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流れ星は。火の兄妹編  作者: ポンカン
2/3

中編




 「希竜」はお互いに惹かれ合う。それが無意識だとしても。

 それは、元が一つの「竜」だったのからかもしれない。

 人を下等と見下している「風の希竜」。言葉や力を使う機能を失った「水の希竜」。孵化しても目覚める事の無い「地の希竜」。

 


 「火の希竜」。

 それは兄と共に「最果て」へと赴いた4匹の「希竜」の内の1匹。

 「希竜」の念願である「最果て」へと辿り着いた最初の1匹。

 けれど、生きては帰らなかった。


 「最果て」には「希竜」を超える化け物が居た。

 侵入者を逃がさず、生かさず、迅速に殺す化け物が。

 兄は見ただけで分かってしまった。この化け物は人が叶う相手ではないことに。

 一瞬の静止が命取りとなり、兄は危機に瀕した。それは「火の希竜」も同じこと。あれだけ攻撃したというのに、眼前の化け物は傷一つどころか無傷に等しい。

 その眼で「希竜」を石化させ、その顎は「希竜」の手足をかみ砕き、その尾は「希竜」の翼を貫き通し、その手足で「希竜」の心を抉り出す。


 「最果て」へと赴いた者が返ってこなかったというのは本当だった。

 死の海を越え、吹き出す星の赤き血を避け、進む事すら叶わぬ暴風に負けず、足の踏み場もなく崩壊し続ける大地を抜けたら、皆帰って来れないと人々は口にする。事実、どんな人も「竜」も帰っては来なかったのだから。


 それもそうだと兄は確信する。

 目の前の敵対者は「竜」を完膚なきまでに殺す化け物だと。

 「竜」を殺し、「最果て」を護る最悪の番兵が居たとは知らなかった。


 敵わないのなら其れで良い。生きてさえいれば負けても良い。

 だが、目の前の化け物は違う。

 侵入者を生きて帰すどころか、喰らう気である。先ほどの攻撃で左の腕を根元まで持って行った。

 今まさに咀嚼している最中だ。


 幸いな事に、「火の希竜」の火で傷を焼いてもらったおかげでまだ立てる。

 この際生きて帰れば妹を連れ出せる。両親なんて知った事か。大事なのは妹だけだ。血を分けた、たった1人の妹。

 成らばこそ、こんな絶望的なところで死ぬわけにはいかない。

 妹が帰りを待っているのだから。


 そんな生きて帰ることに全てを賭ける兄を見て、「火の希竜」は瞳を閉じる。

 「希竜」と言えど、心を抉られた時点で死んでいると同じ事。成らばこそ。

 成らばこそ、生きて欲しいと思う友に悲劇を招くことに瞳を閉じずにはいられなかった。


 兄が妹を大切に思うのと似たような感情を「火の希竜」も妹に対して持っていた。

 気づくのにはさほど時間はかからなかった。

 そして哀れんだ。なんと悲しき娘なのだろう。何と罪深きことなのだろう。なんと、愛おしいことなのだろう、と。

 だからこそ「火の希竜」は妹に寄り添った。

 「希竜」は惹かれ合うのだと...。



 「火の希竜」は兄に向かい何かを呟いた。 

 するとその瞬間、「火の希竜」は光の粒子と化し兄に吸い込まれるように同調した。

 兄は一瞬の出来事に追いつけなかった。

 「火の希竜」は何をした。どうして、消えた。


 引きちぎられた左腕が、どうして再生しているのか。


 思考が追いついた時、兄は挫折した。

 「水の希竜」の人に聞いたからだ。

 何代か前の「水の希竜」は、光となって消えた、と。

 その時は分からなかった。けれど、今ならわかる。


 「希竜」は人に自らの全てを捧げたのだ。

 捧げられた兄には分かる。身体の全てが再構築されて行くことに。人としてではなく化け物に成ろうとしている事に。

 紅蓮の瞳は赤みを増し、髪の色が真紅に染まる。

 身体の全てが炎に焼かれる痛みで悶え苦しむ。


 そんな兄を喰らおうと、顎が迫る。

 激痛で視界が霞む。こんな危機だからこそ兄は妹を思い出す。



 約束を果たせない、と。



 後悔が押し寄せ、視界が黒くなる。

 妹に会いたい。そう思いながら。

 






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