3 敗走
時は成人式が行われた日と同日の午後6時、お酒もありということで一同(石沢を含めたラグビー部員4人)は、電車で隣町の立食パーティ会場に来ていた。この立食パーティは、中学時代の同期達と成人を祝うもので、約百人程度参加している。もちろん俺のフィアンセ(自称)である神本琴音も参加している。
「おい岡崎。今夜は飲みまくるぞ。」
会場に入り、同窓会のような雰囲気に気に入ったのか、隣の石沢は上機嫌である。
「ふざけるな。僕は今夜、重大な任務があるのだ。お酒はほどほどにしておく。それと、ここら辺で別行動を取らせてもらう。俺の健闘を祈っていてくれ。」
「おう。ならこいつらと飲みまくるわ。婚約報告たのしみにしておくぜ。」
そういいながら石沢は隣にいた部員仲間に肩を回した。飲み過ぎんなよと忠告し、俺はその場を去り、フィアンセを探した。
しかし、会場はなかなか広いな。300畳程度あり、しかも探している途中、同じクラスだった者どもに話しかけられるから任務がなかなかはかどらない。
「あ、岡崎君じゃん!」
などと話しかけてくれる雌豚どももいるが、正直、5年ぶりかつ、化粧もされたら誰かわからない。(ただし、例外もいる。)俺はその都度、あー久しぶりなどと適当な返事をし、やり過ごしていた。もちろん男にも声かけられるが、
「琴音ちゃん知らない?」
というだけで、たいていのやつは、
「知らないけど、相変わらずだな。がんばれよ~」
という返事が返ってきた。中学時代に琴音のボディーガード(自称、断じてストーカーではない、影からこっそり見ただけだ。)をしていたため、中学では俺が琴音にぞっこんなのは有名なのである。
彼女を探し始めて十分くらいであろうか。彼女は真ん中のテーブルの前に女友達としゃべりながらたっていた。心臓の鼓動が高鳴る。相変わらずその容姿は、美しく華麗で、そして可愛かった。成人式とは違い、紅いドレスに身をまとっている。薄化粧なのも俺の中でポイントが高い。よし、話しかけるぞ。俺は覚悟を決めた。
「うっす、久しぶり・・・・でもないか、昼間会ったな」
「あ、はい・・・・」
「飲み過ぎるなよ。」
「そっちも気をつけてくださいね!」
会話終了。気まずく感じていたのは俺だけであろうか。というより、女子としゃべるのが久々過ぎて何を話せば良いのか本当にわからない。ここは一時撤退が吉であろう。俺はその場を後にし、その後、彼女の様子を見られる十メートル付近で彼女を観察した。いつまで見ていても飽きない。彼女を見ている俺に、一人の男が話しかけてきた。
「お、久しぶりじゃん。ファンクラブ団長。」
「すまない。今忙しいのだ。つか、あんた誰?」
「俺だよ俺!寺田充三年の時一緒のクラスだったじゃん」
「ああ。思い出したわ。」
正直こいつとの思い出はあまり無いが、こいつも中学時代に琴音に告白してふられているという噂を聞いている。こいつは、たしか顔も良く、スタイルもいいが性格に難ありだったような。
「で、琴音ちゃんとは話せたのか。」
「いや、なんか気まずくて。」
「相手も緊張していたのだろう?なんせフィアンセに5年ブリに会ったのだからな。」
「おまえもそう思うのか。良いやつだな寺田。」
寺田はまあなと笑いながら言い、そしてつづける。
「俺も琴音ちゃんとしゃべってくるわ。彼女可愛いし。」
ふん。どうせ軽くあしらわれるだけさ。
俺の希望は届かず、なんと寺田は琴音ちゃんと楽しそうに話した。俺と彼女の会話であった気まずさなど微塵も感じなかった。そして彼は彼女の腰に手をまわし、歩き始めた。どうやらお酒を取りに行くようだ。圧倒的なコミュ力の違いを見せつけられ、呆然と立ち尽くす俺に、一瞬寺田が振り返り、勝利の笑みを浮かべた。なんだあいつ、悪いやつじゃないか。トイレにでも行くか。この場にはもういたくない。
己の無力さを自覚した俺はすでに帰りたかった。こんなみじめな自分は嫌だ。非常にやりきれない気持ちのままトイレに行くと、二人の男が個室にいた。一人は見慣れた男た。
「おい、なにをしている石沢。」
俺が話しかけると、もう一人の男が代わりに答えた。こいつはたしか、今回のパーティを提案した、いわば幹事の男である。
「お、岡崎か。石沢やべーんだよ。あの不良グループたちにたくさん飲まされたらしくてな。あんま会場の人に迷惑はかけたくないのだが。」
「なるほど、だからそうやって便器に寄りかかっているのか。情けない男だ。」
「・・・・帰りたい。」
石沢が苦しそうに答える。
「すまねえ。岡崎。石沢どうにかしてくれない?お前の連れだろ?」
なるほど。確かにここにいても情けない姿を皆に見られるだけだろうな。
「わかった。俺らタクシーでもう帰るわ。俺も訳ありで帰りたいし。」
そうして俺たち二人は会場を後にした。