06
「セイジさんは、中級のHP回復ポーションを毎日一定数収めていただいており、大変助かっています」
「そうなの?」
「まあね。毎日100本くらい?」
「100本!? それって、明らかに多いですよね?」
「はい。全体のおよそ二割ですね。セイジさんは間違いなく、このゲームのトッププレイヤーです」
それはすごい。ハマっているとは聞いていたけど、そこまでとは。
「ユタカ兄ちゃんは、一品物作りのタイプだね。単価は高いけど、Aランク冒険者の半分はユタカ兄ちゃんの装備を付けてると思う」
「それもすごい!」
「そんなお二人がお誘いする方ということで、冒険者ギルドでは話題になっていたのですよ、ユリカさんは」
うわあ、なんか期待のハードルが高いよ! こ、これからがんばれば大丈夫だよね? せっかくの時間加速でもあるし!
「おいおい、その娘が話題になってたのは、それだけが理由じゃないだろ? なあ、エミナ?」
「ちょっ……な、何を言ってるんですか、ガートさん!?」
「いやあ、セイジがこっちに彼女連れてくるかもしれないって、そりゃあもう大騒ぎで……」
「わー! わー!?」
ここに来た時セイジくんに話しかけてきたギルド職員の人、ガートさんっていうのか。ちなみに、プレイヤーではなくNPCだ。
「あ、私は別にセイジくんの彼女とかではありませんので。ただの幼なじみです」
「えー、ユリカちゃん、そんなー」
「あ、ここで抱きつかないでね? お兄ちゃんに言うよ?」
「はうっ」
昔からアプローチされてはいるけど、正直、私にとっては弟みたいなものである。同い年だけど。
「そ、そうですか……」
エミナさんは、とても安堵した様子を見せる。なんともわかりやすい。でも、エミナさんってだいぶ年上だよね? ショタコ……いやいや。純粋に好意があると捉えておこう。鈍いセイジくんは気づいていないだろうけど。
うん、とりあえず話題を変えよう。このままでは話が進まないし。
「ところで、作った物の査定だけをお願いすることはできますか? ゆうべ早速作ってみたんですけど、数はなくて」
「はい、構いませんよ。えっと、ユリカさんは魔法付与師ですね。魔石を使ったアイテムですか?」
「はい、これです。実用性はないんですけど……」
インベントリに入れておいた『レインボー』の魔石を取り出し、カウンターに置く。
「では、査定しますね。『鑑定』」
ぼうっ
「これは……未登録のアイテムですね。どのような効果のものですか?」
「えっと、虹を出す、だけです……」
「虹、ですか?」
「は、はい。魔力を込めて……『レインボー』」
ぱあああっ
「これはいいですね! アクセサリーショップで相応の価格で売れますよ!」
「あ、やっぱり? 僕とユタカ兄ちゃんは、土産物屋がいいんじゃないかって思ったんだけど」
「ええ、通常ならばそちらの方がいいのですが……。その、しばらくはプレイヤーの出入りがないので……」
また、ずーんとした雰囲気になるエミナさん。あうあう。
「えっと、私は当面のお金が手に入ればいいので……ね、そうでしょ、セイジくん」
「あ、ああ、そうだね。作業部屋は僕とユタカ兄ちゃんが用意してるし」
「そう、ですね。ユリカさんは、セイジさんと一緒に住んでいますし……一緒に……ひとつ屋根の下……」
わああ、別の意味でまた沈んだ雰囲気に!? こ、このままでは、私が不本意に嫉妬されてしまうに違いない! えーと、えーと。
「そ、そうだ、他の街の様子はどうなんですか? せっかく時間があるので、一通り回ってみたいんですけど」
「え、ユリカちゃん、ずっとこの街で引きこもるんじゃなかったの?」
「引きこもるなんて言ってないよ。じっくりゆっくり極めるってだけだよ」
これは本当だ。他の街には、また別の書物や素材があるという。新しい魔法、新しい付与対象が手に入るのだ。
「他の街もこれまで通りです。ただ……」
「ただ?」
「私のような運営プレイヤーが常駐しておりません。ちょうどGM担当だった私しかログインしていませんでしたので……」
あああ、またそっちの理由でエミナさんがずーんと。で、でも、セイジくんの方の話題はそれたよね、うん。
「わ、わかりました。この街でしばらく活動したら、他の街に行くことも検討してみますね。あ、そうだ、セイジくん」
「なに?」
「エミナさんにもう少しA.C.O.の現状を聞いておいてくれる? 夕御飯一緒に食べるとかして」
「それなら、ユリカちゃんも……」
「私はお兄ちゃんに用があるの。それじゃあ、よろしくね!」
「え、ちょっと……」
うーん、ちょっと、というか、かなり強引だったかな?