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少女のお世話  作者: リクルート
15/17

解決……?

公園に近づいていくに何かの予感が膨れ上がる。多分、あんな噂を聞いたからに違いない。


目的地にはすでに、ダンボールはなかった。その代わりなのか、公園のベンチには女性が頭を抱えて、座っている。その女性は絶望したというような雰囲気を放っていた。それは意図的ではなく、溢れ出していると言えるだろう。俺はその女性に近づくことを後ろにいた彼女たちに目配せして、動き出した。美鈴は茜と樹の手を握って、二人の顔を交互に見上げていた。


「大丈夫か、あんた」

美鈴の親の手がかりになるかもわからないが、怖いながらも話しかける。目の前の彼女は、ゆっくりと動いた。彼女の顔はげっそりとしていた。その顔には涙の跡があった。

「どうしたんだ。こんなところで」

ぶっきらぼうな言い方しか出来ない。彼女はそれをどう思ったのだろう。返事はすぐには来なかった。彼女は何かを考えていたのかもしれない。俺の言い方に怒っているのかもしれない。

「私には、誰かに気遣ってもらう資格なんて、ないんです」唐突に、かろうじて聞き取れる大きさの声が耳に入った。

それは彼女の声だった。今にも泣きそうな、声。

彼女は美鈴の手がかりになるのだろうか。ふと、そう思った。彼女はこんな時間にこんなところで何を思っているのだろう。

それより、ここまで落ち込まれているのに、放ってはおけない。別に、正義のためではない。ただの勘でしかないが、ここであったのは何か重要なことのような気がするのだ。

「何か、あったのか」

話しかけるのはなんでもよかったのかもしれない。

「私は、私は。とんでもないことをしてしまいました」

 彼女は光もない、暗闇で独白を始めた。


 私には夫がいました。それから、ことあるごとに喧嘩しました。それは本当に幾度となく。あるとき、夫は離婚をしようと言いました。私は仕方のない事、あるいは必然。そう思って、簡単に同意しました。しかし、ある問題があった。私たちが長い間離婚しなかった理由とも言えます。それは、子供の事です。しかし、夫は俺には一人で子育てなんてできないと言って、私に子供を託してくれました。それからは喧嘩なんて一切ない生活が続いていました。それは幸せというのかもしれません。でも、そんなの長くは続かなかったのです。元夫が二日前に家にいきなり来て、部屋で遊んでいた子供を連れ去ったのです。娘は私に助けを求めたんですが、私はあまりに急なことで、反応なんてできなかった。助けを求める娘を助けられなかったんです。それから、私はこの丸二日間、仕事なんて休んで探し続けているんです。


 俺は噂よりも残酷な真実を知ってしまった。声が出ない。呼吸をしても空気が入ってこないような感覚。

 それを壊したのは、幼い声だ。

「おにいちゃん。どうしたの」

 俺はその声に振り向いた。そこには、茜と樹がいた。いつからそこにいたのか。話に聞き入っていて、全く気が付かなかった。

「その声……美鈴なの……」彼女は急に顔を上げた。

 少女の顔もその方向に向いた。

「おかあ……さん?」少女は困惑したような、驚いたような声を出した。

「や、やっぱり美鈴、なのね。よかった、よかった……!」

 彼女は美鈴を強く抱きしめていた。

「おかあ、さっ……!」少女は大きな声で泣き出してしまった。

 しかし、それはうるさいとは全く思わない。多分、安堵感とか、色々二人の中にはあるのだろう。俺には計り知れないほどに。その光景を見ながら、俺はほっとしていた。噂は噂でしかなかった。

 しばらくそうしていたが、ようやく落ち着いた。それから、俺たちを見た。

「あなたたちがお世話してくれたのですね。ありがとう。いくら感謝しても足りません」

「いや、その」俺には大げさに聞こえて、返事ができなかった。

「明日また、ここに来てください。お礼をしたいから」

 俺は流されるまま、頷いた。

「もう遅いし帰りましょう。あなたたちの親も心配しますよ」

 このまま帰してしまっていいのだろうか。何か、嫌だ。そこに理由も勘もない。ただ俺自身が嫌だと思っただけ。だから、一言だけ、言うことにした。

「あ、なぁ、うちに泊まっていかないか。家、近くじゃないんだろ」

 彼女は一瞬驚いた顔をして、すぐに笑顔になった。

「ご迷惑でしょう。ご家族だって、変だって思いますよ」

「俺は一人暮らしでなんだ。迷惑なんてない」そうは言ったが、彼女はいい顔をしない。

 だから、俺は最後の言葉を紡ぐ。自らの本心を。


 「俺は寂しいんだ。今まで一人で暮らしていたけど、そこに美鈴が来て、たった二日だったけど、楽しかった。茜も樹も来て、四人で遊んで、それが楽しかったんだ。今まで家族が近くにいたから、寂しくなかったってそう思った。美鈴がいつまでもいてくれたら、嬉しいって。多分、これが幸せっていうんだって。そう思ったんだ」


 俺の手には気づかないうちに力が入っていた。

「そうですか。あなたの気持ち、わかりました。あなたについて行きましょう」

 そう言って、今日は俺の家に来てくれることになった。

あと少しで終わります。かなり期間が空きましたが、どうぞ最後までお付き合いください!

続く!

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