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8 カラ・ハン――第一中等から逃げてきた娘

 話は二週間程さかのぼる。


 ひどい風だ、と彼は思って、作業の手を止めた。

 がたがたと窓が音を立てて鳴っている。時々風がすきまから入り込んで高く細い、嫌な音を立てる。

 彼は冬がそう好きではない。最も春よりはずいぶんとましな季節ではあるのだが。

 春は、砂漠と草原に面したこの地区の人々が一様に嫌う季節である。暦の上で春と言っても、しばらくは気温も低く、時には名残の雪がおだやかどころではない勢いで降りつける。

 雪がやんだとしても、安心してはいけない。「おしゃれ好きは春秋に死ぬ」ということわざがあるくらいで、少し暖かくなったと思って、軽い衣服に変えて外へ出ると、見る見る間に空は曇り、風は吹き出し、一気に気温が下がる、ということがある。

 身体の方も油断していると病原菌のいいカモになる。風がもたらす一番単純で、また一番怖い病気は風邪である。

 だから、その瞬間彼は、ひどい風が吹き込んだのか、と思ったのだ。


「エカム居るか?」


 反射的に彼は立ち上がっていた。膝の上に置いていた本がすべり落ちる。

 扉を一杯に引いて、息を切らした友人がそこには居た。ただし、そこに居るはずのない友人が。


「ティファン!」

「お前は何回呼んだら気がつくんだ、馬鹿者!」


 口の悪さは相変わらずだ、と彼は思った。だがその恰好を見たら、絶対にその言葉は目の前の相手が出しているとは思わないだろう。

 頭を深く包むアイボリーのクロッシェ帽に、大きな焦げ茶色の不織布で作られた、肩を深く覆う刺繍入りの角張った飾り襟、その襟の下にはかっちりと型をとって都会の服屋で注文を取って作られたらしい、襟よりはやや淡い茶色の上着、同じ色のひだはないがたっぷりとしたどっしりした織りの、足首よりはやや短いスカート、黒い編み上げた靴。

 そして何と言っても、耳の下位で切り揃えた髪。この地方では絶対に有り得ない髪型。この地方だけではない。そんなふうに、女が髪を短くするなど、帝国広しと言えども、一ヶ所しかない。

 一ヶ所。

 何処をどう見ても、それは帝国最大の居住区である副帝都の最新モードであり、それを身にまとう目の前の相手は、そこに帰る家を持つ、ある程度以上余裕がある令嬢にしか見えない。

 だが彼が間違える訳がない。この目の前の相手は、幼なじみのカン・ティファン・フェイだ。

 一昨年、このカラ・ハン族の中等学校初等科を卒業した子供達の中で、たった一人選ばれて東の学都である東海華市の中等学校高等科へ留学した、彼の一番の友人だった。


「とにかく中へ入れてくれ。この恰好を何とかしたい」


 ティファンはそう言うと、エカムの了解を待つまでもなく、ずかずかと家の中へと入って行った。

 勝手知ったる他人の家とばかりに彼女はまっすぐ彼の部屋へ向かう。そして入るとすぐ、肩を覆う襟を取り外す。ああ重かった、と彼女はつぶやく。それに続いて上着を取り、さらにはその下に着ていたぴったりした内着まで取ろうとしたので、エカムは驚いた。胸が見えそうになったので慌てて彼は窓のカーテンを閉め、勢いよく部屋から飛び出した。


「…ちょっと待て! 着替え持ってくるから…扉閉めとけ!」

「お前の服にしろよ! 間違えてお前の姉さんの持ってきたら、ぶち殴るぞ!」

「判ってるよ!」


 だが考えてみればそれもまたおかしいのである。

 滅多に目にしないものを見てしまうと、胸が躍る。言われた通り、エカムは自分の服の入っている箱を引きずり出し、その中から彼女にも着られそうなものを選びだした。

 もともとこの地方の服は、たっぷりしたものが多い。たっぷりとした綿か毛の服を腰の所でたくしあげているのが普通である。そこまでは男女兼用である。飾りのあるなしで違いはあるが、形としては同じである。

