召喚契約篇Ⅱ
二話目から早速ペースが危ういですが、前話の注意書きをお読み頂き、以下の本文と後書きをご覧頂ければ幸いです!
「お前達はここで待ってろ」
なんだ、この声は。
「俺と母さんで、あいつらをぶっ倒すから」
どこだ、この場所は。
「いいわね、楓真、玲那」
思い出せ。
「迅さんの言った通り、私達はあの人たちを倒して」
まさか、この声と、この場所は・・・!
「きっと無事に、あなた達の下へ帰るわ」
親父と、母さんと、それから・・・
「それに、この街も守らなくちゃね」
天楼市!
そうか、これは五年前の・・・!
「そんじゃ、俺達は行ってくるぜ」
親父と母さんがいなくなった、あの日!
今まで、この最悪の出来事を忘れていたのか? 親父と母さんが五年前に失踪したという時点で憶えていなければならない事件を。
それに、親父と母さんが去っても、本当に俺は何とも思っていなかったのか? 答えは否だ。俺は本当は悲しかったのだ。
「待って! ・・・本当に、帰ってこれるの?」
この声は、玲那だ。親父と母さんを心配して呼び止めている。
「ええ、大丈夫よ。きっと帰ってくるわ、約束する」
ダメだ、親父と母さんは帰ってこない!
「本当に?」
現に今も、家には親父と母さんの姿は無いじゃないか!
「ええ、本当の本当よ」
ダメだ、約束なんかするな、玲那。
「帰ってこなかったら、泣いちゃうんだからね・・・っ!」
そうだ、俺も止めないと!
「ええ。・・・それじゃあ、行きましょう、迅さん」
何か、何か二人を止める方法は⁉︎
「ああ。・・・それじゃ、大人しく待ってろよ、楓真、玲那」
待ってくれ、待ってくれッ‼︎
頼むから、俺達を置いて行くなあああああああああああああああああああああッ‼︎‼︎‼︎
「・・・ちゃん・・・にいちゃん。お兄ちゃん!」
「がああッ‼︎」
「お兄ちゃん、しっかりして!」
しっかり・・・? だったら今のは、昔の夢だったのか?
「ああ‼︎ ・・・はあ! はあ! っ!」
「そう、落ち着いて!」
そうだ、落ち着け俺! ここは俺の家、現実だ!
「はあ、はあ、はあ、はあ。・・・っ。・・・俺は、一体・・・?」
「お兄ちゃん! ・・・うっ、よかった、お兄ちゃんが、ひっく、無事で、っく、本当によかった!」
気付けば、玲那が下着姿のまま俺を抱き締め、泣きじゃくっている。
「・・・玲那? お前、何で泣いてんだよ?」
心配になった俺は、顔中が涙で覆われた玲那に問いかける。
「だって、うっ、お兄ちゃんがずっと、ひっ、うなされていたから、っく、心配で心配でっ!」
そういうことか。やはり、俺は過去の記憶を悪夢として見ていたのだ。
「・・・すまない。本当にすまなかった!」
俺は必死に謝りながら、玲那を強く抱き締めた。
いつしか俺の目尻からも、涙が零れていた。
しばらくの間、泣いている玲那を俺自身も泣きながら慰めていたが、やがて涙が止まり、玲那は震えた声で俺に問いかける。
「・・・水を差すようで悪いんだけど、一体どんな夢を見てたの?」
「ああ、実はな・・・」
俺は、過去の記憶と言うべき悪夢の内容を、覚えている範囲で事細かに説明した。
「・・・そうだったんだね・・・私もたまに見ることがあるんだけど、やっぱり辛いよね・・・」
「えっ、そうなのか?」
「うん。まあ、たまにだけどね。でも、その時は、私のこと慰めてね?」
「ああ、慰めるさ、絶対にな。・・・でも、俺がこの夢をまた見たら、今度はお前が俺を慰めてくれよ?」
「うん、もちろん」
やはり、辛い記憶を共有している者同士で、互いに慰め合うというのは、これから一緒に生きていく上でかなり必要なことなのだと、改めて理解した出来事だった。
あの後、玲那に時間を聞いたら、午前七時になっていたことが分かり、しかもこの日は学校があるため、兄妹でいつまでも抱き合っている暇はなかった。
ちなみに今は、中学校に通っている玲那とは別れ、俺一人で登校中だ。
今日の日付は、二〇五〇年十二月一日、見事な冬である。
「ああ、寒い。これからどんどん寒くなると思うと、マジで憂鬱になる」
しかも、ここは東京西部。つまり、開発される前は山地だったのだ。東京と言っても、元から高層ビル群がそびえ立ってるようなヒートアイランドとは訳が違う。
しかも、二〇三〇年頃まで世界中で問題視されていた地球温暖化は、誰も予想していなかった停止の一途を辿り、理由も解らないまま、完全に温暖化は止まった。
これは本来なら、地球人として喜ぶべきことだが、現状から鑑みて、それはできない。
何故かって? それは簡単だ。
「寒いっ!」
からである。
俺は生まれた時からこの街に住んでいるはずなのに、未だにこの冬の寒さには慣れない。
くそ、これでも断熱性ブレザーの下に保温性カーディガンを着込んでいるのに、温もりを全く感じることができない!
