表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

04

「って、そうだ! そろそろログアウトしないと!」

「そうだ。あれからもう何時間も経っている」

「え、そうなの?」


 ステータス画面を表示して、現在時刻を確認する。


「……あれ、まだ21:01だよ? 私がログインしてから30分くらい?」

「いや、そんなはずは……。ちょっと待て、なぜ時刻表示がふたつ(・・・)あるんだ?」


 もう一方の時刻表示は、翌日の02:23。もしこの時刻の方が正しければ、これから寝てお昼少し前に目が覚める自信がある。日曜日だからそれでも問題ないけど、両親に夜ふかしし過ぎと怒られそうだ。


「わからんな……。まあいい、ログアウトしよう。また後で現実世界で連絡を入れるから」

「うん、わかった。じゃあ、また後で」

「僕はまだ眠くないけど……はい、ログアウトします」


 お兄ちゃんにキツい眼差しをくらったセイジくんが萎縮する。やっぱりお父さんだなあ、とは口には出さない。心配してくれてるんだものね。


 ピッ、ピッ


 ……

 …………

 ………………


「あれ? ログアウトしないよ?」

「ぼ、僕もだよ。もしかして、ログアウトできなくなった!? デスゲーム!?」

「テンプレはよせ。もし本当にログアウト不可なら、そもそもメニューで操作できないだろうが」

「そうだけど……。でも、いつもの『ログアウトしますか?[はい/いいえ]』のウィンドウが出ないし」

「うーん……。よし、GMにコールして……うおっ!?」


 お兄ちゃんが管理者権限をもつ運営アバターを呼び出そうとした時、三人のところに同時にメッセージウィンドウが表示された。


<【緊急】全プレイヤーはクラフトシティの中央広場に集合して下さい。[ゲームマスター]>



 ガヤガヤ


 私達が到着した時には、既に数百名のプレイヤーが中央広場に集まっていた。ちなみに、A.C.O.の同時参加プレイヤー数としてはこの程度だそうだ。それだけ、NPCがたくさんいるということだろう。


「いよいよ、あのシーンが……」

「だから、お約束はよせ。お、今日のGMはエミナさんか」

「エミナさん?」

「クラフトシティの冒険者ギルドで受付嬢を兼任している、運営サイドのプレイヤーだよ」

「この街で装備を作って売る時は、必ずエミナさんを通すんだ。常に初心者が一定数いるからだが……」


 そのエミナさんは、すごく深刻な顔をしている。え、本当にログアウトできなくなったとか!?


「みなさま、お集まりいただいたようですね。本日のゲームマスターを担当しているエミナです。既に多くの方々が、ログアウトできずにお困りかと思いますが……」


 説明を始めたエミナさんは、がばっと頭を下げた。そのまま土下座でもしそうな勢いである。


「申し訳ありません! ゲームシステムに異常が発生し、ログアウト処理に膨大な時間がかかっております!」

「時間がかかっている……? どういうこと?」


 ある女性プレイヤーが質問する。うん、どういうことだろ。


「正確には違うのですが……。みなさまの体感的(・・・)には、非常に長い時間がかかる見込みです」


 体感的?


「表示したステータス画面に、ふたつの時刻表示があるかと思います。これは、現実世界の時刻と、この仮想世界の時刻のふたつを示しています」

「現実世界と仮想世界? でも、一方は『21:01』からずっと変わらないぜ?」


 うん、男性プレイヤーが言う通り、私のステータス画面の表示もそうなっている。もう一方は、02:56……あ、今、02:57になった。


「『21:01』が、現実世界の時刻です。午前3時少し前の表示が、このA.C.O.の世界の時刻です」


 更に混乱し始めたプレイヤー達に、エミナさんは説明を続ける。


「A.C.O.運営会社は最近、政府機関や他の企業と共同で、ある機能を開発しました。『時間加速』機能です」


 時間……加速?


「仮想世界へのフルダイブは、いわば夢を見ている状態です。VRシステムとの情報のやりとりを高速化すればするほど、夢の中では高密度な体験や行動が可能となる、というのが基本的な考え方です。試験的に時間加速機能を導入する話はあったのですが、システムログを見たところ、誤って『Arts & Crafts Online』の時刻管理システムに接続してしまったようなのです」

「あ、だから『ログアウト処理が長く感じる』ってことなのか。俺もさっきログアウトボタンを押したけど、今まさに処理を行っている最中ということか」

「その通りです」


 そのやりとりに、多くのプレイヤーが安堵する。時間がかかるとはいえ、ログアウトできないわけではないからだ。しかも、現実世界では大して時間が……。


 ……時間が、経ってない? 『21:01』から?


 ふと思いついて、私が質問する。


「あの、その時間加速って、どれくらい加速されているんですか?」

「……」

「えっと……?」


 私の質問に、エミナさんは、意を決したように伝える。


「時刻管理システムを調べた限り、数千万規模の倍率でした」


 数千万規模……。


 ……

 …………

 ………………


 数千万倍の時間加速ってこと!?


「それって……!?」

「はい……。実際にログアウト処理が始まるまで、A.C.O.内では一年ほどかかる(・・・・・・・)はずです」

プロローグはここまでです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