 その下にたっぷりとしたズボンを履き、余った裾を長い編み上げ靴に入れてしまうのが男もので、下着を一枚増やして短いスカートにするか、やや短いズボンを裾を広げて履いているのが女である。

 そう言えば昔からティファンはその女の着方が嫌いだったな、と幼なじみは思い出す。これじゃ馬に乗れない、木に上れない、弓や剣の練習もできない、と言っては、母親が心配するのもよそに、自分の兄の服をぶんどっては着ていた。

 それでも時々、特別な日、三年に一回の祭だの、一年に一回やってくる帝都視察団の出迎えの時などには、「女の子の晴れ着」を嫌でも何でも着せられた。そんな時は、その必要な時間が過ぎると、彼女はいちもくさんに飛び出す。そして、たいていそんな催しものが行われる広場の近くにあるエカムの家に飛び込んでは着替えをしていくのだ。

 もちろん小さい頃は、それこそ男も女もないから、ティファンはエカムの家で彼の目の前でぱっぱっと脱いでは着替えていたのだが。


 だが。

 だがなあ。


 エカムは頭を抱える。俺達とっくに結婚できる年齢なんだぞ!

 扉を半分開けて、服を一式押し込むと、


「ここへ置いとくから、着替えたら言え!」


 彼は大声を張り上げた。



「…腕が余る」


 形のいい眉を片方上げて、ティファンは余った袖を手先で掴む。折ればいいだろうが! とそれを見てエカムは一つ二つと折り上げる。

 目の前には彼の母親が入れた甘い乳茶がポットに入れられて置かれていた。

 母親はちょうど彼女の着替えが終わった頃に用事があって出かけていた近所から戻ってきた。そして彼女の短い髪には驚いたが、それはそれ、息子の幼なじみが久しぶりに来た、ということで用意してくれたのだ。

 …だが彼女が息子の服を着ていたことに関しては一体どう考えていたやら。


「仕方ないだろーが! お前が俺のと言ったんだぞ!」


 するとティファンは彼の腕をぐっと掴むと、


「全くこんなめきめきと大きくなりやがって」


 それを聞くと彼ははあ、と彼はため息をつく。


「…お前本当に学都へ行ったの? その言葉何とかなんねえ?」

「お前相手にいちいち丁寧に喋ってどうする。あんな喋り方するのは向こうだけで充分だ… あ、でももうすることもないな」

「? どういう意味だ?」


 いぶかしげに彼は訊ねる。


「言葉の通りだ。そんな言葉づかいをする必要はない。もう向こうへは戻らん」

「は?」


 学都留学は三年のはずだ。そこで成績が良ければ、さらに男なら五年の高等教育が受けられる。女は三年だった。

 年に一人、である。その機会と援助が帝国学府からこのカラ・ハンの地に与えられるのは。


「耳でも悪くしたのか?あたしは戻らん、と言ったんだ」

「…聞こえたよ。だけど」

「何度も同じことをぐだぐだと聞くな」

「何でだよ?」

「何度も聞かれるのは好きではない。忘れたのか?」

「じゃなくて、どーしてもう戻らないんだよ?」

「お前聞いてないのか?」


 今度はティファンの方が驚いた。


「何を」 


 ティファンの目が鋭くなる。


「辺境学生狩りだ」


 聞いたことがなかった。エカムは首を横に振る。


「学都各地で、辺境学生が不穏な動きをしている、ということで、官憲が最近適当な口実を上げては学生を逮捕監禁している」

「本当か?」

「東海華も例外ではない。エカムそちらには連絡が行ってないか?あたしが死んだ、と」

「…いや…」

「ではもうじき行く筈だ。自殺したとか何とか」


 そう言ってからティファンは指で何かの図形を空に描いた。

 彼女達の部族にとって自殺は禁忌である。ひいてはその単語すら、忌むべきものとして、口に出した時にはそれを打ち消すための動作が加えられなくてはならない。

 ティファンは腕組をして唇を噛む。やや厚い唇が赤く染まる。まあ呑め、とエカムは彼女の一杯目が空になった器に茶を注ぐ。ティファンはすまん、と一言つぶやくと、それを飲み干す。


