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流れ星は。火の兄妹編  作者: ポンカン
3/3

後編



 

 生きる理由は2つあった。

 そして1つは失い、残った理由は妹の為。

 妹と一緒に世界を見て見たい。


 ただ、それだけだった。


 なのになぜ、目の前の妹が血塗れなのだろうか。

 どうして、と言うよりも先に妹が言う。


 全てはお前が悪いのだと。

 お前さえ殺せばあとは私だけだと。


 兄には理解が出来なかった。

 長く、長い旅の果てに何もかもを失いかけ、そしてようやく帰って来れたというのに、何故。


 なぜ妹は血に塗れ、泣いているのだろう。


 妹は語る。

 全てはお前が家を出たあの日から、いやこの私達の流れている血は穢れていると。

 兄と妹は母の胎から産まれたわけではない。ましてや、屋敷の人間からでもない。

 人工的に作られた、人造人間。それも、火に属する「竜」の血と幾つもの人間の血を掛け合わせ作られた存在だという。

 目的はただ一つ。この星を蘇らせた「希竜」を人の手で作り出す事。

 奇跡の力を手中に収める為、禁忌の領域に足を踏み入れた。

 そして、長い年月と長い血筋の末、人は人の手で人工的な「竜」。つまり「人竜」を生み出すことに成功した。

 紅蓮に輝く瞳こそ、成功した「人竜」の証。

 だが、成功したのも束の間。「人竜」は人から生み出された故に、人を憎んだ。

 自らを生み出した人を殺し、喰らい、そして自らの命を終わらせた。

 

 それで本当に終わりかと思われた。

 しかし、生き残りが居た。「人竜」に食い殺された末裔が。

 その生き残りは「人竜」はまだ成功してはいないのだ、完璧な「人竜」こそ人に近い形をしなければならない。


 そうして、禁忌の道を歩み続けた人の血族が居た。

 それが、今の兄妹の一族である。


 「竜」に選ばれた人を攫い、生まれた「竜」を生きたまま喰らい、より濃く「竜」の血を受け継がらせその血を人の血に掛け合わせ、奇跡の様に誕生したのが、兄である。

 造られたのは完璧な「人竜」の兄だけだった...。だが、兄の手を握る小さな赤子も産まれていた。

 それが、妹である。


 予定にはなかった妹の存在に喜んだが、「火の希竜」の証である赤い系統を何一つ持って生まれなかったことから、失敗作としての烙印が押された。

 妹は直ぐに処分されるはずだった。けれど、兄は妹の手を離さなかった。引き離そうとしても、決してはその手を離さなかったという。


 そんな兄に折れた人たちが、妹も育てることにしたという。

 だが、それは良心からではない。

 あくまで、兄のスペアとしてだ。兄に何かあれば、妹はもう人には戻れない。

 有効活用できる実験体として、妹は生かされた。


 人の世から隔離された屋敷は、実験には打って付けだった。

 だから、兄が「火の希竜」と旅に出たあの日、妹は地獄に落ちた。


 屋敷の地下で四肢を鎖に繋がれ、生きた「竜」の血肉を喰わされる。拒絶しても無理矢理顎を開かれ、脈を打つ肉を喉に通される。そして吐いてしまわぬように口を布で塞がれ、暫くするとまた再開させる。

 そんな非人道的行為を数え切れぬ程繰り返し、妹は人としての意識を失い始め徐々に「人竜」と化していった。


 意識が憎しみに囚われる妹を支えていたのは、やはり兄の言葉だった。

 迎えに来る。何があっても帰って来ると。

 その言葉が妹の最後の綱となり、辛うじて人としての部分を繋げていた。


 身体は殆ど「竜」と同じようになりながらも、最後の最後まで兄を待ち続けた。


 そんな妹の人を終わらせたのは、両親だった。

 明かりもない地下に、父と母がやって来て、妹に言った。


 もしも兄が帰って来たとしても、お前は外には行けない。

 お前は失敗作なのだから、と。


 鎖に繋がれ、意識が朦朧としている妹には、鉄格子の前で誰かが何かを言っているとしか分からなかった。

 ただ、失敗作という言葉が何よりも強く聞こえた程度。それが、妹の人としての部分を終わらせた。


 失敗作だから誰にも愛されなかった。

 失敗作だから、兄の様に強くなれなかった。

 失敗作だから外にも行けない。

 ...失敗作には未来なんてない。


 脳内に響くのは兄の声。

 いつも自分よりも優れ、愛され、求められた。

 悔しくて苦しくて、何よりも憎かった。

 けれど、そんな兄は自分を何よりも大切にしてくれた。


 でも、兄は傑作で妹は失敗作。

 だから兄は妹を大切にしたのか。

 失敗作である妹を大切にして、自分が優秀である事に優越していた。

 

 人の意識が「竜」に飲み込まれれる最後だった。

 もう妹には憎しみと化した。


 「人竜」を生みだした人を殺し、血を終わらせる。

 たとえそれが、兄妹だとしても。


 妹は鎖を引き千切り、両親であったであろう人を尾で叩き殺した。

 肉が壁に当たり、潰れる音がした。

 尾に付いた血を汚いものを払うかのように払い、地上へと続く階段を上る。

 地上に出ると、懐かしい日の光が妹を照らした。けれどそれは、地下に繋がれていた妹にとって暖かい太陽の光ではなく、身を焦がす痛みを伴った。


 「竜」の鱗が焦げていく感覚が妹を支配する。

 だが、妹はお構いなしに屋敷の人間を殺し続ける。誰一人逃がさず、生かさず。

 女も男も関係ない。殆ど「人竜」と化している妹にとって人は同じに見えるからだ。

 悲鳴を上げるだけの女も、屋敷の外へ逃げようとする男も、皆同じ。だって殺してしまうから。

 丁寧に丁寧に1人ずつ殺していった。

 これ以上、穢れた血を残さない為にも。

 未来にこんな穢れた血は要らないと。妹は無慈悲に殺していった。


 最後の最後には、生まれ育った屋敷を蒼い炎で燃やして終わり。 


 でもまだ残っている。

 自分と、自分を必ず迎えに来てくれると言った兄。

 何よりも優れ、誰よりも赤い瞳を持ち、自分よりも早く世界に旅立った憎い兄。

 兄を殺したら自分も死ぬ。

 それで良い。それでこんな穢れた血は終わる。

 

 人でも、ましてや「竜」でもない紛い物の「人竜」。

 失敗作の自分にはお似合いである。


 「人竜」の妹には分かる。

 もうすぐ兄が帰ってくることを。 

 そして、兄は紛い物の「人竜」ではなく、あれこそ兄妹の血筋が目指した到達点。人が生み出す「竜」では無く、「竜」が望んで人と1つになる。

 「竜人」であると。


 だが妹はもう人ではない「人竜」となっている。

 兄が何であろうと、憎み、そして終わらせるために行動する。


 完全なる「竜人」と紛い物の「人竜」とでは、力量の差は激しい。

 だが、妹はどんな手を使ってでも兄を殺そうとするだろう。


 どんな...最後になろうとも、兄と妹は―――――――




 のちに判明するのだが、兄の名はツナギ。妹の名はツムギ。

 永遠たる「火の希竜」の心臓を持つ妹と燃え盛る「竜」の炉を持つ兄。


 星を終わらせる、紅蓮の兄妹の一片。







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