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汽笛の響き


夜汽車にて

満天の星

眺めてや


微かに届く

汽笛の響き…




フ、ファオゥ



太い汽笛の音がした

男は目を開けると

赤いビロードの座席に座っていた

その布の感触を なぞるように確かめる


「どうだった」


いつの間にか真向かいに

少年が座っていた

こちらをみて 微笑んでいる

男は ゆっくりと頷いた


「楽しかったよ」


夢破れ帰郷し

気持ちに蓋をして

家庭を持ち

またそれに 気付かされ


「何か 言ったのかい?」


ある時 妻は

考えがあるの と

働き口を探してきた

これからは 私が働く と


「さあね でも」


少年は

ぎゅうと胸に手を当て

炯炯としたまなこ

こちらに向けた


「女を泣かせるものじゃない」


男は少年を見て

じっと見て

ゆっくりと

こうべを垂れた


「すまなかった」


少年はさらにぎゅうと

胸を握ったが

やがて

また元の姿勢に 戻った


「彼は 間に合ったかい?」


男は慈しんだように

微笑んで 頷いた

そして片眉を上げて

からかうように言った


「何か言ったろ」


少年は同じ様に

片眉を上げて

ふむ と

腕を組む


「さてね でも」


少年は男と同じ様に

慈しむ顔をして

ゆっくりと

微笑んだ


「男もまあ 泣く時もある」


男も同じく微笑んで

やがて

ふふ はは と

笑い合う


「じゃあ…そろそろ」


少年は俯いて

そろそろ、と また言って笑うと

ゆっくりと

顔を上げて


「お別れだね」


寂しさは見せずに言った

男もゆっくりと頷いて

席を立つ

そして 少年の前に立つ


「君も」


男は微笑んで言った

少年は戸惑うように

男を見上げた

瞳が揺れている


「いや…僕は」


男は黙って手を出した

少年は無理だというように

赤いビロードの背もたれに

背中を貼り付けた


「大丈夫」


男は破顔した

何も心配はいらない

君は何度も

言ったじゃないか


「あなたの…」

「あなたの…」

「おもむくままに」


声と共に

手は繋がれ

やがて

溶けていく


「おもむくままに」


金色の

砂塵となって

粉塵となって

光となって


「一緒に行こう」


差し出した手を

大事そうに握ると

男はゆっくりと 歩き出した

光となった 少年と共に



フォウゥ





夜汽車にて

満天の星

眺めてや


微かに届く

汽笛の響き





お読みくださり、ありがとうございました。

このお話を作るにあたって下の句を預からせて頂いた悠蓉さまに改めて感謝を。


このお話を、Generalmajor der NVAさまと悠蓉さまに捧げます。

貴重な機会を頂き、ありがとうございました。

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