召喚契約篇Ⅲ
第一話の前書きに注意書きが書いてあるので、心配な方はまずそちらから見てください!
それでは第三話、スタート!
クラス中の期待に満ちた視線が、前方の自動扉に集まる。まあ、俺はあまり期待などしていないのだが。というか、また変な時期に転入してくるものだな。
俺がそんな思考を巡らせていると、皆の期待に応えるかのように自動扉が開いた。
そこにいたのは・・・女の子だ。
俺の席は、右から数えて四番目、前から数えて三番目で、全座席の数は六掛ける六で三十六席だから、今女の子が立っている位置からは少し遠いので、一つ一つの特徴は掴めないが、大まかな外見は把握できた。
腰辺りまで伸びた髪は、少し癖のある、金髪だ。そしてその体躯は・・・って、金髪!?
じゃあ、あの子は他校どころじゃなく、他国から来たということになるのか?
いや、親が日本人と外国人で、その間に産まれたハーフということもあり得るだろう。
だって、純粋な外国人がうちみたいなごく平凡な学校に来るはずがない。それに、うちの学校は交換留学なんてしたことがないらしいから、その線も考えにくい。
だとしたら一体・・・
だが、俺の思考を遮るようにして、担任の篠原がいつもと変わらぬ大声で言う。
「こんな時期に何だが、彼女はイギリスの公立高校から越して来た外国人だ!」
や、やっぱりか・・・まあ、その金髪を見れば誰でも外国人だと分かるだろう。
え、ちょっと待て、外国人って、もしかして純粋なやつ?ワタシエイゴワカラナイ。
でも、こうして見るとあの女の子、美人だな。
そう思っていると、篠原先生の適当な紹介が終わったようで、女の子に話が振られた。
しかしあの子、日本語は分かるのか?
だが次の瞬間、俺の先入観は覆された。
「えっと、わたしは、イギリスから来た、桐谷アリサと言います。この通り、日本語は話せるので、積極的に話しかけてくださいね。あと、先生が言ったことは間違ってて、純粋なイギリス人じゃなくて、父が日本人で母がイギリス人のハーフです。えっと、これからよろしくお願いします!」
えっ、ハーフなの!? というか日本語ペラペラじゃん。なら大丈夫か。
ていうか皆さん固まってますけど大丈夫?
まあ固まるほど驚く気持ちは分かるが、何もそんなに固まらなくていいだろ。
一方のハーフちゃんはと言えば、あまりにも返事がこないからか、クラス中を心配そうな目で見回している。
えっと・・・唯一無事な俺はどうすればいいんだろう。なんか気まずい。
だが、十数秒に渡る沈黙を破ったのは、いつも元気な体育会系教師の篠原先生だった。
「というわけだから、みんな、桐谷さんと仲良くしてやってくれ!」
さすが先生と言うべきだろう。あんなに黙っていた生徒たちが、それぞれ歓迎の言葉を送り、拍手も一斉に送った。
すると、その様子を見た桐谷さんが、ほっとしたように微笑んだ。
その後、拍手が収まったタイミングで、篠原先生が先を続ける。
「じゃあ桐谷さん、あの席に座ってくれ」
「は、はい」
今篠原先生が桐谷さんに指定した席は、一体どういうことか、俺の右隣だった。そういえば、朝から空いてたなこの席。
すると桐谷さんが、指定された席に向かって歩いてくる。だが不思議と、その姿に自然と目が吸い込まれた。
遠目から見ても綺麗な髪だったが、近くで見るとより一層、滑らかで流れるように見える流麗な髪だった。
その顔は、美人と言うより可憐と言った方が適切な造りだ。
大きな緑色の瞳に、小さめな体躯が、より可憐という印象を与える。
ふと、俺は桐谷さんをじっと見ていたことに気付き、慌てて目を逸らした。
だが、また横目で見てしまう。しかしそれは僥倖だったかもしれない。
何せ、横目で見る俺に、桐谷さんは優しい微笑みをくれたのだから。
その仕草だけで、中身は純粋ないい子だと分かった。いっそ友達になっちゃおうかな。
