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番外編 王都の夜会 ザカリア視点2

 しばらくしてハスラー兄妹の元に戻ってきたフィオナのドレスのシミは目立たなくなっていた。


「どうやってこんな短時間でシミを抜いたのですか?」


 ザカリアがフィオナのドレスをみて目を丸くする。


「ひだの多いドレスのなので、シミの部分を裏から少しつまんでメイドに縫ってもらったんです。目立たなくなって良かったです」


 とフィオナはほっとしたように言う。その発想は公爵夫人のものとは思えない。ザカリアはアロイスから彼女の婚前の事情はざっときいている。


「フィオナ、どうしたの? 姿が見えなかったようだけれど」


 そこへタイミングよく仕事を片付けたアロイスが、フィオナの元にやって来た。彼はいつもの優美な笑みを浮かべなら、フィオナに話しかける。


「あの、アロイス様、申し訳ございません。せっかく作っていただいたドレスを汚してしまって、あの……」


 慌てたようすでフィオナが、アロイスに謝る。彼女は公爵夫人なのだから、同じドレスに何度も手を通さないはず。黙っていれば、アロイスだって気付かないかもしれないのに。驚くほど正直だ。


「いいよ。そんなことは気にしなくて。それよりもどうして汚れてしまったのかな?」


 と穏やか笑みを浮かべながら問うアロイスの瞳が一瞬厳しく光るのを見た。勘の良い人なので、何かを感じったのだろう。


「ええ、私の不注意で、先ほどどこかの御夫人とぶつかってしまって」

「おや、それはどこの?」

「えっと……」


 まだ、社交界に疎いフィオナは貴族の顔を全部は覚えてはいない。困ったように眉尻を下げる。


「ああ、いいよ。別に構わない。フィオナにケガなければね。それよりも少しお腹がすいたろう? 軽食を食べに行こうか」


 とフィオナに笑いかける。しかし、アロイスはフィオナの背に自然に手を当てつつもザカリアとクロードに目配せをする。


 茶会が無事終わり、夫妻の帰り際に、ザカリアはアロイスに密かに伝えた。フィオナのドレスが汚されたのは、イーデスの差し金であったと。


「そろそろ彼女には王都から退場して頂こうかな」


 と言ってアロイスがふっと微笑んだ。

 それからしばらく後に、イーデスの姿を王都の社交の場で目にしなくなった。


 王都の夜会でみる二人は、少しずつ距離をつめているようで、ぎこちなさは残るものの仲はよさそうだ。アロイスは愛妻家になるようなタイプには見えないのに、意外にも場慣れしていない妻のフォローは完璧だ。もっと義務的に接する人かと思っていた。


 その上警備は過保護ともいえるほどで、フィオナは自分が幾重にも守られていることに気付いていない。


「フィオナ様、今日もお美しいですよ」


 今宵のフィオナは装いは濃紺のドレスだ。美しい刺繍が施され清楚で美しく、彼女の白磁の肌が際立っていた。


「あ、ありがとうございます」


 ザカリアの誉め言葉に頬をそめて恥ずかしそうにする。フィオナのこの反応は新鮮で初々しいが、少し心配になる。


 そしてまた、アロイスも目を細め、嬉しそうに己の妻を眺めている。彼は普段から微笑んでいて表情が読みにくいが、どう見てもかなりフィオナが気に入っているようだ。


 二人のそんな姿を見て、ザカリアはクロードに言う。

「アロイス様、随分とフィオナ様のことを気に入っているようね」

「ああ、だが、夫婦生活はすれ違いらしい」


 残念そうにクロードが言う。


「まあ、確かに自分の仕事が何かを教えていないなら、すれ違っちゃうでしょうね」


 ザカリアはローズブレイド夫妻に仲良くなって欲しいと思うので少し残念だ。


 兄妹が夫妻に目を向けるとちょうどアロイスがフィオナをダンスに誘っているところだった。


「本当に、お似合いだな」


 二人が踊り始めた。美しい彼らはとても目立つ。フィオナは、頬を上気させ、精一杯の微笑を浮かべている。それを目を細め慈しむかのように見つめるアロイス。彼女しか見えていないようだ。


「お似合いよね」


 ハスラー兄妹は、ローズブレイド夫妻の距離が更に縮み、秘密がなくなることを祈りつつ、仕事に戻った。








8月3日一迅社様より書籍発売です。

『訳アリ公爵閣下と政略結婚しましたが、幸せになりたいです』

「大幅」加筆+書き下ろし、いくつか修正も入っています。

発売日にもう一度更新できたらいいなと思っています。

表紙絵と詳細は活動方向へどうぞ☆


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