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01

『じゃあ、アバター名は本名の「ユリカ」でいいんだな』

「うん。でも、お兄ちゃん、私、MMORPGなんて初めてだよ?」

『VRだからな、習うより慣れろさ』


 今年から大学進学で遠くに住むようになったお兄ちゃんと、携帯端末のビデオチャットで会話をする。お兄ちゃんが既に始めているVRMMO『Arts & Crafts Online』通称A.C.O.に、機械オンチの私も参加するため、初期登録をやってもらっている。


 私とお兄ちゃんは割と仲がいいのだが、私が高校生になった年にお兄ちゃんが引っ越してしまい、簡単には顔を合わせることができなくなった。毎週のようにビデオチャットで話はするものの、それだけでは寂しい。そんなことを話していたら、夏季休業が始まる少し前のこの時期に、お兄ちゃんがVRのヘッドセットを送ってきたのだ。


「VRヘッドセットって、まだまだ高いのに……」

『俺も普通に会いたかったからな、気にするな』

「ありがと、お兄ちゃん」

『ああ、礼なら「セイジ」にも言ってくれ。既にA.C.O.内でいろいろ準備してくれているはずだ』

「それは、もちろん」


 『セイジ』とは、私とお兄ちゃんの共通の幼なじみのことだ。私と同い年であり、高校でのクラスメイトでもある。当面は、私とお兄ちゃんとセイジくんの三人でパーティを組んでA.C.O.を楽しむつもりである。


『ログインできたら、初期登録済みのフレンドリストの「ユタカ()」か「セイジ」宛にメッセージを送ってみてくれ』

「うん。じゃあ、A.C.O.で」

『ああ。ユリカが追加の初期設定をしている間に俺もログインしておく』


 ピッ


「それじゃあ、早速ログインしようかな。追加の初期設定、NPCが手伝ってくれるみたいだから、私でも大丈夫だよね」


 現在、土曜日の20:30。ネットに接続済のヘッドセットを装着し、自室のベッドに横たわる。右耳付近のスタートボタンを押すと、カウントダウンの音声が聞こえてくる。


<10秒後に、登録システム『Arts & Crafts Online』へフルダイブします。フルダイブまで10秒……5秒……3、2、1、フルダイブ開始」


 身体の感覚がふっと消え、五感が別の世界につながっていくのを感じる。仮想世界へのフルダイブは事前にテスト済だから、特に慌てることもなく、視界が開けるのを待ち―――



 ―――真っ白い空間に立つ自分自身を認識する。


 気がつくと、目の前に執事風の若い男性NPCが立っていた。


「『Arts & Crafts Online』へようこそ。『ユリカ』様でよろしいでしょうか?」

「はい、そうです。よろしくお願いいたします」

「これは御丁寧に。初めてのログインということで、まずはゲームの概要を説明いたします」


 このA.C.O.というゲーム、実はかなり変わっている。『剣と魔法の世界』を舞台にしたオーソドックスなVRMMORPGであるにも関わらず、プレイヤーは生産職にしかなれない。つまり、剣士や魔導士、僧侶といった、剣や魔法で戦う戦闘職・後衛職にはなれないのである。ただし、生産職として魔物討伐などのクエストをこなすことはできるし、NPCの戦闘職等とパーティを組むこともできる。


 このことを知らずに始めようとするプレイヤーが結構いるため、本体システム接続前の、この初ログイン直後のゲーム概要の説明は割と重要らしい。もっとも、このゲームが稼働して一年は経過しているから、最近は最初からわかっていて始めるプレイヤーがほとんどだという。


「……ということですが、よろしいでしょうか?」

「はい、承知しています」

「わかりました。では、初期設定に移りましょう。アバター名は設定済ですので、まずは容姿の設定ですね」

「えっと、初期登録時の事前スキャン情報からあまり変えられないと聞いているんですが」

「はい。髪の色や長さ、目の色などの変更のみとなります」


 現実世界の身体と大きく異なると、精神的な負担がかなりあるらしい。身の丈に合わない着ぐるみで動くようなものかな。ちょっと違うか。


 とりあえず、髪の色は薄い紫、髪型は腰まで伸びるロングにしてからポニーテールに、目の色は灰色っぽい感じにした。特に理由はない。完全な思いつきである。


「では、次に職業を決めて下さい。ゲームを始めた後でも変更可能ですが、今回決める職業に沿って、服装を含む初期装備が決まります。初めての方が選べる職業は……」

「あ、それは既に決めてあります。『魔法付与師』で」

「魔法付与師ですか。付与スキルを修得しただけでは能力が発揮できない職業ですが、よろしいでしょうか?」

「はい、わかっています」


 たとえば、キーワードを唱えれば体力や魔力が回復する魔石を作りたい場合は、魔石の準備や魔法を付与するためのスキルだけでなく、回復魔法そのものも修得しなければならない。しかも、修得した魔法それのみを発動することはできず、必ず何かに付与してから発動する必要がある。


 なんとも矛盾した設定だが、とにかくこのゲームではそういうことになっているらしい。コンピュータに詳しい兄曰く『インタプリタとコンパイラの違いみたいなもの』らしいのだが、私にはさっぱりわからない。通訳と翻訳の違い? とにかく、組合せ次第でいろんなことができるため、やり込み要素の多いゲームが好きな私には魔法付与師がピッタリなんだそうだ。こちらは、セイジくん談、である。


「はい、初期設定が終わりました。ステータス画面で確認してみて下さい」

「ステータス画面って、どうやって出すんですか?」

「右手を上に上げてみて下さい。……そうです。それから、すっと下に下ろして……どうですか?」


 ぱっ


「あ、出ました出ました」


 名前や職業名、現在時刻などの他にも、様々なパラメータが表示される。……RPGは初めてなので良くわからない。とりあえず、容姿まわりは設定通りのようだ。メニュー呼び出しも、このステータス画面から行うようだ。後でお兄ちゃんとセイジくんに教えてもらおう。


「問題ないようですね。それでは、これよりゲーム本体のシステムに接続いたします。次回ログインからは、直接本体システムに接続されますので御注意下さい」

「はい、ありがとうございました」

「では、良い生産ライフを」


 このゲームならではの見送りの挨拶に苦笑しながら、本体システムの仮想世界に転送されていく。

『エブリスタ』で25000字くらいまででエタってた作品の転載です(正直)。全て転載した後に続きを書くかは未定。

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