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夜汽車にて


夜汽車にて

満天の星

眺めてや…




フ、ファオゥ


太く短い汽笛の音がした

車内は静まり返っていた

皆、もう寝台車に戻り、就寝している


少し固い車内の椅子の

赤いビロードの肌触りが好きで

青年は気がつくとここに戻ってきてしまう


夜の窓辺は外気が入り込み

少しだけ寒い

車窓からの景色は暗闇

満天の星なんて

見えやしない


肘をついて、見るともなしに見る窓は

頬が歪んだ苦しげな顔を写すのみ

静まりかえった車内の

白熱灯がまたたいた



****



「どこへ行くの」


気がつけば目の前に少年が座っている

いつ、相席を願われたのか

いつ、この少年は座っていたのか

何故か記憶がない


「どこへ行くの」


華奢な少年が再び聞いた

まだ声変わりもしていないが

若干低くなり出している、独特の声

何故か、応えたくなった


「家へ帰るんだよ」


東京駅を去る虚しさを思い出し

苦味のある舌の根で言った

夢破れ故郷に帰る

どこにでもある 男の話


「帰りたくないの?」


男の顔をじっと見て、少年が言った

何かを感じ取ったのか

それともはっきりと出ているのか

男は苦笑して言った


「どうかな」


どうか、と言いながら

答えなど決まっていた

この胸にくすぶるのは

途方も無い焦燥


「また戻るの?」


ああ、と言える物が有れば

もちろん、と言える才能が有れば

すぐに戻るさ、と言える強さが有れば…

唇が震える


「いや……いずれ……いや……」


少年は黙ってじっと座っている

炯炯けいけいとした目が男には眩しい

瞳ばかりが大きい顔の口が

小さく開いた


「あなたの…」



フォウゥ



****



ガタガタガタガタと 車輪の音がする

気が付けばまた

白熱灯のランプが揺れる車内だった


先ほどまで座っていた少年は居ない

目の前には

赤いビロードの空座席


あの少年はどこから来たのか

どこへ 消えたのか

瞬いた青年の

胸にのみ残る言葉を刻んで



あなたの…

あなたのおもむくままに



青年はまた肘をつき

窓辺に顔を寄せた

車窓に映る顔は見えぬ

夜汽車は低い汽笛を立て 走っていった





夜汽車にて

満天の星

眺めてや


微かに届く

汽笛の響き





今回企画されたGeneralmajor der NVAさまの別企画、「なろうで歌仙を巻いて見た」でご一緒させて頂いた悠蓉さまの句をお借りしまして、この物語が出来ました。

上の句を私が詠み、下の句を悠蓉さまがつけて詠んで下さいました。

この場を借りてお礼申し上げます。

悠蓉さま、ありがとうございました。


素敵な企画を立てて下さったGeneralmajor der NVAさま、

ありがとうございました。

とても、楽しかったです。

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