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「現実世界と同じっていうなら、作ればいいのよ、調理のための道具を! 魔法付与で!」
「で、ですが、お湯を出す魔石を作るだけでも、高レベルの水魔法・火魔法と付与スキルが必要になるのですが」
「そこまで高出力でなければ、レベルが低くても問題ないんじゃないでしょうか?」
「低出力のものですと、複数魔法の付与に恐ろしく手間がかかりませんか? 目分量でポーションを作るようなものですから、運の要素も大きいかと」
ふっふっふ。
「エミナさん、ユリカちゃんならきっとできますよ。あの『レインボー』の魔石、どうやって作ったと思います?」
「え? そ、それは、光魔法を工夫して……」
「ユリカは、水魔法と風魔法で作ったそうです」
「……はい?」
「水に対する光の屈折率が現実世界と同じ設定なのを利用して、水しぶきのレベルで実現したものなんすよ、あれ」
「え……。え?」
いや、私、光魔法はまだレベル1だから、色とか着けられないんですけど。でも、光は昼間ならお日様からふんだんに出ているわけだから、それを利用しただけなんだけどね。魔法付与の配分を決めるのにとにかく時間がかかったけど。
「まずは、『コンロ』を作ってみます! 昔読んだラノベで、魔道具としてコンロを作った話があったから、まずはそれと同じ原理で試してみようかと」
「この世界の物理法則が、必ずしも現実と同じとは限らないけどな」
「だから、そこはそれ、試行錯誤で」
「ユリカちゃん、やり込み要素が本当に好きだねえ……」
そりゃあもう、とある乙女ゲーの育成パートでも、あらゆる選択肢とパラメータ設定を試しましたから。隠し立ち絵はコンプしたよ!
「『コンロ』というのは、かまどみたいなものか?」
あー、この世界の住人のフォルトさんにはピンとこないか。
「そうですね。鍋にコンロの仕組みを加えることができれば、お湯を沸かしたり煮炊きしたりするためだけの魔道具が作れるかもしれません」
「そうか。たまに、森を越えて隣街に行くことがあるから、野宿する時にあると便利かもしれない」
なるほど。このVRゲームには『転移』の概念がないから、他の都市に行くには歩くしかないんだよね。よしよし、やる目的が増えたよ!
「ユリカちゃん、やり込むのはいいけどさ、睡眠はきちんと取った方がいいよ。時間加速の影響もあって、精神的な負担が大きいと思うし」
「すみません……」
「いやいや、エミナさんが謝ることじゃないって!」
「ユリカは放っておくと、時間を忘れて没頭することが多いんですよ。セイジの言う通り、気をつけるように」
「はーい」
まあ、ちゃんと睡眠をとっても、時間はたっぷりあるからね。ゆっくりじっくりやっていこう。
「それじゃあ、お兄ちゃん、早速、鍋と包丁とまな板を作ってくれる? あと、フライパンも」
「武器の定期生産分もあるから、すぐには難しいな。2、3日待ってくれ」
「わかった。じゃあ、今日のところは金物屋さんやってるプレイヤーのところで鍋を買うね」
とりあえずの目標はビーフシチューかな。弱火でコトコト煮込むには持続時間の設定が必要だよね。でも、この世界の食材って、現実世界と同じように煮込む必要があるのかな? 食材も買ってレシピも開発しないとダメかもしれないなあ。




