表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神と呼ばれた″元″男  作者: トンカツ
3/51

第三話


 ‥‥‥


「お!お目覚めになられましたか!いやーなかなかの衰弱ぶりでしたね~。びっくりしましたよ!」


 んだ、ここは‥‥‥?


 突如覚醒した意識。目の前に広がる真っ白な空間。そこに浮かぶ、一人の女性。

 理解が追い付かない。いや、そもそも、


 死んだ、んだよな‥‥‥?


 内心で呟いてみると、不思議と納得できる。死んだ。そうだ、俺は死んだのだ。

 勝てなかった。‥‥‥強かった‥‥‥


「うんうん。現状を理解できたようで何よりです!あ、まぁ何となく解ったと思いますが自己紹介だけしておきます!

 私は女神!神様なのです!‥‥‥って、ちょっと!何ですかその目は!もしや疑ってますね!?」


 成る程。これが白昼夢というやつか。しかし、死に際に見る夢にしては趣味が悪いな‥‥‥


「ちーがーいーまーすー!私は!ちゃんと!貴方の前にいます!だからその目を止めてくださいぃ!」


 ‥‥‥


「あ、止める気がありませんね。良いですよ良いですよ!‥‥‥慣れてますし‥‥‥」


 寂しげにそう付け足す(自称)女神を見て、諦めたように息を吐く。

 夢だろうが何だろうが、構いやしない。


 そういえば、こうして落ち着いて誰かの話を聞くのは何時以来か‥‥‥

 取り敢えず先を促すように手をヒラヒラと振る。すると(自称)女神は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「な~んだ。やっぱツンデレですね~!このこの!

 ‥‥‥あ、嘘です。嘘ですから止めてくださいその目は!心にクルんですよぉ!」


 で、その(自称)女神サマは一体何の用なんだ?


「その自称ってのも傷付くんですが‥‥‥」


 暫くぶつぶつと呟いていた女神(笑)だったが、やがて何かを決心したように顔を上げ、厳かな口調で語り出した。


「まぁ、良いです。

 実は貴方にお知らせしなければならないことがあって、ここに呼ばさせていただきました。」


 ほう


「それは───」


 それは?


 女神(笑)はそこで勿体ぶるように一拍開け、そして晴れやかな笑みと共に、


「おめでとうございます!貴方は転生対象に選ばれましたーーー!

 わー!パチパチパチー!」


 バカみたいなテンションで手を叩く女神(笑)

 自分でも驚くほど無表情になっていくのが解った。


 そうか


「そうかって、テンション低いですね!?転生ですよ!?転生!天文学的確率を貴方は見事引き当てたんですよ!」


 みたいだな


「解っていただけましたか!あ、都合により世界を選ぶ事は出来ませんが、転生先の身体を色々と弄ったりする事が出来ますよ!

 宇宙一の力とか!宇宙一の魔力とか!全智だろうが!

 えぇ、えぇ!勿論容姿や生まれ、更には美人の幼なじみや、自分に無条件で恋する美少女まで!

 いやー至れ()尽くせ()ってやつですね!これはやらざるを得ない。あ、勿論、別の意味でヤッて頂いても良いんですよ!グフフ」


 言語の間違いはさておき。

 とてもカミサマとは思えぬ顔で笑う女神(笑)を眺めつつ口を開く。


 それで、


「はいはい!何ですか何ですか!全部?勿論───」


 帰るにはどうしたら良いんだ?


「‥‥‥ん?ん?ん?聞き間違い、ですか?可笑しいな。女神様は地獄耳と相場が決まっているのですが‥‥‥いや、この場合は天国耳?」


 俺は死んだのだろう?なら、話は終いだ。さっさとこの生を終わらせろ。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥えーーーーーーーっと。転生、はします、よね?」


 断る


「だが、断る!!!」


 そう力強く断定する女神(アホ)

 有無を言わさぬその迫力に若干圧されるが、いやいやと首を振る。


 どういう理屈だ‥‥‥


 女神(アホ)はビシッと指を突き付け、


「理屈も何もありません!貴方は転生をする!拒否権は認めません!」


 オイ


「てゆーか!転生を拒否するなんてどんな神経をしてるんですか!?貴方は!?」


 あ?


「人間は死を恐れる生き物です!二度目の生があればそれを望むものでしょう!?」


 ‥‥‥


「死に方がどうあれ未練が残る筈です!転生して人生やり直したいとか、そんな気持ちは無いんですか!?」


 無いな


「えぇ‥‥‥」


 他の人間がどうかは知らんが、少なくとも俺に未練なんぞ無い。カミサマなら解るだろ?


