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想ってくれているのならば

 ……ここはどこでしょうか?

 目の前には、蝋燭の刺さった鉄輪と円い鏡が置かれた台がありますが、他には何も見当たりません。どこかに出口はないのかと辺りを見渡しても、真っ暗な闇が続いているだけです。一体、何なのでしょうか……

 訝しく思っていると、台の上に置かれた鏡が、キラリと光ったように見えました。これはきっと、鏡を覗き込め、ということなんでしょうね。なんだか、ろくなことが起きない気がしますが、他にすることもなさそうですし……

 恐る恐る鏡を覗いてみると、私の姿が目に入りました。


 ただし


 虹彩はくすんだ金色に染まり


 瞳孔は縦長に変わり


 額には虹彩と同じ色をした一対の突起物……


 ……ああ、そうでしたね。色々な方の警告を無視して七日続けてお詣りをしたのですから、こうなるのは当たり前ですよね。

 深くため息を吐くと、鏡の中の私が微笑みを浮かべました。


「なんだ、まだここに残っていたのか?」


「まだ残っているも何も、出口がないのですから出て行きいようがないじゃないですか」


 煩わしく思いながらも、鏡の質問に答えました。すると、鏡の中の私は、更に笑みを深めました。


「それは、失礼した。しかし、さっさと消えてしまった方が、良いと思うぞ?」


「……人に対していきなり、消えろ、と言うのは、どうかと思いますよ?」


 たしかに、全ての感覚がなんだかぼやけていて、鏡の中の私の言うとおり消えてしまいそうではありますが……それに、頭も重く痛みますね……

 頭をさすっていると、鏡の中から、ふん、という鼻で笑う声が聞こえました。


「そうか。しかし、さっさと消えてしまった方が、お前も楽だと思ったのだがね」


 鏡の中の私はそこで言葉を止めると、勝ち誇ったような表情を浮かべました。


「なにせ、横恋慕をした相手のために力を尽くしたのに、それが相手の迷惑にしかなっていなかったのだから」


 それから、鏡の中の私は、耳が痛くなる言葉を口にしました。言い返せずにいると、鏡の中の私は待たしても、口元を歪めて、笑みを深めました。



「しかも、その相手が見ていたのはお前ではなく、お前に重なっていた亡き娘の影だった」


「……」


「その上、想いを告げる前に、眼中にない、と釘をさされたのだから、滑稽なことこの上ない」


「……」


「あの男が、面白がるのも無理のない話だ」


 ……あの男、というのは、きっと葉河瀨さんのことなのでしょうね。私も昨日までは、葉河瀨さんが月見野様に私の想いを伝えて面白がっていた、と思っていました。それでも、思い出してみれば……


「……本当に、そうだったのでしょうか?」


「……ほう?」


 私が問いかけると、鏡の中の私は笑みを止めました。そして、不機嫌そうに眉を顰めました。


「何故、そう思う?」


「……怪我人が沢山いた喫茶店の中でも私のことだけを心配していましたし、それに、胸に呪いを受けて倒れても、私に微笑みかけていましたから」


 私が答えると、鏡の中の私は、ふん、と鼻で笑いました。


「だったら、なおさら消えてしまった方がいいのではないか?それほどまでに恋い慕ってきた相手を信じられずに、あまつさえ手にかけようとしたのだから」


「……」


 鏡の中の私に対して、返す言葉は見つかりませんでした。たしかに、今更、葉河瀨さんの言葉を信じたい、と言うだなんて、虫が良すぎる話ですよね……

 黙り込んでいると、鏡の中の私は再び口元を歪めて笑みを浮かべました。


「それに、あの男は、恐ろしいモノになったとしても気持ちは変わらない、と言っていたんだ。それなら、お前でなく私が相手でも構わない、ということだろう?」


「……そうなのかも、しれませんね」


 またしても、鏡の中の私に対して、返す言葉は見つかりませんでした。

 今まで、私のことを見てくれていた人なんていなかったのですから。きっと、葉河瀨さんも面白がっていたのではないのなら……私に誰かの面影を重ねていたのでしょう。それならば、相手が鏡の中の私でも、何ら問題はないはずです。虹彩と角以外は、私と同じ姿をしているのですから。

