番外編 王都の夜会 ザカリア視点1
フィオナがルクレシアに行く前、また王都の屋敷にいた頃の話。
ザカリア視点です。2話構成です。
もう、すっかり忘れてしまったと思いますが、
ザカリアとクロード ハスラー兄妹が登場します。フィオナの友人兼警護をしてます。
「フィオナ、こちらは私が懇意にしているハスラー子爵家のクロードとザカリアだよ」
「よろしくお願い致します」
緊張した面持ちでローズブレイド公爵夫人が挨拶をする。それがザカリアとフィオナの出会いだった。もちろん結婚式で顔は知っていたが、直接こうして紹介されるのは初めてだ。
ザカリアから見たフィオナは金髪にサファイヤの瞳を持つおとぎの国の姫のようにたおやかな女性だった。アロイスと並んだ姿はまるで一枚の絵のようだ。
第三王女との婚約破棄後、アロイスを狙っていた令嬢も多く、いくつもの視線が儚げな雰囲気を持つフィオナに突き刺さっていて心配だ。
「奥様、こちらこそよろしくお願い致します」
ザカリアが笑顔で挨拶するも、フィオナはかちこちに固まっていた。今日が初めての夜会だと聞いている。先ほど第三王女エリザベスからの洗礼を受けていたようだし少し気の毒に思う。
心細げで頼りなげでさらに儚げ、彼女のような女性をアロイスが選んだのが意外だった。
ローズブレイド家には不向きなタイプに見える。もっと神経の図太そうな相手と結婚するかと思っていた。
♢
夜会の後で、ザカリアは兄のクロードに素直な感想を述べた。
「もしかして、アロイス様、ひとめぼれでもしたのかしら?」
「まさか、アロイス様はそういう方ではないだろう?」
と言いつつもクロードも訝しそうに首をひねる。
フィオナは見るからに気立てがよさそうだ。話してみると世間ずれしていなくて、いかにも純朴。魑魅魍魎の跋扈する社交界に放って大丈夫なのかと心配になる。
「また、随分、エリザベス殿下とは真逆の方のようだね」
とクロードが感心している。
「よほどお嫌だったのでしょう。兎にも角にもエリザベス殿下の時より俄然やる気が湧いて来たわ」
「それは言える」
兄妹揃って頷いた。
本当にアロイスがエリザベスと結婚しなくて良かったと思う。こちらは体を張って守らなければならないのだ。エリザベスでは守りがいがない。もっともやれと言われれば仕事だから、やるしかないが……。
♢
「何回来ても茶会や夜会の雰囲気には慣れなくて……」
王都での二回目の茶会で、フィオナは困ったように眉尻を下げてそう言う。いかにも彼女らしい。
「大丈夫ですよ。フィオナ様。アロイス様は直ぐにお戻りになりますから」
そう言ってザカリアが慰める。フィオナは最初の頃に比べると随分とアロイスを頼りにしているようで、彼がいないと心細そうだ。
「はい、いつもありがとうございます」
そう言ってフィオナはザカリアに礼を言う。アロイスは大きな茶会だと外国からの来賓もあるのであちらこちらに顔をださなくてはならなくて忙しい。
その間、ハスラー兄妹が彼女の話し相手兼警護をしている。
するとフィオナが突然ふらりと揺れた。ザカリアが慌てて彼女を支える。
「まあ、奥様申し訳ございません」
そう謝るのはまだ若い夫人だった。彼女の方からぶつかって来たのだ。
見ればフィオナのドレスに紅茶のシミがついている。小さななシミではあるが、彼女のドレスは淡いピンクなのでとても目立つ。
フィオナはびっくりしたようだが、青くなっている夫人に「大丈夫ですよ」と声をかける。わざとだなどと疑いもせずに。善良な彼女らしい。
「クロード様、ザカリア様、私は少し席を外しますね」
紅茶のシミは簡単に落ちるようなものではない。
「着替えをお持ちなのですか?」
ザカリアが聞く。
「いいえ、まさか! アロイス様が折角今日の為に用意してくださったドレスですから、そんな着替えるなんて……」
と言って眉尻を下げる。
彼女は夫に買ってもらったドレスを宝物のように思っているらしい。
フィオナが去ったあとザカリアはクロードに話しかける。
「ねえ、さっきの御夫人、ぶつかり方が、少しおかしくない? なんの前触れもなくぶつかったのよ」
フィオナが去った後、ザカリアはクロードに言う。
「それにしては随分必死に謝っていたよね?」
「そうなのよ。わざとにしては慌て過ぎなのよね」
フィオナにぶつかった夫人の顔は真っ青で、そのうえ必死に謝っていた。一介の伯爵家の夫人がローズブレイド公爵夫人のドレスに染みを付けたのだ当然だろう。
その時、ふと強い視線を感じザカリアが顔を上げると、取り巻きを侍らせ笑みを浮かべるイーデスの姿が目に入った。おそらく彼女は妹に嫉妬しているのだろう。
アロイスがそばにいないからと舐めた真似をする。
「ザカリア、ちょっとのあの御夫人にことの経緯を確認した方がいいんじゃないか? フィオナ様は疑ってもいないようだけれど」
とクロードが渋い顔で言う。
「そうね。ちょっと締め上げて来る」
「おいおい、あくまでも情報収集だからな。怯えているご夫人を更に怯えさせるよ。多分あれはやらされたんだ」
と兄が心配そうな顔をする。
「大丈夫。まかせて」
ザカリアは自信満々で請け合い。不自然な形でフィオナにぶつかった夫人を探しに行った。
(次話へ続く)
一迅社様、アイリスneoより来月8月3日に書籍発売予定です。
予約始まっているようです。
詳細はそのうち活動報告でお知らせすると思います。
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