これ、ひょっとしたら温暖化ならぬ寒冷化とか進んでるんじゃねえだろうな?
まあ、いつまでもこんなことを考えても寒さが消える訳ではないので、俺は思考を振り払った。その瞬間、ある存在に気づいた。
前方十メートルくらいのところに、壁に背を預けて人を待っている様子の少女がいた。
背は、一六八センチの俺より少し低いが、今は背を壁に預け、片膝を折るようにして立っているので、実際は俺と大差無いだろう。
すると、あちらも俺の存在に気づいたようで、その顔だけを俺に向けた。
その顔は、一言で言えば美形。
口、鼻、目、輪郭は全て綺麗に整っているし、その目は、顔のバランスに見合った絶妙な大きさで、しかも日本では珍しい水色だ。
さらに、その髪は目の色と同等に珍しい、澄んだ空色。
この顔を見ただけでも、そこらの男なら見惚れてその場に立ち尽くしてしまうだろう。俺も最初はそうだった。
そして、俺は止めていた足をまた動かした。
俺は歩きながら、少女に向けて手を振る。
すると向こうも、微笑みながら手を振り返してくる。
先に言葉を発したのは少女だった。
「おはよう、楓真」
発されたのは、美麗な外見に見合った清楚な声だった。
その声に、俺も挨拶で返す。
「おはよう、悠華」
すると少女は、微笑みながら俺の方に歩み寄ってくる。
この少女、南城悠華は、俺とは同校の同級生であり、小学生からの幼馴染だったりするのだ。
だが、改めてその姿を見ると、やはり美麗の一言に尽きる。
腰まであろうかという長さで、ウェーブがかった空色の髪、個々のパーツがそれぞれ完璧なまでに整った顔、その顔に見合った大きさの透き通った水色の瞳、そして何と言っても、一七〇センチに届かんばかりの長身と、スラッとした細さの中にも柔らかさを内包している体つき。これを見て卒倒しない男は逆にすごいと思う。いや、男どころか女までをも魅了し兼ねない美貌だ。
こんな『美』を具現化したような女の子と普通に挨拶を交わせる存在というのは、今考えてみると結構レアなのかもしれない。
いつまでもこんなことを考えてたら遅刻するかもしれないので、俺はこの思考を振り払った。
気づけば、悠華の顔が目と鼻の先にあった。
するとその顔は、口の動きに合わせて声を発した。
「どうしたの楓真? さっきからぼうっとしてるわよ?」
「い、いや、別に、何でもないから、とりあえずちょっと離れて!」
悠華は俺の言に対して、「どうして?」と疑問を投げかけてくる。もちろん恥ずかしいからだ。だがそれだけではない。周りの視線が俺と悠華に凝集しているからだ。
しかし、それはただの視線ではない。それぞれの視線の色が違っている。
ある一部は、「朝っぱらから何やってんだ?」という訝しげなもの。
ある一部は、「リア充爆発しろ!」という怒りにも似た憎しげなもの。
そして最も多いものが、嫉妬だ。
それは悠華に対してではなく、俺に対するものだ。
なぜ俺に向けられるかと言えば、悠華は男どころか女までをも魅了する美貌を持っている。それ故に、学校の中では、生徒会長と同等に有名人であり、人気者でもある。
いや、それには語弊がある。学校中の男子からは恋愛感情を抱かれ、女子からは憧れの的にされていて、一部の女子からは恋愛感情まで抱かれている。
だから、嫉妬なのだ。
まあ、それを本人に話すのはアレなので、後半部分を改竄して説明した。
すると悠華は、首を傾げてこう言った。
ただし、周りに聞こえる程度の大きさで。
「なんで恥ずかしいのよ? それに、周りの視線なんてどうでもいいじゃない。昔から、手を繋いだり一緒にお風呂入ったりしてるし、今更顔を近付ける程度で恥ずかしがるのはおかしいんじゃないかしら」
・・・あなたはそうかもしれませんけど私は思春期の男の子なんですよ? ていうかしれっとすごいこと言いましたよね⁉︎ そんなこと小学生以来してないし、女の子が言うことじゃないですよ! ちょっと待て、今の声量だと絶対周りに聞こえてたぞ! ああヤバい、周りの視線がなんか黒いオーラを帯びてきた気がするんですが大丈夫ですか⁉︎
「ほら、ボケっとしてないで行くわよ」
「なんで、こう、お前は、無神経なんだ?」