だが、ここで意表を突かれた。
小さな女神様は、微笑みだけではなく言葉までくれた。
「よろしくね」
「え? あぁ、よろしく」
一瞬、素っ頓狂な声を出してしまったが、なんとか挨拶を交わした。
だが、またしても奇襲を受けた。
「えっと、名前は?」
「は? あぁ、こ、古宮楓真だけど」
「あ、じゃあ、楓真くん、でいいかな?」
「え? も、もちろんいいけど・・・桐谷さん、でいいのかな?」
「うん。楓真くんの好きな呼び方でいいよ」
「じゃあ、桐谷さん、改めてよろしく」
「うん。こちらこそよろしく、楓真くん」
あれ? 俺、もしかしてクラスで一番乗りで話した感じか? なんか嬉しいな。
・・・けどなんだか今朝のアレみたいな感じが肌を突く気がするけど、まぁいいか。
でも、いきなり下の名前なんて、びっくりしたな。俺も思い切って「アリサ」って呼ぶべきだったか。いや、それはさすがに恥ずかしいな。
気がつくと桐谷さんは席に着いていて、その後の授業も、初日とは思えないほど落ち着いていて、ずっと様子を見ていたら、なんだか一日が速く感じられた。
その日の終わりのホームルーム。俺は桐谷さんの様子を思い返していた。
あの後もちょくちょく二人で話した。向こう(イギリス)のことや、日本に来たのは何回目だとか、この学校はどうかとか、そんな話だ。
でも驚いたことに、その話のほとんどが桐谷さんから始めたものだった。
多分、俺がこのクラスで初めて話した人物だからだろう。かなり気楽に話しかけてくる。
例えば、こんな風に。
「ねえ楓真くん。今日はなんだか、楽しかったよ」
「あ、あぁ、そりゃよかったな」
桐谷さんの囁くような声に、俺も囁き返す。
「多分、あなたのおかげだよ。本当にありがとう」
「いや、別に俺は何も・・・」
突然の感謝に、つい照れ隠ししてしまう。
なんか、今日は転入生に意表を突かれてばかりだな。ほら、また不意打ち。
「ねえ、よかったらあとで一緒に帰らない?」
「えっ!? べ、別に構わないけど・・・」
「やったー! じゃあ、ホームルーム終わったら行こっか」
「あ、あぁ」
ほんと、心臓が跳ね上がってばかりだ。
その後、担任の篠原先生の情熱話が数分続いていたが、俺はそれを聞き流してぼーっとしていた。
気付けば先生の長話も終わり、係の号令でホームルームは終わった。
俺はなるべく急いで帰宅の準備をした。そして、隣にいるハーフちゃんに声をかける。
「なあ、俺は準備できたけど、桐谷さんは?」
すると、桐谷さんは少し驚いた顔をしてこっちを向き、
「う、うん。わたしもできたから、行く?」
「ああ、行くか」
そんなわけで、転校初日の可憐な女の子をゲッツした俺であった。
・・・一方他の男子はというと、
「はあ⁉︎ あいつ、席が隣だからってズルいだろ!」
とか、
「転校生、ハーフという属性を持った可愛い女の子を一日にして絡め取るなんて! 己、覚えてろ!」
とか負け組のセリフを吐いているのだった。
正直、この状況を俺が体験していることが、未だに信じられなかった。
もちろん、美少女と一緒に歩いていることではない。
それは既に、妹の玲那や、幼馴染の悠華の存在によって否定されている。
では何かと言うと、それは、
「アンタ、ちょっと楓真に近付きすぎじゃないの?」
「そ、そんなことないよ! あなたの方こそ、なんで楓真くんに腕を絡ませてるの?」
「幼馴染としてのスキンシップに決まってるじゃない。言っとくけど、私は楓真とお風呂入ったことあるし、今さら腕を絡ませるくらいで是非を言われる筋合いはないわよ」
「お、お風呂⁉︎ そ、そんなのダメです! わ、わたしだって!」
と言って、桐谷さんは俺の空いている右腕に両腕をガシッと絡ませてくる。
・・・えっと、これっていわゆるシュラバですよね?
