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車内にて☆

 都内某所にある一軒家の茶の間にて、三輪摩耶は卓袱台の上で頬杖をついていた。


「早川さんたち、上手くいったかなぁ……」


 摩耶が不安げに呟くと、隣に座った吉田舞も不安げな表情を浮かべた。


「大丈夫だとは思うんですが、今回は信田部長たちすら厄介だといってましたからね……」


「ねー……」


 二人が不安げにそう言い合っていると、向かいの席に座った日神たまよがニコリと微笑んだ。


「正義さんたちなら、きっと大丈夫ですよ。必ず帰って来る、と約束してくださいましたから」


「そうであります!義理兄上たちが約束を違えるはずありませぬ!」


 たまよの言葉に、凜々しい表情で山口繭子が続いた。二人の返事を受け、摩耶と舞も微笑んだ。


「そうですね、私たちが気弱になっていたらダメですよね」


 摩耶がそう言うと、たまよは鷹揚な声で、ええ、と返事をしてゆっくりと頷いた。


「でも、やっぱり気になるのは気になるなぁ。姫ちゃんのことも心配だし……」


「三輪先輩でも、今回は見にいけないんですか?」


 摩耶の言葉に、舞が首を傾げた。すると、摩耶は頬杖をついたままコクリと頷いた。


「うん。いつもなら、このくらい心配してると、無意識のうちに相手のところに出現できるんだけどね」


「摩耶さんの特技、すごいですよね。私も、正義さんのところにお顔だけで遊びにいけたら、きっともっと楽しいんでしょうね」 


 たまよが微笑みながらそう言うと、摩耶は脱力した表情を浮かべた。


「たまよさん、多分、日神課長もの凄く取り乱すから、やめてあげてくださいね」


 摩耶がそう言うと、たまよは、はーい、と鷹揚な声で返事をした。すると、今度は繭子が挙手をしながら首を傾げた。


「三輪女史、首だけで移動するのは、どういった心地がするのでありますか?」


 繭子が尋ねると、摩耶は、うーん、と唸った。


「そうだねー、なんか辺りの景色がグルグル回って、ぼんやりしてきて……」


 そう言うやいなや、摩耶の目に映る景色が回転を始めた。


「そうそう、こんなふうに……え!?」


「三輪先輩!?」

「三輪女史!?」


 回転する景色の中、摩耶の耳には焦る舞と繭子の声と……

 

