というか。とにかくそういう類のものだろう。


 俺は三科みしなぜんという名前で、その名前にもある通り善行を大事にして生きてきた。もちろん俺にだって一から百すべてに対して何かをすることは出来ないけれど、それでも身の回りの小さいことくらいは何か行動しようというモットーの元に日々を過ごしている。


 だが、それが彼女にとって不服だったようでそれをきっかけとしてあっさりと振られてしまったというわけである。


「でも、あの帰山さんを落とした善のことだし、なんかとんでもないことをまたやらかすかもしれないから僕は楽しみにしているよ!」

「過剰な期待をするな!」

「俺も期待しているぜ!」

「お前ら、俺を慰めるんじゃなかったのかよ」


 意外と俺も、傷ついてはいるんだからな。その点ちゃんと理解していますかね? 誰に言うでもなく心で呟いた。



この作品に見た覚えがある方もいらっしゃるかもしれませんし、そうでない方もいるかもしれません。

本作は私にとって無念の残る作品であるため、その無念を晴らすべくじゃないですが皆様に読んでいただきたい作品です。

ぜひ、本作を楽しんでいただけたら幸いです。

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