「やはりこっちの茶はいいな。向こうのは薄すぎだ」

「そうなのか?」

「全然風習が違う。こっちのを真似しても結局向こう側のものにしてしまう。それでそれを押しつける。全く」


 ぶるぶる、と彼女は頭を振る。


「冗談じゃない」

「…で学生狩りの方は」

「言った通りだ。あたしの学校も例外ではなかった。だからあたしは逃げてきたんだ」

「お前が行ったのは第一中等だろ?」

「ああ。東海華でも最高ランクだ。だがな、だからと言って例外にはならん。普段あれだけ区別しておきながらそういう所だけは一律とは笑わせるな」

「よく逃げてきたな」

「まあな。隣室の友人が服を貸してくれたし。髪も切ってくれた。切りたくはなかったが… だが切ってみるとなかなかいいものだな。楽だ」


 ふるふると髪を振ってみせる。


「頭が軽い」

「…はあ」

「こんな恰好してたおかげで大陸横断の三等車にもちゃんと乗り込めた。あれには感謝している」


 エカムはとりあえずうなづくしかなかった。


   

 ティファンが戻ってきた、という知らせはカラ・ハン族の季節居住区カンジュルに一気に広まった。駅からエカムの家へ向かう時に、彼女の姿を見た者が一気に広めたのだ。

 そうしたら、脱いだ服と荷物を手に、自分の家へ向かう途中にとりまかれた。


「おおーっ!久しぶりだなあっ!」

「元気そうだなあっ!」

「また一段と男らしくなって」


 などと彼女のもと遊び仲間達は口々に言う。その性格のせいか、恰好のせいかともかく、彼女には男の友達の方が多かった。


「すごーい、似合う」


 その中で唯一の同性の友人が、ぷっつりと切られた髪をいじりながら屈託なく笑う。そおだろう? とティファンもしゃかしゃか、とその髪を揺すって見せる。


「でも大変だったんじゃあなあい?だってこないだ、シャファさまが公務でスージャンへ行ってらしたんだけど、その時も駅の警備は結構厳しかったって」

「…まあな」


 そうつぶやくと、ティファンはクロッシェ帽をぽん、と友人にかぶせる。


「アガシャの方が似合う」

「え?これって」

「副帝都のアルタファン製とか言ってた。だがどーもあたしには合わない。アガシャにやる」

「…いいの?」


 アルタファンは、この辺境地でも名が知られている、一種のブランドである。高価で、辺境のこの地では滅多に手に入らない。

 似合う似合う、と周りの男達の声が上がる。ありがとう、と嬉しそうにアガシャはティファンに抱きつく。


「また後で皆で会おうね。いろいろ知らせたいことがあるんだ」

「知らせたいこと?」

「一口では話せない、ダルサンタイ・カム。明日だ。…いや、族長に話し終わったらいつだっていいんだ。いっそ今晩にするか」


 おう、と男共の声が上がる。


「だがちょっと待ってくれ。今はまず用事があるんだ」



 ドゥヤ・エカム・テイルはひどく混乱していた。

 カン・ティファン・フェイは彼の幼なじみであり、それこそころころと男も女もなく遊び倒していた頃には自称「ライバル」だった。

 この地方の少年少女は、十歳程度まで、男も女もさほどなくころころと育つ。とは言え、それは少女に初潮が来るまでのことだ。どれだけ小さかろうと、月経が来るようになったら、そう寝るも起きるも遊ぶも転げ回るも、馬に乗るも一緒に、という訳にはいかない。

 まあ、とは言っても、この地方は基本的に実力主義の気風を持つ。転げ回ったり一緒に水浴びしなくはなっても、まだ馬に乗るだの弓矢の腕だの、そして学問だの、一緒に競い合える部分は十分あった。