「‥‥‥いや、そんなバカな‥‥‥あれぇ?」


 解ってくれたなら何よりだ。じゃ、さっさと終わらしてくれ


「いやいやいやいや!ちょっと待ってください!だって殺されたんですよ!?」


 そうだな


「多くの者達から憎まれ、恨まれ、怖れられたんですよ!?それをやり直せるんですよ!?」


 かもな


「なら───」


 ‥‥‥いつ頃からかは忘れた


「‥‥‥」


 理由も忘れた。けど、何時からか俺にはこれ(殺し)しか残って無かったんだ


「知っています!えぇ知っていますとも!」


 けどな、俺はそれを変えたいとは思わなかった。一度たりとも


「‥‥‥ッ」


 死ぬのを怖れるとか言ってたな。違いねぇよ。あぁ、そうだ。俺は最後まで死ぬのを怖れていた。

 死ねば全部が終わる。消える。無意味に。無慈悲に


「‥‥‥」


 戦うときは何時も怖れていた。確実に勝てる戦いなんてありはしない。命懸けで来る以上、こっちも命懸けだ。生き残る為に強くなろうと鍛え続けた。


「‥‥‥」


 恐れながらも、止めることは無かった。そんな壊れた殺人鬼の終わりがあれだ。五千もの英雄が命を懸けて俺の命を取りに来る。それに全霊をもって応える。

『死神』にしちゃ贅沢な終わり方だと思わないか?


「‥‥‥思い、ませんよ‥‥‥」


 お前はそうだろうな。けど俺にとっては違う。恨みとか、怖れとかどうでもいい。最期に腹一杯に殺しあった。それで満足なんだよ。

 それにな、


「‥‥‥何ですか?」


 二度目の生があるってのはつまらんもんだ。一度きりの生だからこそ、それにしがみつこうと足掻く。全力を尽くす。生き残ることにすべてを費やす。

 一度しか無いからこそ命を尊ぶ。んで、俺はその一度きりを全力で生きた。

 二度目なんぞ求める意味がねぇ。

 それに、どうあれ俺がやってきたのは殺戮だ。そんな人間が転生?バカバカしい


「‥‥‥違う。貴方が行ってきたのは殺しだけじゃない。貴方は、多くも救った。救ったんですよ‥‥‥」


 ‥‥‥


「だったら貴方自身も救われなきゃ可笑しいじゃないですか!?何で恨まれなきゃいけないんですか!?何で怖れられなきゃいけないんですか!?」


 そりゃ有り得んな


「どうして!?」


 救った?馬鹿言え。どんな形であれ救われたのはソイツ自身が頑張ったからだ。

 俺に出来る事は壊す事だけ。その過程で救われたのだとしても俺の功績にはならんさ


「‥‥‥違う」


 ま、そういう訳だ。転生の権利ってやつは、渡せるなら勇者にでも渡しとくと良い。アイツならそれこそ、多くを救ったやつ(・・・・・・・・)だからよ。


「違います!」


 鋭い口調。いつの間にか目の前にまで来ていた女神は、力強くそう言い切った。

 そこに一切の虚偽は無く、心の底からそう信じているかのように。


「違いますよ。壊すだけ?たかが人間が、自惚れないで下さい。それは『私達』の特権です。貴方なんかが行えるモノなんかじゃない」


 ‥‥‥


 「傍目から見れば、貴方は殺戮者だ。どうしようも無いほどの狂人だ。けれど、」


 ‥‥‥


 女神は何かを思い出すように静かに目を閉じる。


 「あそこに集った英雄達。彼等が最期に思ったことって何だと思いますか?恨み?憎しみ?

 いいえ違います。悔しさと、感謝です。貴方を自分の手で討てなかった悔しさ。そして、多くを救ってきた貴方への感謝を抱きながら命を落としていった」


 そうだ。俺には過ぎた者達ばかりだった


 女神がゆっくりと目を開く。その瞳から涙がポロポロと零れていた。


 「貴方は救われなければいけないんです。彼等の為にも、貴方自身の為にも」


 ‥‥‥不思議な奴だ。

 どうしてコイツはここまで俺を生き返らせようとする。

 普通であれば裏を探ろうとするが、コイツはどうも違うらしい。

 勘だ。根拠なんて無い。

 ならば、何故、と考える必要も無いのかもしれない。馬鹿みたいに素直に感情を吐き出すコイツに、理由を求めたところで仕方がないだろう。


 あぁ、まったく‥‥‥

 泣くんじゃねぇよ。調子狂うな


 「泣きますよ!泣いちゃいけないんですか!?泣かせて下さいよ!

 だって悲しすぎるじゃないですか!?そんなの。こんな、終わり方なんて‥‥‥」


 プッ‥‥‥


 「ぷっ?」


 未だにえぐえぐと涙ぐむ女神が不思議そうな顔をする。その様子もまた相まり、


 ククククク‥‥‥アハハハハハハハハハハハ!!!


