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コミュ障魔族の聖王記  作者: べっち
3/12

プロローグ~とある合戦場にて③~

 


【Sideピコ ―戦場北・湖の先の森―】




 はあ・・・



 私はリンドとの【念話(メッセージ)】を終えたあと、内心で深いため息をついた。

 憂鬱で仕方がないからだ。無理しないでとは言ったけど、結局リンドは無理をしてしまうんだろう。

 今までもずっとそうだった。


 正直言って、気が気じゃない。

 本音を言えば、今すぐ止めてほしい。

 こんな無茶な戦いなんて・・・



「見ろ、敵の第一陣が動き出したぞ!」

「へっへ、いよいよか・・・」

「おい、あんまり顔を出すな!見つかったら終わりだぞ!」



 すぐ近くで、味方の兵士たちが戦場を見ながら何かを話している。

 森の茂みの中で“ぎりーすーつ”とかいうリンド考案の葉っぱがくっついた服を着こんで隠れている彼らは、リンドがこの戦場に仕掛けた伏兵部隊だ。

 今はこの右翼の森に潜んで、自分達の出番を待っている。


「そーだぞお前ら。俺らがこの戦いの切り札なんだ。下手打って敵に見つかるような真似しやがったら―――」

「バティアス隊長!頭が出てます!」

「ぬっ?」

「アホ!」

「頭引っ込めろ、バカ!」

「敵に見つかったらどうすんだ、バカ!」

隊長(アンタ)が一番図体デカいんだから、もっと気ぃ使えよ!」

「うっ、うるせー!」


 間抜けな隊長に、一斉に罵声を浴びせる男達。

 彼らはリンドの合図に合わせて、相手の横腹に襲いかかる手はずになっている。

 見つからないよう姿を隠し、機を見て敵を奇襲する重要な役割だ。


 だがそれが分かっているのかいないのか、バティアス率いる四番隊は今日もギャーギャーと騒がしい。

 これ、ほっといていいのかな?

 リンドに報告した方がいいだろうか。


 軍内一の荒くれ集団は、私に見られているとも知らず下らない言い争いを続けている。

 私は魔法で透明化したまま、彼らの様子を窺っていた。

 こんなことで敵に見つかったら目も当てられないし、私はリンドにここの惨状を伝えておこうかとも思ったけど、止めておいた。


 伏兵には一番向いてない隊だと、私は思う。

 でも彼らを奇襲部隊に選んだのは、リンドの采配だ。

 リンドなら、その辺りの事も全部承知の上で作戦を練っているはず。

 私が口出しするような事じゃないし、きっと大丈夫なんだろう。



 ただ、そうは言っても・・・



 私は音を立てない様にこっそりとその場から離れ、森のすぐそばにある湖のほとりに立った。

 不安な面持ちのまま、対岸にある風景を見渡してみる。


 湖の先に沼地があり、そこには反乱軍の右翼が布陣している。

 そのさらに向こう側には、リンドの中央軍が戦う予定の平原が広がっていた。

 向かって左、ここからだと霞んで見えるあの小さな丘の上で、リンドは1人開戦の時を迎えようとしている。



 正直私は、ここにいたくない。

 こうして目を離している隙に、もしもリンドに何かあったら・・・

 そんな不安ばかりがよぎって、いても立ってもいられない。


 できるなら、今すぐリンドの所に飛んでいきたい。

 作戦なんか無視しても・・・

 私はリンドが無事でいてくれさえすれば、それでいい。

 本当のことを言えば、こんな戦い勝とうが負けようが、私にとってはどっちでもいいんだ。


 それこそ、理想の国とか心底どうでもいい。

 人間なんて野蛮な種族がどこで何人野垂れ死のうが、私には何の関係も無いことだ。


 人間なんかのために、リンドが命を張ることなんて無いのに。

 こんな戦争、今すぐにでも止めてほしい・・・



 もう何度胸の内で呟いたか分からない、心からの本音。

 でもそれは、リンドには決して言えない私の秘密だった。

 こんな本心をリンドに知られれば、失望されてしまうに決まっているから。



 私はひとしきり内心で愚痴をこぼした後、四番隊の人達に聞こえないよう「ふう~~~~~」と深く息を吐き出した。



 ・・・これは、しょうがないことなんだ。

 だって人間達の平和な国を創るのは、()()()()()なんだから。


 あの人は()()()()()()()()()()()()()()()、こうして戦っている。バラバラだった彼らをまとめ上げ、やってきた王国の騎士団を次々に追い払って、今やすっかり民衆の英雄になってしまった。