「摩耶さん、いってらっしゃい」


 ……たまよの鷹揚な声が届いた。


「え、ちょっと、いきなりどうしたの!?」


 摩耶が焦っていると、辺りの景色は段々とぼやけ暗闇に変わり……


「……え?」


「……へ?」


 ……いつの間にか、摩耶の首はリムジンの車内に移動していた。目の前では、葉河瀨明が着物の肩をはだけさせ、一条姫子の手を握っていた。

 摩耶が混乱していると、葉河瀨は噛み跡のついた肩を隠した。


「……きゃあ、三輪さんのえっち」


 そして、抑揚のない声でそう言い放った。


「あ、すみませ……」


 そう言いかけた摩耶だったが、我に返って目を見開いた。


「……じゃなくて!皆さん無事だったんですね!?」


「ああ。見ての通り、一条さんは戻って来たし、席を外しているが早川と日神も無事だ。それに、さっき月見野さんから、後始末も無事に終わったって連絡が来たよ」


「良かった……」


 葉河瀨が答えると、摩耶は安堵したようにため息を吐いた。


「ただ、ちょっと、ゲジゲジしたけどな」


「え、ゲジゲジ、した?」


「ヒント、日神が活躍しました」


「把握しました。日神課長が活躍すると、閲覧注意な感じになりますからね」


 摩耶は鳥肌を立てながら相槌を打つと、再び姫子に目を向けた。


「でも、姫ちゃんが戻って来てくれ、本当に良かっ……」


 良かった、そう言いかけて摩耶は言葉を止め、気まずそうに葉河瀨を見上げた。すると、葉河瀨は淋しげに微笑んだ。


「気にしなくてもいいよ。俺も、一条さんが戻ってくるのが一番の望みだったから」


「そうですか……」


「そうそう。それはともかく、一条さんが目を覚ましたら、また良き先輩として気に掛けてくれると助かる」


「あ、はい。部長たちから、監視も兼ねておみせやさんに転籍させる方向で動いてる、って聞いたので、また一緒に働いていこうと思ってます」


「そうか」


 摩耶が答えると、葉河瀨は安心したように微笑んだ。


「まあ、いっそのこと三輪さんと百合百合しい方向に進んでくれれば、それはそれで安心なんだけどな」


「婚約者がいる人間相手に、なんてこと言うんですか」


「ははは、冗談だよ」


 葉河瀨はそう言うと、姫子の方に目を向けた。


「ただ、正直なところ、少し名残惜しくなったのは事実だな」


 葉河瀨はそこで言葉を止め、姫子の手を握る力を少しだけ強めた。


「ようやく、手が届いたんだけどな」


「葉河瀨部長……」


「まあ、センチメンタルになる気持ちも分かるなりよ」


 摩耶が言葉に詰まっていると、突然新たな声が車内に響いた。二人が驚いて声の方に顔を向けると、水干を着た山口慧がいつの間にか座席に座っていた。


「か、課長!?いつからいらしてたんですか!?」


 摩耶が驚いて声を掛けると、慧はニコリと笑った。


「正直なところ名残惜しくなったのは事実だな、くらいからなりよ★」


「わざわざ人の声を真似て説明していただき、ありがとうございます」


 葉河瀨が不服そうにそう言うと、慧は得意げな表情を浮かべて、どういたしまして、と答えた。


「それで、何をしにいらっしゃったんですか?」


 葉河瀨が尋ねると、慧はばつがわるそうに頬を掻いた。


「あー、ほら、姫っちの事後処理を色々としないといけないから、迎えに来たんだが……もう、連れていっても大丈夫か?」


「……ええ、問題、ありません」


 落ち着いた声で尋ねる慧に、葉河瀨は苦々しい表情と声で返事をする。摩耶はそんな葉河瀨の表情を見ると、意を決した表情を浮かべて慧に目を向けた。


「あの、課長……姫ちゃんの記憶の件、どうにかなりませんか?」


「まあ、可愛い部下の言うことを聞いてやりたいのはやまやまなんだが、社長命令だからなぁ……」


 慧はそう言いながら頭を掻くと、葉河瀨に手を握られ寝息を立てる姫子に目を向けた。


「……葉河瀨の告白が最終的な引き金になっちまった以上、葉河瀨から積極的に接触したり、好意を伝えるのは駄目ってことになるだろうな」


「分かってますよ、そんなこと」


 葉河瀨が吐き捨てるようにそう言うと、慧は苦笑を浮かべた。


「まあまあ、そんな怖い顔すんなよ。姫っちの方から葉河瀨に告白なんてことになったら、別に邪魔立てはしないから」


「それはどうも」


 不服そうに返事をする葉河瀨に向かって、慧は満面の笑みを浮かべた。


「まあ、アタシの術が失敗しない限り、そんなことは起きないなりよ★アタシの術が失敗しない限りね」


 慧がおどけた口調でそう言うと、葉河瀨と摩耶は呆然とした顔を向けた。


「あの、課長それって……」


「おっと!もうこんな時間なり!じゃあ、葉河瀨は姫っちをこっちに渡して、まややんはお家に帰るなり★」


「きゃっ!?」


 慧はニコリと笑いながら、摩耶の言葉を遮って頭に手を乗せた。すると、摩耶の頭は座席の中へ沈んでいき……



「あ、摩耶さんお帰りなさい。丁度お茶が入りましたよー」



 ……慧の自宅で待つ、身体の元へと戻って来た。


「あ、どうも、ありがとうございます」


 摩耶は湯飲みを差し出すたまよに軽く頭を下げ、二、三度まばたきをした。


「三輪先輩、皆さんの様子はどうでした?」


「あ、うん。ちょっと怪我はしてたみたいだけど、皆ちゃんと帰って来るよ」


「それは良かったです」


 摩耶が答えると、舞は安心したように微笑んだ。


「さすが、義理兄上たちであります!」


「本当ですねー」


 続いて、繭子とたまよもそう言いながら安堵の表情を浮かべた。


「ただ、葉河瀨部長のことが、少し気がかりですよね……」


 茶を一口飲んだ舞がそう言うと、摩耶は訝しげな表情を浮かべた。


「あ、うん。多分、そう、だよね……?」


「三輪先輩?どうかしたんですか?」


「何か厄介ごとが発生したのでありますか?」


 混乱する摩耶に向かって、舞と繭子も訝しげな表情になって首を傾げた。すると、たまよが三人の顔を眺めてから、ニコリと穏やかに微笑んだ。


「みなさん。大丈夫ですよ。ウルトラミラクルエレガントな課長さんは、ちゃんとしてますから」


「そう、です、よね……」


 鷹揚な口調のたまよに向かって、摩耶は混乱したまま返事をした。

 かくして、鬼退治第二フェーズ・一条ちゃんとキョンキョンを助け出そう作戦は幕を閉じたのだった。

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