あたたかい季節
あたたかい季節
ハラリ、と舞い降りて来た落ち葉の感触で眼が覚める。それとともに、むせ返るような金木犀の香りが鼻についた。
少し尖ったような風が通り抜け、僕は、心なしか体を震わせた。
年を重ねるにつれ、この季節はこんなにも寒かっただろうかと、ふと、思うことが多くなった。
大分年も取ったし、そう感じるのは当たり前なのかもしれないなと思う。
この辺りの樹々の葉はほとんど落ちてしまって、残っているのは、僕がいる、ここの木くらいになった。
楽しそうな笑い声をあげながら、子どもたちが落ち葉を踏みしめたり、舞い上げたりして遊んでいる。
赤や、黄、焦茶の色が、僕の前でひらひらと踊っている。
なんとなく優しい気持ちになって、僕は目を細めた。柔らかな日差しが、木漏れ日となって降り注ぐ。
僕は、ごろごろと喉を鳴らしながら、空を仰いだ。
雲ひとつない、絵のキャンバスのような、大きな青空がそこには広がっていた。
飛行機は控えめな音を立てながら、僕と子どもたちの間に、白い直線を描く。
飛行機雲は、まるで何かを確信している、真理のように、そこに真っ直ぐのまま留まった。
明日は雨が降るのかな。
長く生きて来て経験的に、飛行機雲が残る日の翌日は、必ずと言っていいほど雨が降った。
秋雨は冷たい。また気温が下がるのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えていると、まぶたがすぅと重くなり、僕はまた夢の世界へと戻って行った。
僕が目を覚ましたときには、もう陽が傾き始め、夜がそこまで迫っていた。
子どもたちは家に帰ってしまったようだ。
辺りは静寂で包まれ、金木犀の香りだけが、そこに強い存在感を残している。
飛行機雲はまだ薄く残っていて、線のこちら側に薄く雲が広がりつつあった。
寒いなぁ、僕は、また、そう思う。
夜だからかなぁ、けど、まぁいいか、なんだかすごく眠たいし。
けれど、もし贅沢を言うのならば、何か温かいものが欲しい。
その何かは何なのだろう。
ざわりと風が吹き、地面に黒い点が、ひとつ、ひとつと増えてくる。
あぁ、雨が降り始めたのだ。
秋雨は優しく、けれど、冷たく降り注ぐ。
始めは小さな点だった黒が辺りを染めていく。
その様子を眺めながら、何かが僕の頭に引っかかった。
微かな違和感。
周りをぐるりと見渡して、その答えに気付く。
・・・そうか、雨が降っているのに自分は濡れていないからだ。
落ちなかった葉が、雨を、僕から遮ってくれているのだ。
僕は、長年の相棒を仰ぎ見た。
なんだよ、水臭いな。言ってくれよ。
僕は、もう、あたたかくって、嬉しくって、満足してしまって、幸せで。
そして、深い深い眠りについた。
最期に、落ち葉がそっと僕の上に降り注ぎ、確かに、おやすみ、という声を聞いた気がした。
もう、寒いなんて感じなかった。
こんにちは。
初めて作品を投稿させていただきました、伊田天と申します。
みなさんが読まれた後に、少し優しい気持ちになれるような、そんな作品を書いていきたいと思います。
どうぞよろしくお願い致します。




