俺の家
「これがあなたの家ですか」
ぼろい見た目のアパートを前にしても落ち込むどころか、嬉しそうにしている。
茜と樹も一緒に来てくれている。理由はこれだけ知って最後まで見届けないとかありえないでしょ、だそうだ。そんな彼らと、招待した美鈴とその母親を家の中に招待した。
「あら、部屋は綺麗にしているのですね。男の子の部屋は散らかってるイメージだったから、感心するわねー」彼女先ほどまでの落ち込んでいるような雰囲気は一切なくなっていた。
美鈴が見つかって安心したのだろう。彼女は母親のような雰囲気を纏っている。なんというか包容力があるというか。なるほど、こうしてみると頼れる母親だ。
「じゃ、中で待ってて。この二人を送ってくるよ」
そう彼女たちに告げて、玄関で待っていた彼女たちに外へ出るように促した。
「よかったな。美鈴ちゃん」
少し歩いたところで、樹が唐突にそう言った。
「そうね。唯斗に変な噂を聞いた時は怖かったけど、本当によかったわ」
茜も嬉しそうに笑ってくれていた。
しばらく歩いて、樹の家が近づいてくると、彼は茜をしっかり送ってやれと言って、帰っていった。
「あんたって、私が思っていたよりもしっかりしてるのね」
俺はそれにそうか、と返すだけ。
「そうよ。なんだかんだ言って、美鈴ちゃんの面倒ちゃんと見てたし」
「いや、それは茜と樹がいてくれたからだ。俺一人では美鈴を一人で留守番させなくちゃいけなかったし、それに学校にいる時だって、俺一人じゃ無理だった」
彼女は俺の言葉に満足そうに微笑んだ。
「じゃ、また明日ね。ちゃんと学校、来るように。遅刻とかだめだからね」
「わかってるよ。じゃな」
茜を送って、美鈴たちが待つ自分の家に戻った。
家の扉を開けると、いい匂いがした。腹を刺激するような香りだ。
「唯斗さん、お帰りなさい。安心したらお腹が空いてしまって、台所をお借りしています」
名前は教えていないはずだが、と思ったが、美鈴が言ったのだろう。
「それは構わない」
「もちろん、唯斗さんの分も作ってありますよ」
「あ、ああ。ありがとうございます」先ほどよりも元気になった彼女の笑顔に思わず、敬語になってしまった。
「ふふ、敬語なんて使わないでください」変わらない笑顔でそう言ってくれた。こっちが彼女の本来の顔なのだろう。敬語を使っていなかった自分が恥ずかしい。
「それに、私たちの家は近所になりますから」
「そうですか。……家が近所になる?」あまりにさらっというものだから、流されそうになった。
「ええ。美鈴がおにいちゃんと離れたくないと言ったので、そうしました。それにここなら、唯斗さんが守ってくれるでしょう?」
そう言われて経緯も知っているのに、守れませんとは言えない。経緯を知っていなくても男のプライドで守るだろう。
「だから、敬語とかそういうのはいらないですよ。母親に接するようにしてくださいね」
俺には彼女たちが決めたことに意見をする立場ではない。彼女たちがそう決めたのなら、そうするべきなんだろう。
「母親、か」
俺は少しの間、考えていた。彼女はきっと厚意で言ってくれている。一人暮らしと言ってしまったわけだし。
「あの、いいんでしょうか。そこまで甘えてしまって」
できた料理をテーブルの上に置きながら、彼女は俺を見て言った。
「もちろんです」
そのとき、俺の腹がなった。
テーブルに彼女が作った料理が並んでいく。それはとてもおいしそうで、俺が作るものとは違った。近くで遊んでいた美鈴は並んだ料理を真っ先に口に運んだ。
「美鈴、いただきますを忘れてますよ」
「あ、いただきます!」
少女の元気な挨拶。
二人とも幸せそうで何よりだ。本当に良かったと思う。
「唯斗さんもどうぞ」幸せそうな笑顔のままで俺に料理を進めてくれた。
その顔をされて断れる人はひねくれものか照れているだけだろう。俺はどちらでもないので、素直にうなずいて、並べられている料理に手を付けた。人に作ってもらった料理は久しぶりだ。とてもおいしい。
「おにいちゃん、いただきますしてなーい」
「ふふ、そうですね」
二人は笑顔のままそう言った。俺もその笑顔につられて、笑顔でいただきますと言った。
次回、最終話です。
ぜひ、見てください!




