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微かに届く


夜汽車にて

満天の星

眺めてや


微かに届く

汽笛の響き…




カタンカタンと鳴った車窓の窓を

見るともなしに眺めている

外は雨 水滴が横に流れて

つつ つつ と動いて行くのを

ぼんやりと追っている


父が危篤だと連絡が入ったのは

夕刻を過ぎた頃だった

母からの電話を上司が受けたのが幸いして

次の日に帰郷する事を許された


電車が長いトンネルに入ると

車内は途端に夜のような気配になった

車窓に映るは 少しだけくたびれた顔

風圧で飛ばされ つつ と動く水滴が

ビュウと、消えて無くなった



フ、ファオゥ



聞こえる筈のない 汽笛が鳴った



****



「やあ いらっしゃい」


いつの間にか 車内が変わっていた

座席は青から赤に

それに床も壁も 木だ

男はきょろきょろと周りを見渡した


「やあ いらっしゃい」


話かけられて

少年が居たことに気付く

どこかで見た事のある顔

どこかで…


「それで 今日は?」


ああ、父が、と言おうすると

少年は頷いた

まるで分かっていると

言わんばかりに


「会いに行くんだね」


もうすぐ居なくなってしまう父に

何を言えばいいのか

何を伝えれば

何を…


「会えればそれで いいんだよ」


幼い頃 よく遊んでくれた

物心ついてからは 星を一緒に見に行った

いつからか母が働き

父は家にいるようになり そして…


「尊敬 していたんだね」


窓際の文机に

座るようになったのは

いつの日からか

もう覚えがない


「心配しなくてもいい」


時に憎み

時に憧れ

そして父の背中が

羨ましかった


「君の想いは…」



フォウゥ



****



カタンカタンと車窓が鳴った

いつの間にか席の色は青に変わり

トンネルを抜け また

つつ つつ と雨の雫が 横に連なった


唇が震えるのを 窓際に肘をかけ

外を見る振りをして

誤魔化さなくてはと思った


窓の雫が ぼやけて追えない

まだ何も言っていない

父に何も…

少年の言葉が胸に迫る



君の想いは…

君の想いは 届いているよ



まだ 間に合うだろうか

父は 居てくれるだろうか

まだここに

触れる場所に





夜汽車にて

満天の星

眺めてや


微かに届く

汽笛の響き





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