とりあえず嫌な予感がするので、俺は二人を止めにかかる。
「ちょっ、お前ら、とりあえずその辺にしとけよ! ほら、周り見て、周り!」
「アンタは黙ってて!」
「あなたは黙ってて!」
と、二人同時に叫ぶ。
はあ。これってどうすればいいんだよ。
そもそもどうしてこうなったんだっけ?
そんなわけで、少し時間を遡る。
俺と桐谷さんは、教室を後にし、階段を降りて三階から一階に移動し、下駄箱に着いたところだった。
この学校の下駄箱は(というかほとんどの学校がそうだろうが)、校舎の入り口から見て左が一年一組、右が一年二組の下駄箱、という風な造りになっている。
ちなみに、俺のクラスは一年八組まである中の一年五組で、向かい合う下駄箱は一年六組のものだ。
そして、悠華のクラスは六組。
さらに、そこの担任のホームルームは異様なほど短いとされている。
つまり、俺(と桐谷さん)を待っていたのは言わずもがな、だ。
そして、悠華の第一声がこれだ。
「その女の子、誰?」
これ以上幼馴染のコワーイところは思い出したくないので、後は皆さんの想像にお任せするとしよう。
そして今に至る。
「あ、あのさ、その、当たってるんだけど」
厳密に言うと、左腕は二つの柔らかいモノに挟まれ、右腕は若干当たってる(?)くらいだ。
「そんなに小さくないよ!」
えっ、読まれた⁉︎
「アンタ、どこからどう見ても小さいでしょ。全体的に」
なんだ、悠華がからかったことに突っ込んだのか。ふう、よかった。
それにしてもこの言い争い、いつになったら終わるんだ? 周りの目も気になるし・・・
というかこの二人、間に挟まれる俺の気持ちが分からんのか。とにかくなんとかしなければ。
あれ、そういえば、もうそろそろ悠華とは別れる頃じゃないか。
そう。あの交差点だ。
俺は勇気を振り絞り、左腕にしがみついてガヤガヤ言っているヤツに向けて言った。
「あのさあ悠華、喧嘩はその辺にして、もう交差点だから別れるぞ」
返答は意外と単純であった。
「え? あ、本当だ。じゃあね、楓真」
「じゃあなー」
「・・・わたしは?」
とまあこんな感じで面倒臭え幼馴染とはお別れできたわけだが。
もう片方は、家どこにあるんだ?
とりあえず聞いてみた。
「なあ、桐谷さんの家ってどこ?」
「ここ真っ直ぐ行けば着くよ」
「そうなんだ」
ということは、俺ん家方面か。
・・・なんか唐突に、毎朝悠華と桐谷さんが俺を挟んで喧嘩しているビジョンが浮かんだんだが。そうならないで欲しい。ケンカ、絶対、ダメ。
ふと、俺は桐谷さんを見ていた。
こんなに可愛いなら、さぞかし母はべっぴんさんなんだろうなぁ。きっと父もイケメンなんだろう。
「あ、あの、そんなに見られると、その、恥ずかしいよ・・・」
その声で、俺は目を逸らした。
「ご、ごめん。その、ハーフとなんて、喋ったことないから、つい・・・」
あーあ。もともと話題がないのに、さらに話しにくくなっちゃった。これどうしよ。
と、気付くと俺ん家の目の前に着いていた。
「あ、俺の家、ここだから」
「ここ? ・・・わあ‼︎ 大っきい! 本当に楓真くんの家なの?」
うわ、すごいな。目が文字通りキラキラしてるよ。
「そ、そんなに大きいかな・・・。桐谷さんの家って、どんな感じなんだ?」
「えっと、ここよりはだいぶ小さいけど、普通の一軒家よりは大きいかな?」
まず普通の一軒家に住んだ事がないから分からないな。
「へえ、そうなんだ。そうだ、よかったら、ちょっと入ってみるか?」
「え、いいの?」
「もちろん」
と言って、俺は桐谷さんを案内することになった。
ちなみに玲那はソフトテニス部があるはずだから、今はまだ帰っていないだろう。
適当に中庭を案内してから、一階、二階、三階と順に案内していき、そして最後は、
「ここが地下室だ。ここは少し汚いから気を付けて」
「へえ、地下室なんてあるんだ。別に、汚いのは気にしないから大丈夫だよ」
まあ、汚いというのは埃とかが積もってるわけじゃないけど。
それにこのご時世、埃なんてお掃除ロボットがやってくれるから、俺たち人間は気にする必要もない。
すると、桐谷さんが何かを見つけたらしく、俺に問うてくる。
「この、剣みたいなもの、なに?」
「え、あ、しまった!」
しまうの忘れてたーっ!
