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少女のお世話  作者: リクルート
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バイト先の噂

ホームルームが終わって放課後。俺たち三人は掃除当番ではないので、さっさと帰ることにした。玄関で靴を履き替えて、学校を出る。バイトがあると言って樹は急いで去っていった。それを女子二人は手を振って別れを告げていた。俺も軽く手を挙げる。

「あんたは一旦、家に帰るの」

「そうだな。帰ることにする」

学校からバイト先までは直行すると自分の家は通り道にはないのだが、少し道を逸れるだけなので、問題はないだろう。


帰り道では茜と美鈴が話しているのを聞いていた。なんとも盛り上がっているようで、少女も楽しそうだ。俺はそれを聞いているだけで、嬉しくなっていた。

アパートについて、自分の部屋の鍵を開けた。そこに二人を招く。後から入り、時計をみると思ったより、時間が経っていて、俺はすぐにバイトに行かなければいけない時間だった。

「茜、あとは頼むな」

「うん。安心して行ってきなさい」

「ああ、行ってきます」

美鈴も彼女の後から、いってらっしゃいと手を振っていた。


玄関のドアを閉めて、ふと気づいた。それはいってらっしゃいという言葉が、案外嬉しいものだったということだ。高校に入ってからは、一人暮らしをしていたので、俺を見送ってくれる人はいなかった。そのせいか、俺は今、暖かなものが心の中にあった。彼女にとっては当たり前のことだったのかもしれないが、俺の足取りは軽くなっていた。


バイト先はコンビニだ。俺の通う学校とは離れているが、駅や学校、会社が近くにあるので、お客さんは多い。休憩所を回って、赤色の縦ラインが入っている制服に着替えた。その場所から出ると、そこには休憩中の先輩方がいた。

「お疲れ様です」

彼らから、おおとか、ようとかの返事が返ってくる。その返事を聞いて、俺は店に出た。

お客さんはこの日は少なかった。時間的にはすぐに混み始めるとは思うが。俺はそれを考えて、品出しや掃除をした。それが終わっても、店の中にいる人は少ない。仕方ないので俺はレジに入っていた。後ろでは扉の向こうで談笑している声が聞こえていた。

「なぁ、お前ら。こんな噂知ってっか」

「ん? どんなの」

「それがな......」

その噂はよくありそうなものだった。ある夫婦が喧嘩をしてしまい、それを聞いていた子どもが嫌になって、家を出て行った。それきり探しに出た両親はその子を見つけることができなかったという。その子はもう死んでいるとも、生きているともわからない。もし死んでいるなら、親を探して彷徨っているのかもしれない。そいういものだった。


それは本当にありきたりな噂だった。だが、何か気にかかるのもでもあった。なぜなら、その子どもの姿は、長い髪に白いワンピースだったから。そに設定もよくあるのだろう。長い髪、白のワンピース。どちらも幽霊を連想させるようなものだ。そう思っても俺の動悸は治らない。そんな状態ではあったが、俺は最後までバイトをした。


制服から学生服に戻り、帰り道。動悸は治ったが、胸騒ぎはあった。今日聞いた噂を反芻する。考えれば考えるほど、最初に会った時の格好が噂と同じところが引っかかる。俺は一人では、ぐるぐると考え込むだけだと思い、俺は家に着いたら、茜には話しておこうと思った。樹も呼びたいが、バイト中であったなら、やめよう。


家に着く前に樹に電話をかけた。彼に話があるとだけ言うと、わかったと返ってきた。

家の扉を開けて、茜を呼んだ。美鈴は一度、こっちを見て、嬉しそうにおかえりと言ってくれたが、テレビが面白かったのか、またそっちに興味を移していた。


「な、何。どうしたの。そんな真剣な顔して」

「今話すから。樹が来るまで待ってくれ」

そう言いながら道路を見ると、彼がこっちに走ってきていた。急用ではあるのだが、そんなに走ってきてくれるとは。

「は、話って、なんだ」

「まずは息を整えろよ。落ち着いてから話す」


彼が落ち着き始めたので俺は今日聞いたバイト先の噂のことを話した。

その中で美鈴は本当は妹ではないことと少女は段ボールの中にいたことを伝えた。二人は驚いていたのは言うまでもないかもしれない。

「なぁ、これはあくまで噂なんだ。これが真実かはわからない。本当だと思うか」

俺の不安を拭うため、二人には嘘だろ、とそう言って欲しい。いつもみたいに茶化すように、ふざけたように。質問には答えず、二人とも黙っていた。それは肯定なのか、否定なのか、わからない。

美鈴は幽霊ではない、と思う。食事はしてるし、トイレだっていく。それに肌は暖かい。イメージでしかないが、幽霊というのは冷たそうだ。少女が死んでいるはずがない。


沈黙を破ったのは、茜だった。

「ねぇ、二人とも。美鈴ちゃんを最初に見つけた場所に行きましょう」

「どうしてだ」

「何か、歩きがするのよ」

彼女の目は確信があるような顔をしていた。

「わかった。美鈴を家に一人にはしておけない。連れて行こう」

一人、テレビを眺めていた少女を連れて、最初に少女と出会ったあの公園に向かった。テレビを見つめていた少女の背中はなぜか、寂しさを感じさせた。

後少しで終わります。起承転結の結に入ります。


後ちょっと、続く

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