08
ということで、フォルトさんとお兄ちゃんとで臨時のパーティを組み、街から出て森に入った。宿の近くの入口からは、森がすぐ近くだった。
「歩いて数分もすれば、ホーンラビットが……ああ、早速出てきた」
「邪魔になりますね。私達は後ろに下がります。ほら、お兄ちゃん!」
「ユリカ、お前、MMORPGは初めてじゃなかったか?」
「恋愛ゲームのバトルシーンはやり込んだことがあるよ。ヒロインは手を出さず攻略対象達だけの攻撃っていうのが一番効率良かった!」
「なるほど……なのか?」
私達が後ろに下がる間に、フォルトさんが剣を抜く。既にフォルトさんをターゲットとしていたホーンラビットが、3匹ほど向かってきている。
ぼうっ……
あ、フォルトさん、剣に魔力を込めたかな。一瞬、うっすらとした光が剣を包み、すぐに消えた。
「ふんっ!」
ひゅんっ
ざくっ
目つきがキツいウサギ達を、確実に狙いを定めて一刀両断していくフォルトさん。迷いがない剣筋って、こういうのを言うのかな。カッコいい!!
「これで……最後!」
しゃっ!
きゅいんっ……!
「ふう……。終わったよ」
「あっという間でしたね!」
「切れ味が良かったからだよ。いつもなら、2回以上切りつけないと倒せないこともあったから」
「ユリカの付与魔法は有効のようだな……と、また来たぞ!」
今度は5、6匹でまとめてやってきた! 連続過ぎるよ!
「魔物って、こんなに次々とやってくるものなの!?」
「いや、こんな森の入口付近で、そんなことはないはずだが……」
「さっき3匹をひとりであっさり倒したから、上位レベル判定を受けたのか? しかしあれは、プレイヤーだけだったはず」
「フォルトさんはNPCだよね? それに、私達はすぐに離脱して、戦闘には参加してなかったし」
「あるとすれば、ユリカの魔法付与がプレイヤーと同じ扱いとさせたとか……?」
その辺は、あとでエミナさんに聞くしかない。とにかく今は!
「フォルトさん、剣の魔法付与の発動で魔力が少し減ってますよね。これ使って下さい! キーワードは『リフレッシュ』です!」
「いや、今その魔石を渡されると、君まで戦闘に巻き込まれるぞ?」
「大丈夫です! 他にも今の私が使えそうな付与魔石がありますから!」
「ユリカ、昨夜のうちにどれだけ作ったんだ……」
「わかった。……『リフレッシュ』!」
ぶんっ
レベル1のMP回復魔法だけど、あと1回の戦闘のためには十分のはずだ。
「はああああっ!」
次々と向かってくるホーンラビットに対し、連続して斬撃を繰り出すフォルトさん。あ、今、2匹まとめてやっつけた。凄い凄い!
「くっ、次から次へと……しまった、ユリカ!」
フォルトさんの攻撃をすり抜けた1匹が、私めがけて突っ込んできた。そのツノは痛そうだよ!
「『シールド』!」
とりあえず、風魔法付与で作った魔石を取り出して防御してみる。
きゅきゅっ……きゅいんっ!
「よし、跳ね返した! って、すぐにまた来た!?」
剣に魔法付与した分の魔力がまだ完全に回復していない。今の私だと、あと1回防御できるかどうか……!
「ふんっ!」
ざくっ
フォルトさんが、私が跳ね返したホーンラビットを後ろから切り捨てる。見ると、他のホーンラビットは既に倒した後だった。
「助かりました、フォルトさん」
「いや、1匹でもユリカが足止めしていたおかげで、全て倒すことができた。傷一つ負わずに済んだ」
そっか。……ということは、フォルトさんと私のふたりで、ホーンラビットの群れを倒したってことだね。フォルトさんと私のふたりで!
「ユリカ、早くホーンラビットの死体をインベントリに収納してくれ。他の魔物をおびき寄せてしまうぞ」
「え、私?」
「ああ。NPCはインベントリ機能をもっていないからな。戦利品として収納できるのはユリカだけだ」
「頼む、ユリカ。討伐報酬は山分けにするから」
それは不便だねえ。収納魔法とかがあるなら、バッグに付与してフォルトさんにプレゼントしてもいいよね。もっと書物を読み込まないと!
ピッ
ひゅんっ
「ホーンラビットの死体がx11か。1匹どれくらいで売れるの?」
「相場は日によって変わるが、だいたい3日分の食事代くらいだな」
「そんなになるの!? それじゃあ、1匹分を今日の3人分の食事代にしようよ!」
「俺もか?」
「ユタカもここまで来てくれたじゃないか。ユリカに賛成だ」
「決まりね!」
第一章はここまでです。