 「んなぁ!?」


 泣いている姿を笑われたと思ったのだろう。涙を拭った女神がシャーッ!と言いながら牙を剥く。

 違う違うと手を振りながら、それでもやはり可笑しいと彼は笑い続けた。


 「ちょっと!それは失礼でしょ!?」


 フゥ‥‥‥いや、すまんな。どうにも堪えきれなくて


 「乙女心が傷付きました!責任を取って転生してください!」


 オイ‥‥‥

 いや、この際良いか。悪いが、どうにもその気がねぇ。


 「駄目です!」


 意地、なのかもしれんな?心が転生する事を否定してやがる。やり直しを拒んでいる。

 いやはや、下らねぇプライドだよな。俺はどうしても、俺の生を否定したくはねぇみたいだ。


 「拒否します!」


 別の道だってあっただろうよ。

 だが、俺はこれが間違っているとは思えねぇ。とっくの昔に忘れた俺が言ってるんだ。これしか無かった、ってな。


 「黙って下さい!」


 それにな、


 「‥‥‥」


 最後にアンタみたいなやつに会えた。こんな俺の為に泣けるやつに


 ハッ!と彼は笑う。


 望んじゃいねぇとは思っていたが。俺も人の子ってやつなのかねぇ。ありがとよ。女神サマ。

 救いだってなら、もうとっくに救われてんだ。俺はよ


 「貴方は───」


 さて、要らんことまで言っちまったな。

 話は終いだ。楽しかったぜ


 そう言って彼は目を瞑る。間もなく来る死を恐れることはない。

 死後の世界ってのがあるなら、先ずは挨拶回りだな等と考え彼は静かに笑った。


 「認めません、認めませんよ‥‥‥」


 何かを呟きながら女神が離れていく気配がする。

 どうせだったら奴が何をするのか見てやろうと、彼は目を開いた。

 此方に背を向け、宙に指を踊らしている。魔術的な何かか?その手に疎い彼は、興味本意に女神の指先をぼんやりと見つめていた。


 「解りました。何を言っても、貴方は転生する気が無いんですね‥‥‥」


 返答を求めた訳じゃないのだろう。彼もまた答えない。

 互いに無言の静かな時間が流れる。


 暫く経ち、女神が此方を向いた。依然として指は宙を指したままだ。

 ‥‥‥嫌な予感がする。女神は、どこかで見たことのあるような表情を浮かべていた。

 いや、どこかなんてもんじゃない。何度も見てきた。

 あれは、覚悟を決めた顔だ。


 オイ‥‥‥


 「えぇ、えぇ。解りましたとも。合意では駄目と。なら仕方ないですよね?」


 オイコラ、テメェ‥‥‥


 嫌な予感が強くなる。


 「なら、これを罰としましょう‥‥‥その目で貴方が奪ってきた生をしっかりと見つめ直す。殺戮を繰り返してきた貴方にぴったりの罰です」


 テメ───ッ!?


 女神の指が再び踊る。その行為が何を指すのか理解し、止めようともがくも、


 動け、ねぇ‥‥‥ッ!


 「当然ですよ。だって貴方、只の思念体ですもの。身体はとっくに腐ってますよ」


 話聞いてなかったのかよ!今すぐに止めろ!クソ女神!


 「クソじゃありませーん!女神様で~す!勘違いしないで下さい!これは罰なんですから!」


 んだと‥‥‥


 「それに言いましたよね!だが、断ると!!!」


 だったらさっきまでの話は何だったんだよ!?


 「理由なんて、忘れた‥‥‥」


 うるせぇえええええ!!!


 「ハーッハッハッハァ!泣き顔を見られたのでおあいこです!貴方の感謝はしっかりと受け取っておきます!」


 クソッ!───ッ!うご‥‥‥オイコラァア!!


 「さ、てと。自殺でもされたら困るんで自殺出来ない呪いを‥‥‥いや、いっそのこと死に対する恐怖を目一杯高めて‥‥‥よし!オッケイ!」


 大きく首肯くクソ野郎。いや、今は奴はどうでもいい。何とかして止めねば───


 ───フワリと浮き上がる感覚。


 不味いと、直感的に悟る。その焦りが彼の口を動かした。


 待て待て待て!オイ、クソ女神!


 「なんですか?あ、チートはあげませんよ?罰なので」


 ちーととか知らねぇ!けど良いのか?俺を生き返らせても!?


 「?」


 また殺すぞ!何人でも!それでも良いのか!?


 半ばヤケクソの脅し。しかし、それを聞いても女神は顔色一つ変えず、


 「構いませんよ?」


 一瞬、思考が白く染まる。


 は───?


 「いえ別に。私、一度も殺しが駄目とは言ってませんし?」


 ───ッ!?お前、カミサマなんじゃねぇのかよ!?


 「貴方が殺しを行ったところで死ぬ数なんてたかが知れてますし?」


 そんな益体も無い言葉に、遂に絶句する。


 「私が与えるのは転生先の世界と身体だけ。そこから先は貴方だけのモノです。自殺は封じましたが、他は縛りませんよ」


 それに、とクソ女神は続けた。


 「その先の生で貴方は変わることは無かった。変えることは出来なかった。それだけですよ。

 貴方が気に病む必要はありません!しっかりと生きて、もう一度『生きる』ということを楽しんで下さい!」


 そう言ってクソ女神は笑って見せる。

 口元がひくつく。言葉が出てこない。

 アホか、と毒づくことも出来ない。呆然とクソ女神を見つめるだけだった。


 「と、言うわけでぇ!」


 女神が拳を振り下ろす。

 バリン、と何かが割れる音。視界が白に染め上げられていく。


 消え行く意識の中、クソ女神の言葉だけがいやに鮮明に聞こえたのであった。



 「行ってらっしゃい───!!!」




 ブッ殺───────────




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