 しょうがない。

 リンドは困っている人を見たら、絶対に放っておけない人だから。


 人間なんて大嫌いだけど、あの人だけは別。

 リンドはずっと独りぼっちだった私を、その優しさで救ってくれた。

 私のために泣いてくれたし、そばにいるとも言ってくれた。

 世界でたった1人の、私の大切な家族だから。


 私はリンドと一緒にいたい。

 そのために私は、大嫌いな人間達を「助けたい」なんてウソをついてまで、姿を隠してここまでずっとついてきたんだ。


 本当は、戦って欲しくない。

 でもどんなに願っても、リンドがこの戦いを止める事は無いだろう。

 なら、私のやるべき事は・・・

 結局の所、最初から決まっている。


 リンドに勝たせることだ。


 リンドを死なせないように。

 リンドが夢を叶えられるように。


 まさかこんな一番大事な戦で、リンドから“離れて戦え”なんて言われるとは思ってもみなかったけど・・・


 でもそこはもう、信じるしかない。


 リンドの策は、これまで全て当たってきた。

 そのリンドが勝つと言うなら、これは勝てる戦のはず。


 信じろ。

 リンドこそが、世界最強の将軍なんだ―――



「おい!大将が出たぞ!」

「おおおっ!」

「「「聖王様!」」」



 覚悟を決めた私の後ろから、四番隊の伏兵とは思えない歓声が聞こえてくる。

 見ると自陣中央にある、はるか遠くの丘の先端に、あの人が1人で姿を現した。


 それを確認した私はとんがり帽子のつばを掴んで、深く被り直す。

 気合を入れる瞬間の癖で、()()()が帽子につっかえて普段なら違和感あるけど、この時だけは気にならない。

 戦いが始まるから。


 私のやることは、いつもと同じだ。

 リンドのために、リンドの指示通り、勝利に向けて全力を尽くすだけ。


 しくじる訳にはいかない。

 リンドの策が実現するかは、私の魔法にかかっているんだから。


 必ずリンドに勝たせてみせる。


 私の魔法は、そのためにあるんだ!



 私は自分の決意を新たに【飛翔(フライ)】の魔法を唱え、戦場の空へと舞い上がった。





【Sideリンド ―中央丘の上―】



 俺は丘の先端に立ち、前進してくる敵の第一陣を眺める。


「「「「ハウッ!! ハウッ!!」」」」


 来てる来てる。

 何も知らないおバカさん達が。


 確かにクアレント騎士団は強く、数も多い。

 でも所詮あいつらは、俺がこれまでに見せた()()()()()()()()で戦っているに過ぎないのだ。

 ま、基本に忠実なのは良いことなんだけどね・・・


 でもあまりにそればっかだと、逆に相手に利用されることもあるんですよ?


 奴らは基本通り高所に陣取り、反乱軍(おれたち)を取り囲むような狙いを見せている。

 そして主力である俺の中央軍をおびき寄せるため、あの第一陣を前進させている。

 俺が事前に読んでいた通りの動きだ。

 と言うか、俺がそうなるように誘導したんだけどね。

 だからこそ、奴らがここから何をしたいのか、俺には手に取るように分かるのだ。


 俺は敵が動くだろう場所に、丁寧に仕掛けを用意した。

 ノコノコこの平原にやって来た以上、奴らにそれがバレていないことは確実。

 連中は必ず、俺の用意した“地雷”を踏んづけて回ってくれるはず・・・


 そうなれば、間違いなく戦況はひっくり返る。

 何も知らないボンクラめ、今のうちにせいぜいハウハウ吠えてりゃいいさ。

 慌てなくても、すぐに本物の吠え面かかせてやんよ。

 手も足も出ないまま「おのれー」とか言って消えていった、あのマヌケ騎士団どもと同じ末路を辿るが良い。

 ふっふっふ・・・


 いつもの調子が戻った俺は、悪い笑顔で敵の布陣を睨め付ける。


 その後目線を下げ、丘の下に広がる自陣の様子も見渡してみた。


 俺は元々、無関係な人間がどうなろうと大して興味無かったんだけど・・・

 ピコと旅している内に、考えが変わった。

 今は戦友である()()()()と、俺も新しい国を共に築き上げてみたいと思っている。


 だがそれも、全てはこの一戦の結果次第だ。


 どれだけ戦況が厳しかろうと、関係ない。

 俺には、練りに練った戦略がある。

 頼りになる戦友(こいつら)もいる。

 そして何より・・・天下無敵の大魔法使いがついているんだ!


 あの天使な魔族の女の子を思えば、俺はどんな逆境だってはねのけられる。


 俺の異世界無双はもう、終わっている?

 いいや、まだだ。


「俺とピコの異世界無双」は、まだ終わらんよ!


 行くぞ俺!!

 絶対勝つ!ピコの夢のために!!



【Sideピコ】



 絶対勝つ。リンドの夢のために・・・!



【Sideリンド】



「おっしゃあっ!!」



 俺は気合と共に剣を抜き放ち、右胸の横に構えて止める。

 注目が集まる一瞬の静寂を待ち、思い切り息を吸い込んだ。

 そして剣の切っ先を天に突き上げ、根限りの勢いで、叫ぶ。



「そんじゃあいっちょ、行ってみますかあ!!!」



「「「 ウ オ オ オ オ オ ! ! !」」」



 眼下を埋める俺の直下兵・中央軍3千は、平原中に響き渡る大歓声で応えた。







【語り部】



 これは、我々反乱軍がクアレント騎士団と激突する直前の一幕です。

 お分かりいただけたでしょうか?


 この時点で、リンドと私の認識には大きな隔たりがあったのです。


 実は私は、人間達のために王国と戦っているつもりなど毛頭ありませんでした。

 そしてリンドも、私ほどではないでしょうが、最大の目的は苦しむ人々の救済では無かったのです。


 ただ、私がそう願っていると勘違いをしていたから。

 つまり彼は、私のために戦ってくれていたのです・・・ふふ。


 最初にこの場面を書いたのは、これが私たちの関係をお伝えするのにちょうど良いと思ったからです。

 ですのでこの戦いの顛末を書く前に、まずはなぜ私達がこんなことになっているのか、その理由からお伝えしていこうと思います。



 これは1人の転生者と1人の魔族の相誤解が生みだした、一風変わった国盗り物語。

 コミュ障魔族の私が(つづ)る、聖王リンドの一代記です。



 始まりは、この場面からおよそ1年前。

 聖王リンドが元いた異世界からこの大陸へとやってくる、直前の出来事から―――





以前から色々と、変更点も出てしまいましたが・・・

なるべく早く、以前投稿していた場所まで辿り着きたいと思います。

応援よろしくお願いします!


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