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翌日。
「よし、加熱機能を付与した小鍋の完成! 早速、野菜を煮込んでみよっと」
この世界にもニンジンがあったので、まずはそれを煮込んでみる。小鍋の加熱は弱中強の三段階を設定できるようにしたが、弱設定なら、1回の起動で沸騰済みのお湯を1時間は加熱し続けることができるはずだ。
「まだ包丁とまな板がないから、切れ味を良くしたナイフを使って、鉄板の上で……」
ナイフに魔力を通してニンジンを刻む。作った小鍋に入れ、お風呂場でお湯を注ぐ。
「さて、いよいよ弱設定の『加熱』魔法、発動!」
この加熱魔法、本来は鍛冶師向けの素材加工用である。各種金属の他、魔物の硬い鱗や、稀に出るゴーレムなどの切断に効果的らしい。炎を出す火魔法より、熱を安全かつ制御しやすいと思って試したのだ。
「うん、持続してるね」
この加熱魔法を、注いだ魔力を一気に使って発動させるのではなく、一旦、付属の魔石に滞留させて、少しずつ発動させ続ける。つまり、鍋には加熱魔法を施しているが、付属している魔石には魔力を制御する仕組みを組み込んでいる。
「あの『場』を形成する魔法陣、改造・小型化して魔石に組み込むのは大変だったー」
ぐつぐつぐつぐつ
「……ちょっと味見、というか、煮込み具合を見てみようかな」
ニンジンひと切れをフォークで刺して取り出し、少し熱を冷まして口に放り込む。
もぐもぐもぐ
「ん!? もうこんなに柔らかい!? ストップ、ストップ!」
かちゃ
「うーん、これはどういうことかなあ……」
煮込んだニンジンをいくつか食べてみたが、多少のバラツキはあるものの、全て茹で上がっている状態だった。それも、適度な柔らかさで。
「ニンジンの状態として、生と茹でた設定しかないってことかな? これ以上柔らかくできないなら、潰して練り込むこともできないということに……」
ニンジンはともかく、ジャガイモでそれができないのならば残念である。ポテトサラダが作れないよ!
「とりあえず、中設定を飛ばして強設定で煮込んでみるか……」
かちっ
ぼこぼこぼこ
「いきなり物凄い沸騰を始めたけど……よし、すぐ止めよう」
かちゃっ
「さて、ニンジンの柔らかさは……うわっ、フォークで刺しただけでボロボロ!? つまり……煮込む時間は関係なくて、お湯を加熱する温度だけですぐ状態が変わるってこと?」
なんとなく、デジタルっぽい雰囲気を感じるのは、やはりこの世界がVRゲームだからなのだろうか。
「でも、これを逆に捉えれば、短い時間で料理ができるってことだよね。よし、レシピと併せて開発を進めてみよっと!」
◇
そして、更に翌日の夕食時。
「というわけで、ビーフシチューが作れました!」
「「おおー」」
流れとしては、材料ごとに別々に加熱魔法や火魔法を調整して適用し、最後に調味料を加えたスープに全部入れて煮込む。こうすることで、材料ごとの適度な柔らかさとスープの染み込み具合が実現できた。しかも、それぞれの煮込み時間はほぼ一瞬! お肉は、弱出力の火魔法で焼いてから煮込んでいる。
「んまんま」
「これまでの食事と比べて食感が多彩だな。これはいい」
「でも、『出汁を取る』がどうしても実現できないんだよね。今回は調味料で誤魔化したけど」
「『煮込むと出汁が取れる』って現象が実装されてないのかもね。『調合』で出汁相当の旨味成分をもつ調味料が作れるわけだから」
「そういうことかあ。残念」
まあ、料理や調理の幅が広がるということで良しとしよう。
もぐもぐ
「フォルトさん、どうですか!」
「うまく表現できないが……今までにない感触だ。少し食べただけで充実感がある」
「良かったー」
よし、時々はこうしてフォルトさんを呼んで夕食を御馳走しよう。調理時間もそんなにかからないからね!
「ところで、これを作るための鍋は、誰でも使えるのか?」
「使えますよ。制御魔法時のおかげで、使用する魔力がかなり抑えられますし」
「なら、後でユリカから専用の鍋を購入することにしよう。使い方も教えてくれ」
「あ、野宿で使えればって話でしたものね……」
もしかして、御馳走する機会は少ない? ぐっすん。
ここまでが第二章です……が、転載元では次の第三章の冒頭まででエタってたので、とりあえずここまで。続きはブクマ数に依存するかなー、どうかなー(クレクレ詐欺)。