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24 またなの? 1

 クロードとザカリアが来るのが楽しみで、彼らの部屋に花を生けた。

フィオナにとっては初めての客、そして初めてのおもてなし。気に入ってくれるだろうか。

茶と菓子の準備も万端だ。フィオナはどきどきわくわくしながら彼らの到着を待った。


 午後になって、待ちに待ったハスラー兄妹が遊びにきた。彼らは土産物をたくさん持ってきてくれた。フィオナが飲んだことのない甘い香りのするお茶や、珍しいお菓子。それに美しい織物。


 フィオナは彼らを歓迎し、旅の疲れを労った後、お茶を楽しんだ。王都のうわさ話や美味しいお菓子が食べられる店の話を聞いた。そういえば、こちらに来てから、何かとアロイスは連れ出してくれるようになったが、王都で連れ立って外食したことはない。あの頃は二人の距離は遠く、いまほど仲良くなかった。今度王都に行くことがあったら、行ってみたい。


「なんだか楽しそうですね。私も王都にいるころ、もう少し出かければ、良かったです」


 するとクロードとザカリアが顔を見合わせた。


「…それは、夜会並みに大変かもしれません」


 とクロードがいう。


「そうよね。お忍びならばいいけれど」

「どういうことですか?」


 フィオナがきょとんとして首を傾げる。


「そりゃ、公爵夫妻ですから。有名店などに行ったら、なんやかんやとすり寄ってくる輩もいますし、始終人目にさられます。爵位が高くなればなるほど注目も集まりますからね」


 フィオナはがっかりした。やはりアロイスに言われた通り外出は控えて正解だったのだ。今思うとフィオナのためだったのだろう。


 ここの領民たちはみなフィオナを馬鹿にすることなく温かく迎えてくれるが、王都の夜会では突き刺さるような視線を感じ始終緊張を強いられた。まるで一挙手一投足を観察されているようだった。そんな中で、ザカリアとクロードがそばにきてよくフォローしてくれた。彼らはとてもありがたい存在だ。



「ここの領地で、ときどき有名店に行くけれど、皆気のいい人ばかりで、マナーにはこだわらない方が多くて、王都より気楽です」


 ザカリアが嬉しそうに笑う。


「そうですね。気質でしょうか。陽気で細かいこと言わない人が多いですよ。うちの領地なんてもっとざっくばらんよね。兄さま」

「ざっくばらんというよりがさつだけどね」


 と言って二人は笑った。


「いずれにしても王都で店にはいるには気も張るけど金もはる。僕はあまり好きではないです。まあでも、そこら辺は男爵家なので気楽です」


 そういうものなのかとフィオナは思った。彼らは随分と洗練されていて、社交慣れしている。都会的でとても素敵な人たちだ。 

 そんな彼らをみていると本当に自分はこの地位に安穏としていていいのだろうか、もっとふさわしい人がローズブレイド公爵夫人となるとべきだったのではないかと、感じてしまう。

 

 王妃から、アロイスがフィオナを選んだ理由は聞いているので、この結婚は両家の利害の一致だとわかっている。だから引け目を感じる必要などないはずなのに、ときおり不安になる。なぜなら、フィオナの目にはアロイスがとても損をしている様に映るからだ。


 アロイスは社交の後いつも褒めてくれる。挨拶が上手になったとか、所作がとても美しくなったとか。

 あれはフィオナが劣等感にさいなまれないため、自信を持たせるための優しい気遣いなのだ。

 今朝別れたばかりなのに、もう会いたくなっている。最近は、彼がそばいることに慣れ過ぎて、いないと不安に感じる。ついこの間まで、夫がいなくても楽しく暮らしていたのに、どうしてしまったのだろう。




 そして話は彼らの領地に移った。とても質のよいレモンとオリーブがとれるという。ザカリアは美容に良いからとオリーブオイルを持ってきてくれた。領地の名産なのだそうだ。食用だけではなく、肌に塗るといいらしい。美しい小瓶にサラリとしたオイルが詰められている。


「ああ、でもフィオナ様まだお若いから、いらないかもしれませんね」


「塗ると肌がきれいになるのですか?」


 がぜん興味がわいた。いままで自分の容姿などあまり気にしたことはなかったが、最近綺麗になりたいと切実に思うようになった。


「あまり塗り過ぎると肌荒れの元です」

「そうなのですか?」


 フィオナは同性と美容の話などしたことがなかった。ザカリアは随分と詳しい。彼らの領地はルクレシアより雨が少なく乾燥しやすいので、オイルが重宝しているそうだ。


「フィオナ様はすこし乾燥したなってときに、少し手に取って薄く延ばして使うといいですよ。ちょっと手で試してみます?」


「ええ!ぜひ!」


 女性二人だけで盛り上がると思いきや、意外にクロードも詳しいというより普通に話題に入ってきている。フィオナが一番遅れをとっていた。オイルを使ったパックの仕方なども教えてくれた。


「僕もオイルを使ってますから」

「だから、お二人とも肌がきれいなのですね」


 とフィオナが感心していうと、ザカリアはよろこび、クロードは苦笑した。ザカリアは新しい化粧品を購入すると、兄のクロードで試してから使うらしい。どうやらこの兄妹は妹の方が強いようだ。

 

 フィオナがふと視線を感じて目をあげるとアリアがオイルに熱いまなざしを送っていた。フィオナと目が合うと少し赤くなって狼狽えた。どうやらアリアもこのオイルに興味があるらしい。横にいるマリーにたしなめられていた。あとで二人にもおすそ分けしようとフィオナは思った。


 実家では家事で手がぼろぼろに荒れていたのだが、結婚してから、アリアやマリーが一生懸命手入れをしてくれるので、肌も髪もきれいになり、手荒れも治った。

 オイルを定期的に彼女たちの為に購入してはどうだろうかとフィオナは思いついた。今度アロイスに話してみよう。とても使用人を大切にする人だから、きっと力になってくれるはずだ。


 食事もお茶の時間も二人はここの料理はとても美味しいと大喜びで、たくさん食べていた。

フィオナもそう思う。外で食べるよりも、家で食べたほうが美味しいことが多いのだ。今日みたいに皆で食べる料理はまた格別である。

 

 楽しい夕食のあと、彼らの領地経営などのちょっと堅い話もした。フィオナはだいぶこういう話題にも慣れてきて、聞き役にならなれるようになっていた。

 隣の領地で同じ海に臨んでいるのに気候も少し違うらしい、ここよりずっと乾燥していて日差しが強いと言っていた。

 少し前ならば、言葉の意味も分からず楽しめなかった話題も今は理解できる。教養を学び、社交で実践しているおかげだ。フィオナはいつの間にか、そういう会話を楽しむことが出来るようになっていた。

 ザカリアとクロードは彼らの領地にも遊びに来てほしいと招待してくれた。


 フィオナはとても楽しい夜を過ごし、床に就いた。






 次の日の昼下がり、フィオナが部屋で休んでいた丁度その時、一通の手紙が届いた。母メリッサからだった。珍しいというか、初めてだった。彼女が手紙を書くとは思わなかった。実家ではメリッサが書物を読んだり、書き物をしたりという姿を見たことがない。


 フィオナはペーパーナイフで丁寧に封を切った。しかし、中から出てきた手紙の筆跡はメリッサのものではなく姉イーデスのものだった。

 

 なぜこんな細工をしたのだろうかとフィオナは不思議に思ったが、とりあえず目を通した。

 




長かったので、切りました。続き明日投稿します。

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