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少女のお世話  作者: リクルート
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授業 弐ー体育ー後編

体育 後編

「たかだか体育のバレーなんだけどよ、勝って美鈴にいいとこ見せたいんだ。力、貸してくれねぇか」

 全員がきょとんとした顔をしていた。そして、その中の一人が声を出して笑った。

河原(かわはら)ってシスコンかよ。まぁ、でもその心意気には乗った!」

「面白いな。久しぶりに本気ってやつを見せますか」

 チームの奴がそれぞれ冗談などを言って、しかし、賛同の声を上げてくれる。

 点数は相手に入ったので相手側のサーブから。ネットを大きく超えて、こちら側のコートに入ってくる。それを俺がトスしてネットの前まで送る。そこから三春(みはる)はスパイクを打った。それはスパイクとは呼べないような切れのあるボールではなかったが、相手のちょうど間で相手はどちらがとるか、相手に譲って相手のコートに落ちた。その一点だけで俺たちはハイタッチを交わした。

 点を取ったのは俺たちなので、こちらかのサーブだ。さらに、サーブ権を持ったチームは選手の配置を変え、右回りしなくてはいけない。必然、俺は左後ろだったところから、左の前へ。他のメンバーも一つずつずれる。それから試合再開。それからこちらからのサーブ。打つのは左後ろの奴と決まっているので、先ほど右前だった浅川(あさかわ)になる。そいつは大きくネットを超えて、相手のコートに相手のコートに入る。相手はそれを綺麗に繋げて、こちらにスパイクを打ってくる。それは真ん中後ろの広野(こうの)を狙ったような軌道を取っている。そいつはその痛そうなスパイクを上に高くはじいた。それを浅川が平田に向かってトスする。彼はそのボールを相手のネットぎりぎりに落とした。相手はそれに反応できずに相手のコートにボールが落ちる。その後、スパイクが決まったり、決められたり、ブロックを決めたり、決められたりしながら試合は進む。気づけば得点は十四対十四。デュースはないので、どちらかが決めればそこで試合終了だ。

「あと少しよ! 頑張りなさい!」

「がんばれー! おにいちゃんたちー!」美鈴たちの応援に熱が入っている。

 彼女たちだけではない。いつもなら他の班の試合なんぞ見ていない連中も声を出して応援している。どちらのチームも応援されているのだ。授業とは思えない熱。教師も感心しているような顔をしている。

「ほら、最後だ。勝ってやろうじゃないか」その言葉に俺たちは頷いた。

 相手側のサーブ。俺たちの場所は一、二周回って俺が前の真ん中になっていた。相手のサーブがネットを超えて、こちらのコートに入ってくる。それを俺の後ろの浅川がトスをして、さらに広野が前にトスをする。それを小野が相手コートにトスする。相手がブロックしてきたので、スパイクは打てなかった。相手はすかさずチャンスだと思ってスパイクの体制に入った。トスが二回されてバレー部のスパイクが放たれた。それは左の後ろを狙っていた。そこにいるのは三春だ。そいつはなんとか上にボールを跳ね上げた。それを平田がトスでさらに上へ。そのボールは俺の真上。まるで俺にスパイクを放たせるような軌道。

 これはやるしかない!

 俺は、俺は足に力を込めて、高く飛ぶ。そして、先ほどから何度も見ている相手のバレー部のスパイクを思い出していた。そいつの真似をして手を高く。大きく構える。ボールはすぐに落ちてくるだろう。ボールは手元までくる。まるでここで打てと言っているかのようなボールの位置。これは打つしかない。俺は大きく手を振り抜く。ボールの感触が手に伝わる。ボールを見るまでもなくうまくいったとわかるほどだった。俺の着地とボールが相手のコートに落ちるのは同時ぐらいだったと思う。その瞬間、何かの大会かと思うほどの歓声が沸き上がった。拍手の音も聞こえるほどだ。それから、美鈴たちが俺たちの方にかけてくる。美鈴はその勢いのまま俺に抱き着いた。

「ゆーとおにいちゃーん!」

「よくやったじゃない。最後のは格好良かったわ!」(あかね)は、ぐっと親指を立てて見せる。

「何かすごい盛り上がりだったな。中々面白かったぞ」

 俺は他のチームメイトとハイタッチを交わした。それからそんな熱も冷めないうちに次の試合が始まる。俺たちの試合を見たせいなのか、やけに他の人も張り切っていた。まだまだ熱は冷めないようだ。

 俺たちの試合が終わってから、美鈴はバレーに興味を持ったみたいでスパイクを打つ練習をしていた。

「ふぅっふぅぅっ」美鈴は腕を上に投げたボールに向かって振り回しながら気合いの籠った声を上げていた。

 俺が少女に言われたとおりにボールを上に放ってやり、それに少女が飛んでボールを打つという方法で練習しているのだが、一向に当たる気配がしない。試合には興味ないのか、一切そちらには意識を向けない。

「おにいちゃん、飛ばない」

「んー、ジャンプしないで打ってみたらどうだ」

 少女は頷いて、その指示通りにやってみると、初めこそ中々当たらなかったが次第に当たるようになった。少女はそれを嬉しそうに俺に話してくれた。そのことがなんとなくうれしかった。

 そうしているうちに、二試合目は終わって、次の試合は茜と樹が出る試合になっていた。

「美鈴、茜と樹が試合に出るぞ」

 そういうととことことこちらに寄ってきた。それからコートの方を見る。ちょうど試合開始のところだ。

「あかねおねえちゃん、がんばれー」その言葉に彼女は笑顔で手を振り返していた。

 第一試合からの熱はさらに加速しているようで、他の観戦している生徒も応援している。そんな中で試合は始まった。茜のチームからのサーブが相手コートに入ると、すかさずトスして相手のコートに返す。基本的にそんな風にして試合は運ばれた。茜も樹も頑張って、ボールに食らいついたり、ブロックしたり、スパイクを打ったりと、頑張っている。二人もいつもはこんなに熱くなることはない。展開の早い試合だが、相手と交互に点を取り合って、接戦になっている。しかし、決着はすぐについた。勝ったのは茜のチーム。決め手は茜の綺麗なスパイクだった。

「あかねおねえちゃーん」美鈴は駆け出して行って茜に抱き着く。

「やったな、茜。樹を倒したな」

「ふふん。樹相手に負けるわけにはいかないわ」

「今回は調子が悪かっただけだって。次は勝つからな」

 次の試合があるので先ほどの安全な場所に移動する。樹が後ろで何か言いたそうな目をしていた。

「なんか唯斗と茜と美鈴ちゃんが並んで歩くと家族みたいだな」そんなことを言ったあと、彼は何かわからないが口を押えて、失敗したみたいな態度をとっていた。

「な、そんなこと言って冗談も大概にしなさいよ!」彼女は顔を赤くして、美鈴を連れて先を歩いた。

 何を怒っているのだろうか。そんなに怒ることは言ってないと思うのだが。それか、俺と家族なのが嫌なのか。まぁ、不良と呼ばれているしな。

「なぁ、樹。何をあんなに怒っているんだ」

「唯斗君は鈍感だねぇ」にやにやしながら俺の顔を見ていた。

 わけがわからない。俺が何かしたのだろうか。だが、今俺は茜に何も言ってない。さっぱりわからない。

「あんたたち早く来なさい。遊ぶんだから」茜が美鈴とこちらを見ていた。

 もう怒っているようには見えない。冗談みたいなものだったのだろうか。その考え事は一旦置いておいて俺は茜と美鈴のところに行った。

 こうして二時間あった体育が終わった。

次回は昼休みだ!

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