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09

ここから第二章です。

 冒険者ギルドにホーンラビットを持ち込んだら、確かに1匹あたり数日分の食事代くらいで売れた。


「あ、ユリカさん、『レインボー』のサンプルが売れましたよ。できれば、毎日3個は納入してほしいそうです」

「そんなにですか!?」

「他の街に売りに行く商人にも需要があるようです」

「なるほど……。わかりました、エミナさん。午前中にはギルドに持ってくるようにしますね」


 うーん、始めてまだ3日も経ってないのに、結構儲かるんだなあ。でもこれ、住居代や工房代がかかってないからだよね。


「ねえ、お兄ちゃんとセイジくんには毎日どれくらいお金を渡せばいい?」

「いやいや、俺達はもともとユリカから金を取るつもりはないぞ」

「でも……」

「実際、これから一年はずっとこの世界(A.C.O)で暮らすんだ。現実世界の片手間で遊ぶのとは訳が違う」

「だからこそって思うけど……」


「じゃあさ、ユリカちゃんが僕らよりたくさん儲けるようになったら、今の家をもっと大きくしてよ!」

「あ、セイジくん」

「そうだな。作業部屋が工房並になればやれることが増える」

「ふたりの方が、先にお金溜まりそうだけど……」


 食事や睡眠が必要である以上、この世界でも相応の稼ぎが必要だ。現実世界から課金とかできるわけではないから、なおさらである。そう考えると、時間加速前のA.C.O.で既に生産職トップになっているふたりの方が圧倒的に有利だろう。


「まあ、私が本当にそんなに儲けるようになったら、別の家を手に入れるかも」

「え、なんで!? ずっと一緒に住もうよ!」

「ユリカ、まさかとは思うが……」


 お兄ちゃんが、フォルトさんをちらっと見る。


「……や、やだなー。フォルトさんとは、今日知り合ったばかりだよ?」

「なら、俺の目を見ろ」

「……」

「おい」


 いやまあ、ほら、可能性としてはそういうこと(・・・・・・)もあると思うんだよね? うん、あくまで可能性だよ?


「え、えっと、とにかく、今からお昼にしない? ここの併設の食堂で!」

「そうだな。フォルトもここでいいだろ?」

「ああ。宿の昼飯は別料金だから問題ない」


 冒険者ギルドの食堂はどちらかというと酒場だけど、お昼は普通にセットの食事もとれるのだ。


「あ、僕も僕も!」

「セイジくんも一緒? なら、エミナさんも呼んできてね。受付もそろそろお昼休憩だし」

「えっ……なんで、エミナさんも?」

「ゆうべのこと聞きたいから」

「ゆ、ゆうべって……」

「聞きたいから」

「……はい」


 よし、フォルトさんもいるし、お昼が楽しくなりそうだ!



 お昼を食べ始め、『ゆうべのこと』を一通り聞いた後。


「へー。それで、ホーンラビットをあんなに」

「ああ。森の入口付近でいつもあれだけ出てくるなら、それだけで生きていけそうだ」


 かちゃかちゃ

 ぱくぱく


「ユタカさんの推測通りです。ユリカさんの魔法付与が影響していますね」

「魔物が増えるのも良し悪しだがな。捌ききれずに逃げ帰って、街に呼び寄せても問題だ」


 ごくごく

 もぐもぐ


「僕のポーションを入れる瓶に魔法付与してもらうのもまずいかな?」

「魔力を流さなくても影響があるのか?」

「パッシブ発動だとまずいかもしれませんね。細かい設定は私も知らされてなくて……」

「検証してみるか。ユリカ、お前なら時間をかけて試行錯誤するのが……ユリカ、どうした?」


 かちゃ


「……おいしくない」


「美味しくないって、この料理がか? ホーンラビットの肉はうまいと思うが」

「このパンも美味しいよね?」

「宿の食事よりも美味しいのは確かだ」

「スープもサラダも悪くないと思うのですが……。ユリカさんにはそうでもないのですか?」


 と、いうかですね。


「パンとスープとサラダと肉料理。昨日からこれだけなんだけど」

「確かに、構成としてはそうだな。この世界の標準というか」

「異世界作品ではお馴染みですが、和食の一汁三菜がモデルとも言われています」

「なるほど、米飯に味噌汁、漬物に焼き料理か」

「でも、この世界は中世ヨーロッパ風ってことになっているから……」


 だんっ


「決めた! 私、料理スキルも極める! もっと多彩な料理が食べたい!」


「料理、か。ユリカは現実世界でも好きだったからな」

「そうだね。でも、そんなユリカちゃんに残念なお知らせが」

「え?」

「エミナさん……いや、フォルト、言ってやってくれ。料理スキルのことを」


 振られたフォルトさんが、きょとんとした顔をする。いや、困惑していると言った方がいいのかな? んー、困った顔は見たくないかなあ。


「言うも何も……。ユリカ、『料理スキル』ってなんだ?」

「……へ?」

「ユリカさん、申し訳ありませんが、この世界(A.C.O.)には料理に関するスキルや魔法がありません」


 なんですとー!?


「魔法やスキルで、食材を切ったり焼いたりすることはできる。だが、それだけだ」

「よくわからないが、調味料はある。塩は『調合』スキルで海水から作るのだったか?」

「まあね。この街の近くには海がないから作れないけど。胡椒は森に素材があるから作れるね」

「料理という行為そのものは、現実世界と同じと考えて良いでしょう。ただ、切るだけでも魔法やスキルが必要ですから……」


 つまり、この世界で『調理』をするには、いろんな魔法を使えるプレイヤーやNPCを集めないとできないことになる。実際、お湯を用意するだけでも、水魔法と火魔法が要ることになるし。


 ん? お湯?


「ねえ、家のお風呂って、魔法付与した魔石に魔力を流して、お湯を出してたよね?」

「ああ、そうだが……って、ユリカ、まさかお前……!」

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