 確かに「男の仕事」「女の仕事」と便宜的に分けられてはいるが、それは特性で分けられているだけのことなので、例え男であっても、外へ出て馬を追い回すより、手先の細かい作業を得意とする者は「女の仕事」である縫い物やジュータン織りだのに向かうこともある。また、逆に女でも、家の中に居るだけじゃ血が騒いで仕方がない、という者は、馬に乗り、家畜を追い回すことになる。

 要は好みと適性だった。

 辺境の地の自然は厳しい。その中で生きていくには、体裁だの伝統だのだけではどうにもならないこともある。まず第一は生き残ること、だった。

 それがカラ・ハンの地の気風だった。

 さてそういう気風であったから、五年前、「最優等生を一名留学させるように」という帝都教育庁の命令に対し、素直に従った結果、カン・ティファン・フェイがそれに当たってしまった訳だ。

 帝都教育庁は、基本的には女子教育にはさほど熱心ではない。現在の皇太后が皇后だった頃、六代帝の時代ならともかく、今上の皇帝は、教育にはそう熱心ではない。教育庁側が復古調になっていこうと、気にすることでもなかったのだ。

 したがって、教育庁側では、男子ではないのか、男子にしてはくれまいか、と何度かカラ・ハン側に打診したものである。だがカラ・ハンの族長ディ・カドゥン・マーイェは「彼女が今年の最優等生だ」と言って、断固として断った。

 現在の族長はまだその任についてそう時間が長くはない。歳もまだ、三十を少し過ぎた程度である。この地の族長は、世襲ではない。彼もまた、数名の候補の中から数年前に正式に選ばれたものである。彼は自分が族長に選ばれた際、同時に副族長に選ばれたファイ・シャファを翌年妻にした。二人の間に子供はいない。


「…もっと速く歩けんのか! お前いつからそうとろくなったんだ!」


 友人達ととりあえず別れたティファンは、背後のエカムにやや苛々しながら声を投げる。エカムは立ち止まると、何と肩で息をついている。


「お前が速いんだよ、ティファン」

「あたしは普通だ! エカムお前が遅いんだ!もういい、先に行く!こっちでいいんだな!」

「…はいはい」


 エカムはひらひらと手を振る。別にさぼっている訳ではないんだがな。彼は自分の膝をそっと撫でる。

 ティファンはそのまま更に歩く速度を上げていく。途中で何人かの人々とすれ違う。


「あんらま、ティファンじゃないかい!」

「何だねその変な頭は!」

「でかくなったねえ、たった一年なのにさ」

「えーっ! ティファン? ティファン帰ってきたの!」


 連鎖反応的に彼女にかける声は増えていく。一人に一人に返したくもあるが、その余裕は彼女の気分にも身体にもなかった。ただいまーっ、とティファンは早足で歩きながら、一言大声で叫ぶ。


「何処いくんだーい!」

「族長んとこ! 今居るの?」

「留守だよ」


 ティファンの足が止まる。


「ああ? 留守?」


 留守だと答えた一人の前につかつかと歩み寄る。


「留守って言った?」

「うん。今隣町の局に行ってる。何かあったのかね」

「んもう!」


 彼女は手に掴んでいた服を思いきり地面に投げつけようとする。だがその時、その手を掴まれた。      


「服が可哀想」

「シャファさま!」

「族長はお留守だけど、私はずっと居たよ。族長に何の用だったんだい?カン・ティファン」


 そしてひょい、と副族長の手があわや砂まみれになるところだった帽子を助け出す。そしていい帽子だね、と穏やかに表に裏に返す。


「…族長に… 伝言を。手紙を頼まれたんです。必ず直接渡せ、と…」

「直接。じゃあ少しこちらで待つがいいよ。彼はもう少しで帰ってくるだろうから」

「ありがとうございます」


 ティファンにとって、この副族長は憧れの女性だった。

 伝統的に長い髪を二つに分けて長い三つ編み。それが馬を走らせると大きく鞭のようにうねる。身体は大柄では決してない。どちらかと言えば小柄である。声も、その口調とは裏腹に、結構可愛らしいものである。