ヤバい、魔剣士から見たらあまりにも有名すぎる魔剣なのに、普通の人から見ればただの中二病グッズにしか見えない!
どうしようどうしようどうしよう!!!
「・・・ふうん、やっぱり」
と、言ったのは、桐谷さんか?
あれ、あんなギラギラしてるモノを見ても、特に変わってない?
というか、なんか、変だ。
「これ、なにか当ててみようか?」
おい、なんだよ。
なんでお前がそれを知ってるような素振りをしてるんだよ!
「これは、魔剣の」
一体、何がどうなってる?
「『四神器』の一つ」
何が、どうなってる!
「『ヴァルキュリア』、だよね?」
俺はありったけの覚悟と勇気を以て、問いかける。
「・・・お前は、魔剣士なのか?」
これが、現実。そう言い聞かせるように。
桐谷アリサは、事実を突きつける。
「ご明察だよ、古宮家八代目当主」
「・・・っ⁉︎」
なんで、帰国子女なんかが俺の秘密を知ってる⁉︎
その疑問をありのままに叫んだ。
だが、発せられた回答は、意外なものだった。
「わたしは、一人の『魔剣士』であって、一人の『機関員』でもあるからだよ」
「きかん、いん? なんだよ、それ?」
「これは本来、一部の国家しか知らない秘匿情報なんだけど、まあそのためにここに来たんだし、教えるよ」
そして桐谷アリサは、衝撃的な事実を述べる。
「『魔剣士機関』から派遣された、『双剣魔子』、桐谷アリサ。それがわたしの正体だよ」
全く、わけが、分からなかった。
どうも、やましゅんでーす!
いやいや、もう三話ですか! まだまだですねー!
さて、今回は金髪ハーフな転校生登場と、その桐谷アリサちゃんの衝撃的な正体発覚と、随分急展開な話になりました。
まあ、その急展開は意図的なものですが、驚いて頂けたなら幸いです。
いやあ、創作って素晴らしいものだなあ、と心の底から思いました。何せ、自分の好きなものを好きなように作れるんですから。まあ、テンプレに収まらない分、大変っちゃ大変ですけどね。
しかし、不思議ですよね。小説を書いている最中はアイデアが浮かびづらいのに、何か別のことをしていると、脳裏に突然具体的なビジョンが浮かんでくるのです。僕だけでしょうか?
あと言い忘れていたことがありました。
それは、文中のキャラ紹介が異様に長いことについてです。
髪や顔、体の特徴、主人公との間柄についてはいいでしょう。ですが、学力とか運動神経とか必要ないだろ!
ということで言っておきます。
決して字数稼ぎではありません。
誤解を招いてしまい申し訳ありませんでした。
ここでちょっとした予告を。
再来週辺りにキャラ・用語解説を主とした番外編のようなものを投稿します。
このキャラのことをもっと知りたい!
この用語を詳しく知りたい!
という方、必見です。是非、ご覧になってはいかがでしょうか?
それではこの辺で。
やましゅん