この俺の発言に対し、反論をしまくる悠華の相手をすることになったが、しばらく経ってからある重大な問題を思い出した。
それは、周りにいる者たちの視線。
俺はそれを思い出し、ほっぺたを膨らませながら抗議してくる悠華に向かって言った。
「今はそんなことより、周りをなんとかしようよ」
「ま、周り? 私は別に気にしてないけど、楓真がそう言うなら手伝うわよ?」
「なら助かる。じゃあ、あいつらを説得して来い!」
俺がそう言いながら示したのは、うちの高校の生徒達だ。学内で絶大な人気を誇る悠華なら、間違いなくそいつらを説得できるだろう。
「けど、具体的にどう説得すればいいの?」
「お前に任せる。とりあえず場の空気が静まればそれでいいから」
「ふうん・・・分かったわ。でもアンタは何をするの?」
「今日俺日直だから、走って学校に向かう」
「それを逃げるって言うのよ」
まるでその言葉が合図かのように、悠華は生徒達へ、俺は学校へ向かった。
あの後俺は、無事に学校へ到着し、日直の仕事を済ませたので自分の机に座り、ぼんやりとしていた。
突然、不意に横から声がかけられた。
「よう楓真。なんか元気なさそうだな」
「よう隼人。元気そうで何よりだ」
こいつは、神崎隼人と言って、俺とは中学からの親友だ。
客観的に見れば、茶色のチャラい髪型と、ボタンを二つ開けたチャラい服装が似合ったチャラ男だが、内面的な部分は普通のヤツだ。
すると次の瞬間、コイツの口から嫌な言葉が飛び出した。
「今朝、またアイツとイチャイチャしてたんだって?」
「ぶふっ⁉︎ い、イチャイチャなんてしてねぇよ! 大体、なんでお前が知ってんだよ!」
「まあそう怒るなって! たまたま見かけただけだよ。それに、中学の時にお前らが仲良いって知ったし」
「そりゃま、小学からの幼馴染だし、知ってるやつは結構いると思うけどな・・・」
「でも実際は、みんなに妬かれる始末」
「ていうか、俺たちただの幼馴染だぜ? みんなが思ってるようなことはしてない」
「そうかぁ? 俺は聞いたぞ、アイツの口からとんでもワードが出てきたのを!」
頼むそれだけは勘弁してくれ!
と思いながら、俺は真っ先に反論した。
「あれは、ゆ、悠華が勝手にデタラメ言っただけで、別に深い意味は・・・」
「普通女の子の口からあんな言葉は出ないと思うぜ?」
「うぅ・・・あれは本当だ。けど誰にも言うんじゃねぇぞ、言ったらどうなるか・・・」
「はいはい、分かった分かった」
危機を未然に防いだところで、タイミングよくチャイムが鳴った。
それと同時に、教室の自動扉が開けられ、大柄な男性が入って来た。
するとその男性は、威勢のいい声を張り上げる。
「みんなおはよう!」
瞬間、教室中に大声が響き、一テンポ遅れて返事が響く。
『おはようございます!』
すると男性、篠原慶一郎は満足そうに頷き、唐突に言った。
「実は今日、みんなに仲間が一人加わることになった!」
え? つまり、転校生が?
「いいぞ、入って来い!」
篠原の響く声に、自動扉は反応したかのように開いた。
そこにいたのは・・・
どうも、デビューしたての新人やましゅんです!
魔剣使いと召喚神第二話、お読み頂きありがとうございます!
いやぁ、もう一万文字も書いたのかと思うと少し嬉しいです!次は十万文字ですね!大変そうですね!
実は本日、初めてアニメキャラクターの絵を描いてみたのですが、案外上手く出来て嬉しかったです。
実はそのキャラクターは、『難民』という用語を生み出した某日常アニメに登場する、テデザリゼというお茶を基にした名前の女の子なのですが、自分の一番好きなキャラということもあり、失敗するのが嫌だったのですが、手探りで描いてみた結果、初めてにしては上々な仕上がりになったのでホッとしました。
ただ、それの所要時間は約一時間半、結構かかりました。ですが、描いている時は、なんだか自分の世界に入り込んだかのように夢中で描いていました。そしたらいつの間にか完成していて、いつの間にか一時間半経っていました。絵師の皆さん、お疲れ様です!
そういえば、前回紹介したうすたくさんが先日、最新話を投稿しました!興味がありましたら、是非ご覧になってはいかがでしょうか?
それではこの辺りで。
やましゅん