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02

「わあ、大きくて高い壁……」


 始まりの街、クラフトシティ。転移ポータルがこの街から少し離れた場所に設置されており、防壁に囲まれた街の外観を眺めることができる。初ログイン時は、ここから街の入口まで歩くことになる。


 てくてくてく


「異世界転移モノ作品の導入部を真似たんだっけ? じゃあ、入口には……」


 お約束の門番NPCがふたり、並んで立っている。ここで入国というか入構の審査が行われるということなのだろう。


「あの、街に入りたいんですけど」

「なら、身分証を見せてくれ」

「あ、はい」


 すっ

 ぶんっ

 ぽちぽち


 お兄ちゃんからの事前情報通り、ステータス画面の主要パラメータのみを表示させてから、他の人にも見えるよう、メニューから『可視化』を選んでボタンを押す。 


「うん、問題ないようだな。クラフトシティへようこそ」

「ありがとうございます」


 ここで門番に『身分証を持っていない』と言うと、クエストが発生し、街の近くの森で通行料代わりの薬草を採取してこい、と言われるらしい。実際には納入だけでは済まず、別室に連れていかれ、体力回復ポーション作成のスキルを得るまで調合をさせられるそうだ。そのポーションの納入が、実際の通行料代わりらしい。


 このゲームらしい導入部ではあるが、裏技として、ステータス画面の可視化でも対応できるというわけである。ポーション作成スキルが手に入らないが、私は後でお兄ちゃんやセイジくんに教えてもらうつもりだし、そもそも魔法付与師には要らないスキルなので、とりあえずスキップしたのだった。


「うわ、すごい人混み! 迷子にならないようにしないと……」


 入口から街の中央に向けて伸びる大通り。道の両側には様々な店舗や屋台が並び、とても賑わっている。生産職専門のVRゲームということで、登録プレイヤーはさほど多くない。だが、その分をNPCがカバーしている。多くが戦闘職の冒険者であり、普通のMMORPGとはプレイヤーとNPCの役割が逆転しているといえるかもしれない。


「あ、そうだ。お兄ちゃんとセイジくんにメッセージ送らなきゃ」


 入口近くの隅に戻り、ステータス画面からフレンドリストを出す。『ユタカ(お兄ちゃん)』と『セイジ(幼なじみ)』の2つの項目を複数選択して、メッセージ作成画面を表示させる。


「クラフトシティに着いたよ。今、入口の近く。……っと」


 ピッピッ


 送信してしばらく待つと、少し背が高い、好青年風の男性アバターが近づいてきた。うん、お兄ちゃんそのものだ。


「無事に来れたな、ユリカ」

「うん、おかげでね。セイジくんは?」

「あいつもそろそろ……ああ、来た来た」


 たったったっ


「わー、ユリカちゃーん! ぐへっ」

「セイジ、お前、相変わらずユリカに抱きつこうとするんだな。作ったばかりのこの剣で死に戻りしたいか?」

「えー、ペナルティが厳しいからやだなあ」

「なら、A.C.O.(ここ)でもお触り禁止だ。いいな?」

「ユタカ兄ちゃん、ユリカちゃんの父親みたい」

「んだとお!?」

「ははは……」


 お兄ちゃんに首根っこを掴まれているのが、幼なじみで同い年でクラスメイトのセイジくん。どちらかというと童顔で中肉中背だけど、容姿はかなり整っているので、学校ではそこそこ人気だ。なぜ『そこそこ』かというと、私に対するあれやこれやの言動が原因で、多くの生徒にはむしろ引かれているからだ。私自身は、既に諦めの境地にいる。


「じゃあ早速、僕らの店舗に行こう。ユリカちゃんの部屋も用意してあるから」

「店舗?」

「生産と販売の拠点だな。大通りに屋台を設けることもあるが、普段は店舗で作ったり売ったりしている」

「僕とユタカ兄ちゃんだけで結構大きくしたんだ。ユリカちゃんが三人目だよ!」


 ああ、なんか嬉しい。

 また、昔みたいに三人で一緒に楽しく遊べるんだ。


 お兄ちゃんと一緒にセイジくんの後をついていきながら、私は懐かしい気持ちで満たされていくのを感じていた。



「え、本当に私だけで使っていいの?」

「もちろん! 二階のこの二部屋はユリカちゃん専用だよ」

「プレイヤーがそう多くない仮想世界だからな、大きな家でも結構安く手に入る。だから気にするな」


 部屋のひとつは、こじんまりとしたベッドルーム。机とイス、タンス、本棚が付いている。もうひとつの部屋とは廊下に出なくてもドアでつながっている。そのもうひとつの部屋は、いわゆる作業部屋。大きなテーブルに、いくつかの棚。少しだけど、魔石やアクセサリーの部品などが揃っている。


「一階の大きな作業部屋は、共同で使うことにしているんだ。鍛冶のユタカ兄ちゃんと調合の僕とで、複合アイテムを作ることもできるよ」

「複合アイテム?」

「たとえば、俺が盾を作って、ユリカが防御魔法を付与して強化する。セイジが作ったポーションを入れる瓶に鮮度を持続させる魔法をかけるのもいいだろう」


 ひと手間かければ、それだけ冒険者達に高く売れるということらしい。需要が多ければ薄利多売もいいけど、付加価値が付いた装備がクエストを成功に導くこともある。なるほどね。


「何から何までありがとう。じゃあ、早速だから何か作ろうかな。まだ何のスキルも覚えてないし」

「まずは、水を出す魔法を小さな魔石に付与してみるといいかもしれない。冒険者が水筒代わりにしたり、家の蛇口代わりにしたりできる」

「あ、長く使えてたくさん出る水源は、調合の時にも欲しいな!」

「そこまでのものを作れるのに、どれだけ時間かかるかなあ」


 とはいえ、始めないと何も始まらない。まずは、水魔法の基礎の修得だ。


「魔法はどうやって覚えるの?」

「術式が書いてある書物を探して読めばいいよ。レベル1だけどね」

「選択した職業によって、レベル1でもなかなか覚えられない魔法がある。鍛冶師の俺は、どうしても水魔法が覚えられない」

「なるほど……」

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