 だがこの人は副族長なのだ。他にも候補は居た。候補の大半は男だった。彼女の倍くらいの大きな体の者も居た。決める際には、紅白戦が行われる。その中で、最もよく戦った者が選ばれるのである。誰もが、他の若い、大柄な男が勝つと思っていた。

 だが彼女が勝った。彼女は自分にそう体力がないのを知っていたから、頭を使い、呼吸をはかり、ある瞬間を待ったのである。そして飛び道具。これだけは彼女にも自信があった銃と弓。もちろん模擬戦闘だから、身体に当たっても相手にはケガをさせないように細工してある。だが当たったことは判るように。当たると色が付くのだ。…ファイ・シャファは、誰よりも人に色を付け、誰よりも自分を白いままで保った。

 そして誰もが彼女を認めたのである。

 ファイ・シャファは、ティファンが学都の一つ東海華市の第一中等学校へ行く前から、そういう存在だった。何故彼女が女の身でそうなろうと思ったかは定かではない。彼女もそのことに関しては笑って答えない。ただ「それが夢だったのよ」と繰り返すだけである。

 さてティファンであるが、彼女はもちろん族長をまず尊敬している。

 族長であるということは、このカラ・ハンで一番強い戦士であり、また人をとりまとめ、率いていく力があると認められた者である。若くしてその地位についたに関わらず、彼は実によくやっている。確かに尊敬に値する。同世代の少女達はまず大半が族長に憧れる。憧れるに値する容姿でもあった。

 彼女にも、もちろんそういうところはある。小学校の高等科くらいになるとあれこれと出てくる甘く夢見がちな話の中で、彼は主人公と化した。

 だがそれと平行して、ティファンは副族長ファイ・シャファをも尊敬と憧れの対象としていた。

 その尊敬は族長に対するそれとは違う。族長に対する憧れが、「彼の横に居たい」という実に甘い夢であるのに対し、シャファに対するそれは、「彼女みたいになりたい」というものだった。

 まあだが、そう思う少女はそう居るものではない。気風が気風だから、馬鹿にする者はいないが、ああいうふうになりたいのかい、大変だねえ、とよく言われたものである。


「それにしても、ティファン、元気で何よりだ。エカムはずいぶんお前のことを気にしていたが… 奴には会ったのか?」

「…ええまあ。シャファさまどうしてそこでエカムが出てくるんです!」


 シャファは家の中で待てばいい、と言ったが、ティファンはお天気もいいし、と入り口に座り込んでいた。


「だってお前達、昔はいい競争相手だったじゃないか?」

「昔は昔です!」


 あははは、とシャファは笑った。


「だがお前ももう十八じゃないか?」

「あたしまだ十七ですよ」

「どっちだっていい。私が長に惚れたのも、その位の頃だ」


 現在のシャファは二十代後半らしい。


「何言ってんですかシャファさま。あたしと奴はそんな関係じゃあないですよーっ」

「さあて」


 シャファはにやにやと笑う。   

 やがて遠くから馬の駆ける音が聞こえてきた。


「…ああ帰ってきたようだ」

「隣町の局ということですが?」

「何だか知らないけれども、今朝いきなり高速通信が来てね、華西管区の区役所から呼び出されたんだ」

「管区の… まさか」


 ん? とシャファは首をかしげる。


「何か心当たりがあるのか?」

「…あると言えば大ありで…」


 足音が止まる。近くの共同の馬付き場に止めているのだろう。ティファンの耳に、水の音が飛び込んでくる。


「ずいぶんと飛ばしたようだ。ファ・デュががぶがぶ水を呑んでいるようだ。何があったっていうんだ?」


 やがて桶を置く音がする。そして砂を踏む音が…顔を見せる。


「はあ? ティファンお前生き返ったのか?」


 カラ・ハンの族長は、自分の家の前で立ち上がった少女を見て、開口一番、そんな声を立てた。

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