思い出のコーヒー
全身の震えが止まらない。頭の中がグルグルと回っている。
「おまたせしました。ブラックコーヒーになります」
カフェの店員が、テーブルカップを置く。
「お、お客様?いかがなされました?」
「はっ!?」
目と目が合って我に返り、慌てて震えた手でそれを口元に運ぶ。
「熱っ!!にがっ!!」
やはりコーヒーは好きじゃない。何回飲んでも慣れない。しかし、手足の震えは治まっていた。そして不思議と勇気も出できた。本当、あの人には助けてもらってばかりだ。
5年前、山奥で山菜取りをしていた時偶然にも人食い熊と遭遇した。足がすくんで逃げだすことすらもできなかった所を、一人の男に助けられた。彼は名を語らなかったが、胸にこの国の騎士である勲章をしていた。後にわかったことだが彼は帝国でも、5本の指に入るほどの人物らしい。腰を抜かして動けない自分を安全なところまで担いでくれた。その時に彼がくれたのが、コーヒーだった。ブラックのかなり苦かったのを今でも覚えている。自宅まで送られる道中色々なことを聞いた。冒険譚を聞くと、自分も彼みたいになりたいと心から思うようになった。
最後にあなたに会えるかと聞いたときに、
『同じ道を歩んでいるのならきっとまた会えるさ。君が人のために努力をしているならきっと会える』
この言葉があったから、これまでどんなにつらいことでも耐えてこられた。
「お~い、そこの君。上の空だけど、私の声聞こえてる?」
「うわっ!?」
見知らぬ女性に声をかけられ思わず声を上げてしまった。
「驚かせてごめん、バッチをつけているから私と同じ入団希望の人かなと思って声かけたんだ。私の名前はフラン」
突然のことに理解ができないが、『フラン』という言葉には聞き覚えがあった。
「それコーヒー?苦いのによく飲めるね。私の師匠と同じだ~」
「師匠?」
「私の師匠、帝国でも優秀な騎士なんだ。それで私も騎士になるためにここに来たの」
思い出した。“彼”のことだ。たしか、自分と同年齢の弟子がいると言っていた。
「あ~、さては思い出したな~」
ニヤニヤと笑みを浮かべて少女は自分の隣に腰をおろした。
「じゃあ君が師匠の言っていた人か~」
彼女は経緯を教えてくれた。僕に会ったこと。おそらく僕が騎士団の試験を受けること。加えて当日はカフェでコーヒーを飲んでいるであろうということまで。
「やっぱり、すごいなあの人は」
「でしょ!だって私の師匠だから!」
胸を張って答えるフランの笑顔を見ていたら自然と笑顔になっていた。
多分これも、あの人の予想通りなんだろう。直感でそう思った。
「じゃあ、君の緊張も解けたみたいだし、行こっか」
手を差し出すフランの手を僕は迷うことなくつかんだ。
きっとこれから先、今まで以上に大変な事があるかもしれない。でも、きっと乗り越えることができる。彼女の笑顔がそれを確信させてくれた。