 思わずため息を吐くと、鏡の中の私は再び笑みを深めました。


「まあ、消えてしまう前に、礼だけは言っておこう。お前のおかげで、良い手駒が手に入るのだから」


「……手駒、ですか?」


 手駒というのは……いえ、疑問に思うまでもありませんね。今までの話の流れから、それが葉河瀨さんのことをさしているのは、分かりきっていますから。


「ああ。あの男、お前のためなら他の者を傷つけることを厭わないどころか、喜んで命まで差し出す様子だったろう?手駒には最適ではないか」


 ……つまり、葉河瀨さんを巻き込んで、何かさせようとしているのですね。もうすぐ消えてしまう私には、もう関係ないとは分かっています。それでも……


「あの……少し、良いですか?」


「何だ?」


「一つだけ、お願いがあるのですが」


「ほう、ならば言ってみろ。今は気分が良いから、聞いてやらないこともないぞ?」


「……私が消えてしまうまでの間、貴女の邪魔はしません」


「それは殊勝なことだ、まあ、邪魔をしようにも出来ないだろうがな」


「だから、これ以上葉河瀨さんを巻き込まないでもらえませんか?」


 私の言葉に、鏡の中の私は再び笑みを止めて眉を顰めました。まあ、出鼻をくじくようなことを言ったのですから、当然ですよね。


「何を馬鹿げたことを言っているのだ?」


「まあ、自分でも馬鹿なことを言っている、とは思いますよ」


「ならば、何故そんな願いを口にした?」


「そうですね……」


 真意の程は分かりませんし、私以外の面影を見ていたと言う可能性も否定できません。それでも、葉河瀨さんの言葉や行動が、嬉しかったいうのは事実です。それならば、これ以上面倒ごとに巻き込みたくない。特に、手を汚させるようなことは、しないでほしい。

 でも、そんなことを鏡の中の私に伝えたところで、分かってもらえるはずはないですよね……

 黙り込んでいると、鏡の中の私は呆れた表情を浮かべました。


「……自分から突き放しておいて、まだ未練があるというのか?」


「……ええ、そうみたいですね。我ながら、滑稽だとは思いますが」


 私の答えに、鏡の中から深いため息が聞こえました。


「そこまで言うのなら……私がお前の姿と声であの男に言い寄って、それでもあの男がなびかなければ、手駒にすることは諦めてやろう」


 鏡の中の私は、そこで言葉を止めると、また笑顔を浮かべました。


「まあ、無理な話だろうがな」


「……そうかも、しれませんね」


 ……葉河瀨さんが想いを寄せているのが、私以外の誰かの面影ならば、鏡の中の私が言うとおりなのでしょう。

 でも、もしも、本当に私のことを想ってくれているのならば……

 その時は……

 今までしてきたことや、誤解していたことをちゃんと謝って……

 側にいてもいいか、聞いてみることにしてみましょうか……

 多分、無理な話なのでしょうけれど……


「おや、随分とつらそうにしているな?」


「そうですね……」


「ならば、後は全て私に任せると良い」


「そう、ですね……」


「案ずるな。あの男なら、手駒になったとしても嬉々としているに違いないのだから」


「……」


「だから、安心して消えると良い」


 鏡の中の私は、顔を歪ませるようにして、気持ちの悪い笑顔を浮かべました。それから、まだ口を動かして何かを言っているようでしたが、もう、何を言っているかさえ聞こえなくなりました。

 きっと、私はこのまま消えてしまうのでしょう。


 ならば、せめて、葉河瀨さんが無事であることを祈りながら、消えることにしましょう。

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